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帰国の途

「レイ、聞いてるのか?」

レイソードはジルベール殿下に声を掛けられハッとして振り返る。


「あ、すまない、聞いてなかった」

「…気持ちは分かるがこの国にはこの国のやり方がある。我々は外交使節としての任務を全うしたのだからもう帰国せねばならない事は分かっているだろう?」


「わかっている。ただ、帰る前に少し繁華街を……」


「レイソード子息、その行動はこの国の警備に対して不敬にあたりますよ。彼女のお兄さん達もいますから今は信じて戻りましょう」

「アルトレー騎士団長殿…そうか、そうだよな」


 彼らマージナルの面々がペルディータの失踪を知ったのはほんの二日前の事だった。実際は行方不明から五日も立っていたのだが、初動捜査における混乱回避の為の処置をベクタール宰相の指示で行われていたのだった。


 レイは自分の力の無さを嘆きながらも帰国準備をしていると、父であるジェラルドが近づいて来た。

「帰国準備はもうできているのか?」


「あ、ああ、後はこの荷物を輸送飛竜に載せてもらうだけだよ」


「そうか、まあなんだ、ガデラインの奴も全力で探している。だからそんなに心配すんな」


「わかっているよ…痛って!」

 ワハハハと笑いながら背中をバシバシ叩きながら自分の乗る飛竜の方に向かう親父の不器用な励まし方に苦笑する。そんな父の背中から視線を横に移すと、ロザリーが青い顔をして座り込んでいる周りにペルの友人達が慰めている様子が見て取れた。



「なに、あいつの事だからまた薬草取りでも行って道迷ってるだけだからひょっこり帰ってくるよ」

「そうですわね、彼女ちょっと方向音痴な所ありますし」

〈そうそう〉

 見送りに来たツバキ、エララ、パレーネの三人に励まされ何かを思い立ったかロザリーは顔を上げる。


「そうだね、ツバキ達の言う通りだ。みんなありがとう、みんなだって心配しているのにあたしだけ落ち込んで励まされてるなんてズルいよね、あたしも今やらなくちゃいけない事をやるよ」

 国は違えど同じペルの友人同士なのに自分だけが悲劇のヒロインをやっている事を恥じて、ロザリーは持って帰る荷物の運び出しを手伝い始める。その様子を見てレイ自身も何か吹っ切れた気持ちになり、再び手を動かし始めた。



 日も高くなる頃に全ての帰国の準備が整い、四頭の飛竜にそれぞれの振り分けで乗り込んでゆく。一番竜は大臣とジェラルド辺境伯、二人の護衛騎士、二番竜はアルトレー騎士団長、部下の騎士二人とメイド長のディア、三番竜にジル殿下、レイ、サージ、ロザリー、メイドのセティアの五人が乗り込み最後の四番竜は荷物輸送機となっている。

 本来ならジル殿下は騎士団長と一緒のはずだったが、ペルの行方不明で落ち込むレイとロザリーを(おもんぱか)った配慮となった。


「ロザリー!来年は外交団じゃなくて普通に遊びに来いよな」

「ですわね、来年は色々な観光地巡りが良いかも知れません」

〈色男達もな〉


 捜索に人出を出している中、見送りに近衛兵や迎賓館(げいひんかん)でお世話になった人々を見送りに割いてくれたアルカンディアの面々に感謝をしつつ皆手を振り四頭の飛竜は次々と空へと舞い上がって行く。


 見送りの人達の姿が小さくなり西の国境へと移動を始めると、ようやく落ち着いて空の旅が始まった。相変わらずセティアは二回目とはいえ、興奮冷めやらない感じに眼下の景色を眺めていたがロザリーはそんな気持ちにはなれず、レイと同様ボーっと空を眺めていた。殿下もサージもそんな二人に声をかけるのも無粋と思い、同じように無言で遠くの空を眺めている。


「あれ?お嬢様、右肩口の髪になんか白い毛玉が付いてますよ」

 不意にセティアからそんな事を言われ、左手で肩をさわるとヌルっとした感触が手に当たり、慌てて手を引っ込めて見てみると、指に赤い血が付いていた。


「え?なにこれ」


「お、お嬢様!怪我をしたんですか?い、今、ポーションを出します!!」

 セティアが慌てて自分の手持ちカバンを探ろうとした手をロザリーは止めた。


「ちょっと待って…」

 ロザリーの言葉にセティアは動きを止め、彼女の方を見ると肩口から何かを掴み目の前で手を開くとそこには白い毛が血で赤く染り小さくなっている蜘蛛がいた。


「「キュロー!!」」

 皆が一斉に声を合わせて叫ぶものだから、竜を操る御者さんが何が何だか分からないままキョロキョロしていた。


「何故ペル君の使い魔がロザリー君の肩に…」

「いや殿下、そのまえに早く怪我を直さないと、セティア嬢、ポーションを」

「あっ、はいただ今!!」

 驚く殿下を制止し、サージの的確な指示にセティアは再びカバンを漁り始めたがロザリーが再びそれを止めた。


「待って!あたしが直す、直します!」


「ロザリー君…聖魔法か」


「はい、折角の聖女の力、宝の持ち腐れにはしたくないですから」

 殿下の問いかけにロザリーは笑顔で答え、そっと両手でキュローを包み込み祈りを始めると手の中が淡い柔らかな光に包まれゆっくりと収束し、光は収まって行った。


――パァアアア


 皆が見守る中、両手を開くと傷は消えて白い毛に付着していた血も消え去り全て完治した様に見える。

しかし、キュローは動く気配がないがそれでもロザリーの中の聖女としての力のお陰かキュローが生きているのは感じ取れていた。


「やっぱりダメか?」


「いえ、大丈夫だと思います。ただ、この子は傷を受けた時に自己回復をする為に冬眠みたいな状態になったのかも知れません」


「なるほど、そういえばペル君も自己回復能力が高いとか言っていたな…とにかくこの子が彼女を探す大きな手掛かりなのは間違いない」


「ですが殿下、本日中にアルカンディア領を出ないと特別外交特権の猶予が無くなり不法滞在になってしまいますが…」

 サージの懸念は最もだとジルベールはどう判断するべきか考えていたが、レイの一言で腹を決めたようだ。


「戻ろうジル、彼女が危機的状況ならば少なくとも行方のカギを握ってるかも知れないキュローを返しに行く位の時間はあるはずだ」


「そうだな、忘れ物を届ける位の猶予をくれる寛容さあると信じたい。仮に責任問題と言うなら俺がその責任を取ろう」

「いや、言い出したのは俺だから俺が…」

 そう言いかけた時、竜を操舵していた先頭の御者さんが振り向き声を掛けて来た。


「失礼します!お話に割って入ってしまい申し訳ない。わたくしは普段ペルディータお嬢様の御者をしているシルドと申します。盗み聞きのようですみませんが皆様の”キュロー”という声が聞こえた事が気になりまして、よろしければわたくしめにそのお話を聞かせて頂けますかな?」


 突然の申し出に、皆驚いた様子だったがどうするにしても彼の協力がなければ行く事も帰る事も出来ないのは当然だと思い、相談する事となったのであった。


「なんと、お嬢様の使い魔がロザリア様の御髪に…どちらにしても仮死状態を戻す必要がありますね。どなたか気付け薬を持っていませんか?」

 シルドにそう言われ、自然と皆の視線がセティアに向いて行く。


「あ、あの申し訳ございません!携帯用に傷ポーションがあるだけで、色々な種類の薬はメイド長のカバンの中だと思います」


「そうでしたか、かといって二番竜に近づいて空中で投げてもらうなど曲芸レベルですからね。じゃあ仕方ありません、ロザリア様キュローをわたくしに」


「あ、はい」

 片手を伸ばすシルドに丸くなっているキュローを手渡すと、彼は手綱を口に咥えおもむろに自分の足のブーツを脱ぎ始める。

 何をするのかと固唾を飲んで見守っていると、その脱いだブーツの中にキュローをポイっと入れてしまった。するとブーツがガタガタと震え出し、中から白い物体がものすごいスピードで飛び出したと思ったら、その勢いのまま直線上にいたセティアの胸元から服の中へとスポンっと入ってしまったのだ。


「!?あっひゃひゃひゃひゃ!やめ、やめ、うごかないで~」

 体中を這いずり回るキュローに悶えながら笑い転げてるセティアを尻目にしてやったみたいな顔をしたシルドがブーツを履きながら良い笑顔で成果を誇る。

「やぁ、上手くいきましたな」


 一連の流れを見ていた殿下達四人は唖然としながらも笑顔のシルドを見ながら苦笑いをするしかなかった。


「「むごい…」」と







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