御前会議
――アルカンディア帝国会議室
定期的に行われる御前会議では、皇帝を中心に主要四家が円卓を囲みさらに外周に地方領主と各部族の長が集まって会議が進んでいた。
「それでは陛下の御意を得たので、各地域の治安維持に関しては先の計画に則って進めて貰いたい。次に対外政策に関しての報告をお伝えする」
宰相であるベクタールは周りを一瞥してから書類に目を落とす。
「これはアルドリア・オーブ・マージナル国王からの提案を受けた形で数回の会議を経て、この度ガデライン・クロノス将軍のご息女ペルディータ嬢とマージナル領アナンケ辺境伯のご子息レイソード殿との婚約が合意した事を皆に報告申し上げる」
ベクタールの報告に会場は少しざわついていたが、ムラクモ将軍がザワツキの中心をジロリと睨むと直ぐに静かになった。
「この件に関して心配するお歴々も居られると思うが、その事も当然考慮した上で皇帝陛下及び四家の承認を経て決定したという事を踏まえて欲しい」
「まあ、獣王殿のお嬢ちゃんには申し訳ないが、あの鉄壁なアナンケ領に対してある意味楔を打ち込めた事は大きな成果だと思うが、当然国内には面白くないと思っている輩もいるだろうなあリンドウ殿?」
ムラクモ将軍は腕組みをしながら少し斜に構えながらチラリと正面のリンドウを見るが、リンドウは特に気にする様子もなく組んでいた足を組みなおすと着物の裾がはらりと流れ、御御足をちらりと覗かせる。
「そうね、でも獣王殿のご息女誘拐の件は同じドラゴニュート族の仕業という事は申し訳ないと思うけど、わたくしも国内全ての同族を一元管理しているわけでもないから一部の跳ねっ返えりの罪までアマツ家で何とかしろと言われても困りますわ。それに最近首都の繁華街では鬼族のチンピラ風情が悪さをしてる事まで、鬼王殿のせいにされてもお困りになるでしょう?」
「なっ!」
ムラクモ将軍は顔を赤くして拳を握るが、隣のガデライン将軍に抑えられる。
「まあまあご両人、うちの娘は無事帰って来ております故、そう熱くならずに。それに今は陛下の御前ですぞ」
不服そうなムラクモと涼しい顔をしているリンドウが黙ったのを確認し、玉座に向き直ると陛下はコクリと頷きベクタール宰相に会議の進行を促した。
「ともあれ令嬢誘拐の件は参考人証言を元に、犯人に関しては専門機関が捜査をしておりますので現段階では不用意に誰かの責任とかはおっしゃらないで頂きたい。次に、リンドウ殿からの申請に関してなのだが改めて説明をお願いする」
「はい、では皆さまに承認して頂きたい案件としましてかつて魔女一族が追放しましたエント一族の復帰を考えております」
リンドウがそう発言した途端、魔女側の代表が慌てて挙手して来たのを見てベクタールは指名する。
「魔女代表ガラハス殿、どうぞ」
「は、皆さまご存知の通りエント一族は異世界からの召喚術をマージナルに売り渡し、我々アルカンディアに厄災をもたらした一族の末裔です。それを復帰させるなどとは大問題ではないでしょうか?ましてやご提案者のアマツ様に至りましては御当主様を失っている一番の被害者ではありませんか」
ズレた丸眼鏡を掛け直し、汗を拭きながら立ち上がったガラハスは少し声を上ずりながらもリンドウに目を向けて、反論を試みるが全く動じた様子はない。
「たしかに遠因としてはそうですが、実際手に掛けた者は違いますしすでに追放されてから五百有余年で世代が変わり二十代以上にも及びます。それに彼女らは一族を上げて広まった召喚の書をことごとく処分し、つい最近違法に隠し所持していた書物も処分がなされたという報告もされてます」
「ですが…」
何か反論をしようとするガラハスの言葉を遮り、リンドウは言葉を続ける。
「それにこれだけの魔法を開発した優秀な一族を外に追いやっている事態、我が国にとって損失ではないでしょうか?」
「なるほどたしかにリンドウ殿の言い分には一理あるし俺はその案を受け入れても良いと思う。ただ一つだけ聞きたいんだが、そこまで肩入れする理由が知りたい」
ムラクモは渡されている資料を片手にポンポンと叩き、この流れで誰もが思う疑問を投げかけるとガラハスもリンドウの返答を待ったが彼女は周りを一瞥して答える。
「別に変な事でもないでしょう?一番被害を被った我がアマツ家に対して誠意を見せて申し入れして来たのだから、それに先ほど言った通り我が国には利があると」
「ああ、わかったよ。で?獣王殿と宰相殿はどうなんだい?」
「クロノス家としても聖女が発現している状態でのエント一族の放置は問題であると思う。それを踏まえた上でリンドウ殿の提案を支持をする」
「そうだな、アガランド家としても皆と同じ意見だ。ガラハス殿はどうかな?ここいらでそろそろ許してみてはどうかな?」
「……わかりました。四家の方々が賛成ならばこれ以上いう事はありません。しかし、魔女の里に受け入れるかは長老達次第なのでそこは我々で決めさせて頂きたい」
「そこまでは干渉しないわ。里の受け入れが難しいなら、言い出しっぺのアマツ領で面倒みるから」
「では陛下、此度の件の採決を」
ベクタールは会議の行く末を見守っていた若き皇帝に採決を促すと、コクリと頷き会議場を一通りみわたしてから口を開いた。
「うむ、遠因とはいえ、余も思う所が全く無いとは言わないが、五百年以上の流浪の民として罰を受けてきた事で十分罪を贖ったと言えよう。四家の賛成は元より、魔女一族も暫定的ではあるが一応理解を経たと考え、皇帝の名において帰参をゆるす。皆の者、相違はないな?」
「皇帝陛下の御意のままに」
ベクタール宰相が立ち上がり述べると、その場の全員が同時に立ち上がり礼をする。
◇◇◇
――後日のクロノス家屋敷
「どうしたの?ネコマルさん」
「ネクマールです。 この度はお嬢様の危機に際して専属メイドとして遅れを取った事、実に申し訳ありません」
ネコマルさんが人の部屋に入って来るなり床に頭が付く勢いで謝罪をして来るものだから朝から面をくらっていた。
「え?でもお父様の用事で出かけて不在だったんだから貴方の所為じゃないでしょ?謝罪は要らないわよ」
「そうおっしゃられても、せめてアンテだけでも付けておくべきだったと思います」
「まあ今回はキュローががんばってくれたし、いつまでもアンテにお世話になりっぱなしじゃ使い魔として立つ瀬がなかったから丁度よかったんだと思うよ」
「お嬢様がそこまで仰るなら…あ、そろそろ朝食ですので準備を」
「え?あ、うん」
寝間着を脱ぎながら用意してある普段着を手に取ろうとすると、ネコマルさんが渋い顔をして髪や腕を取ってジッと見渡すと大きな溜息をついて腰に手を当てる。
「お嬢様、昨日は髪を乾かさずに寝ましたね?それとこの肌の荒れ様は保湿クリームも塗ってない」
「あーごめん、なんか疲れちゃってベッドに入ったらそのまま寝ちゃったんだよねえ」
「ただでさえ五日間も野宿していたのですから手入れはしっかりなさって下さい」
そう言うや否やこちらの意志を無視してクリームの塗りこみからマッサージまで一気に念入りに処方され、それが終わるとすぐさま着替えが始まり、次に髪に住み着いてるキュローが外へおっぽり出されブラシで髪を寧入りに梳かされてゆくと次第にクシャクシャだった髪が綺麗に整えられて、鏡の前の自分が普段通りに感じになってゆくのを感心しながら眺めていると、わずか十分たらずで完成した。
「おー」
「感心していないで急いで食堂へ移動してくださいな、皆様がお待ちなんですから」
「はいはい」
「本当はもう少しゆっくり時間を掛けたかったんですけどねえ」
仕上がりに不服そうなネコマルさんの愚痴を聞きながら食堂へと階段を降りて行った。




