増える面倒事
何か漠然とした不安を残したままダフニスと別れ、自室に戻ると枕を抱きながらベッドに横たわりこれまでの聖女関連の騒動を思い起こした。
初めてルームメイトとしてロザリーに会った日、怪しげな男に襲われている彼女を助け一応事なきを得たが、その後もフィールドワークにて再度襲われ、三度目は邪魔ばかりをする私を標的に変えてパーティー会場を巻き込んで襲って来たがレイの協力もあって、何とかそれも撃退したのは初学期末の事だ。
最終的に全ての事案は教皇ニベルの独断による犯行と結論づけられ、表向きは任期満了という形で発表されていたが、実際は更迭と言う形で教団本部で投獄されているとアルトレー騎士団長にこっそり教えてもらえた。いずれにせよ未だマージナルの中には他の世界からの勇者を求めている者はまだまだいるのだろう。
そんなゴタゴタが終わったと思えば、新しい聖女が登場とせわしない事この上ない。初めてこの国にやって来た時から聖女問題に振り回されている気がする。
暗くなった部屋の天井をジッと見つめながら思いを巡らせていると、部屋の外で夕食を知らせるハンドベルの音が鳴り響き、私は部屋を出た。
◇◇◇
――数日前のオデュッセイ家屋敷
「お嬢様?ロザリアお嬢様~」
アルカンディア帝国への訪問から屋敷に帰宅し、旅の疲れを癒しながら午後のひと時をティータイムで過ごしていたロザリアはドアの隙間から顔を出して自分を呼ぶセティアの方を振り向いた。
「どうしたの?」
「旦那様が急にお帰りになり、お嬢様を自室でお呼びになられてます」
「なんだろ?怒られるような事はしてない筈なのに…」
「さあ?ただ、何か焦っておられる様子でした」
”何かしちゃったかなあ?”と心当たりがいくつもある様な表情で、ロザリアは父の書斎がある部屋へと足を向ける。
屋敷の三階に上がり、一番奥のひと際重厚な扉をノックすると中から”入りなさい”と声が響き、イソイソと扉を開けて入って行くと、書斎に座った父とすぐ横に立つ秘書のホルトスがロザリアを見るなり溜息を落とした。
何と失礼な連中だろうかと思いつつも、取り合えず挨拶をする。
「お帰りなさいませお父様。何かご用件がございましたか?」
「うむ、よく聞くのだ。先ほど城にて新しい教皇の挨拶があったのだが、その教皇がとんでもない者を連れて来たのだ」
「とんでもない者?」
「……聖女だ!聖女を連れて来たのだ」
一瞬、何言ってんの?聖女なら目の前にいるでしょ?言いかけたが、父の顔には困惑な表情が浮かんでおり、口をつぐみ改めて聞いてみる。
「えっと、それは私以外の聖女が出て来たってことですか?」
「そう言う事だ。しかも水晶の輝きもお前より強いのはワシも確認した」
「…まあ、聖女能力者が二人になったとなれば魔物用の結界石の修繕は楽になりますね」
「はぁぁあ、なんでお前はそう呑気なんだ?お前の地位が脅かされてるんだぞ?しかも相手は平民出と聞いているし、王子の婚約者候補から外されるかもしれん!危機感を持て」
「と言われても急に能力が二倍になるとかありませんし、そもそもジルベール殿下はそんな目先の欲に囚われる方ではありませんよ、それにキオーネ家のメティス様は聖女ではありませんが候補者です」
「まあ、たしかにお前の言う通り殿下はそんな安っぽいお方ではないが…ともかく!お前は新しい聖女に出し抜かれない様、努力を重ねなさい」
「あ、はい」
結局、出し抜く出し抜かれないなどというのはお父様の立場ってやつの心配をしているだけなのは分かり切っていた。公然の秘密を利用して好き勝手やっていた父親には自業自得と言う言葉がぴったりな感じと思ったが、それにしても急に現れた聖女に関してはロザリア自身も興味があった。
「あの、お父様?その聖女ってのはどこかでお会いできるのですか?」
そう聞くと、面倒くさそうに隣に立っているホルトスに指示を出して、自分はパイプ煙草を吸い始めていた。正直匂いが付くから一人の時に吸って欲しいなと考えていると、ホルストは資料を片手に口を開いた。
「えっと、名前はリーナで、西のアンカーロイ出身、お嬢様と一個下になります。それと、二学期からは同級生として学園に通うらしいですから、自ずと会う事にはなると思いますよ」
「ふ~ん…って編入なの?」
「はい」
淡々と答えるホルストの返答に困惑しつつ、ロザリアの頭の中にはいくつかの疑問が浮かんでいた。それだけの能力を持った人物が、かつて自分を襲って来た黒フードの男が見つけられなかったのには何か理由があるのか?それと自分自身が持っている前世の記憶をその聖女は同じように持っているのかも気になる所だ。
◇◇◇
――学園の食堂
「ペルちゃん、お隣良いかしら?」
「ええ、どうぞ」
料理の載ったトレーを私の隣のテーブルに置くと、会長は静かに席に腰を下ろした。この時期は食堂を利用する生徒の数は二十人に届くかどうかしかおらず、食事はセルフで運び席も自由に座れるので気兼ねなく利用できるのはありがたかった。
寮母の指示の元、お祈りから始まり食事が開始されると、方々皆自由に会話が弾み始めた頃パンをかじる私に会長が話しかけて来る。
「そういえば、ペルちゃんってレイ君の婚約者になったのよね?」
「はあ、まあ国同士の話し合いの結果でそうなってます」
「なんか、あまり乗る気ではない?」
「いえ、違うんです。何と言うか、レイを気に入らないとかではなく唐突に決まった事なので…」
「実感が湧かないか、まあ本格的に動くのは卒業後だし今はそこまで考えられないってとこね」
「そんな感じです」
多分新学期が始まれば、しばらくこの話題で持ちきりになるのは予想できる。良い悪いどちらにしろレイに迷惑がかからなければ良いのだが。
「話は変わるけど図書室で話した聖女の事で、わたくし一度学園長から紹介されたんですの」
「ああ、例の…どのような方でした?」
「どんなと言うと…難しいわね、たぶんこれからは直接見る事は多くなると思うから、貴方の目で確かめるのが良いと思うわ。ただ、彼女は時勢に疎く多少の無礼な振る舞いも多めに見てあげて欲しいとわたくしから言える事はそんな所かしら」
「なるほど、百聞はって事ですか」
そう返すと彼女は小さく頷いた。生徒会長が説明に困る人物というのはどのような感じなのだろうか?同じ聖女でロザリーもちょっと変な所はあるが、貴族としての振る舞いは元より話が通じないような人物ではない。一応注意しておく事に越したことはなさそうだ。
夕食が終わり、会長と別れお風呂までの時間に何しようかと考えながら寮へと歩いて行くと正面から学生服を着ていないドレス姿の見たことある女性が歩いて来るのが見えギクリとした。
(あの人、たしかロザリーと勘違いして人の事ぶん殴ってきた…)
「あら居たわね。戻って来てると聞いて、貴方の事探していたのよ」
相変わらず尊大な態度で腕を組みながら私を睨んで来る。またわけわからない事を言って殴りかかって来ない様に、警戒しながら聞いてみた。
「えっと、確かプリメラ侯爵令嬢様でしたか、私に何か御用でしょうか?」
「単刀直入に言うわ!あなた、わたくしの諜報員になりなさい」
「…は?」
聞けば、例のロイール第一王子が新しい聖女の話を聞きつけ下の者を動かして、色々調べ回っている事が侯爵令嬢の耳に入ったらしい。再び新しい聖女を婚約者にするという暴挙を阻止する為に、学園にいる私に諜報活動をしろというのだ。
「留学生ってそんなに自由に使えるお金ないのでしょう?当然、報酬も出すし活動資金に糸目は付けないわよ」
「あの、なぜ私なんでしょう?」
「貴方馬鹿なの?この学園で貴方しか知ってる人いないからよ」
ドヤ顔で答える彼女の中ではいつの間にか被害者が加害者のお友達に昇格してるらしい。




