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交差する思惑

 それからというもの、ロザリーは陛下からの質問に答えるのはいいが、聞かれてもない事まで織り交ぜながら何でもかんでも答える物だから流れ矢に当たって私まで赤っ恥を掻く羽目となった。またそれを聞いている陛下は終始愉快そうにしていたのは意外に思えた。


「いや、ロザリア嬢よ、そちの話しは大変面白かった。おかげでペルディータ嬢がどのような学園生活とやらをしているのかも分って参考になったな」


「恐縮です!」

「お恥ずかしいかぎりです…」

 自分の話を喜んでもらえたと感じたロザリーは先ほどとは打って変わって元気に返事をしてるが、私は笑っている陛下に頭を下げつつこう答えるので精いっぱいであった。



「さて、ここで話さなければならない最後の案件だが、マージナル国王からの親書についての事なのだが…」


「陛下、この件に関してはわたくしが」

「うむ」

 陛下の御意を経て、ベクタールのおじ様が前に出るのに合わせてレイの父であるアナンケ辺境伯と私の父が前に出てゆくのを見て頭に?が浮かぶ。


「アナンケ辺境伯のご子息、レイソード殿とガデライン将軍のご息女ペルディータ嬢との婚約に関してなのだが、双方のご意見を承りたい」

 突然のおじ様の言葉を他人事の様に聞き流してしまう所だったけど、多少混乱した頭で視線をレイの方へと向けると、彼も寝耳に水だった様で唖然とした顔で私に目を合わせて来た。


 父の背中を見ながら思う事は、私自身クロノス家に身を置く以上ある程度政略的な婚姻はあると思っていたが、まさか他国にそれも国境の要であるアナンケ領へとなると流石に両国にとっても私達にとっても意味合いが大きく変わって来る。

 これはきっとマージナル国王の大きな賭けをして来たと陛下達は思っているのではないだろうか。


「ふむ、事前に話だけを聞いた時は何かの冗談かと思ったが、詳細を聞く内にこれは本気だと確信したのだが当のアナンケ伯はこれをどう思う?」

 何時もの癖で顎髭をいじりながら(かつて)てのライバルに声をかける。


「実際、貴国と国境を接する地方領は我が領を含めて三つあるが帝国に食い込む形で接するのはわたしの所だけで、今回の婚約が成立し貴殿のご息女を迎え入れるとなれば本人たちの意向は兎も角、両国のメリットは少なくともあると考えている」


 たしかに王族の姫であるなら、まるで人質を差し出した様に見えるが関係強化を目的とするなら一将軍の娘と地方領の息子の婚姻があっても不思議ではない。しかもこちらに長期的戦略計画があるならその重要な土地を乗っ取る事も可能になるが逆にマージナル側としてはリスクはあるものの、確実な後ろ盾を得る事で厄介な他国の行動をある程度牽制する事が出来る。


「なるほどな…」

 アナンケ伯は私が考察した感じの露骨なメリット発言こそなかったが、だいたいこの様な印象の発言を受け、父は難しい顔をして一言述べただけに留まった。


 何故だか父の反応もおじ様も同様に浮かない顔つきをしている事に気が付くがそんな折、玉座の奥から人影が現れる。


「それは中々良い提案ではないのかえ?」


 皆がそちらへと視線を移すと奥から大きな竜の角と派手な衣装の女性が扇子を持って静々と歩いて来る様子に唖然としていると、陛下が困ったような声を上げた。


「母上、何故ここへ?今はマージナル王国の方々と大事な…」


「皆さま、お初にお目にかかります。わたくしはベストラ・ウルス・アルカンディア、以後お見知りおきを」

「前皇帝の奥方様で在らせられるベストラ皇太后様でいらっしゃます」


 陛下の言葉を遮る様に挨拶をし始める謎の女性にその場にいた者達は唖然としていたが、宰相の紹介で合点が行った様で皆慌てて礼を取り始めた。


「まあ、わらわに政治的決定権があるわけでもないが、平和な関係を望むわらわとしては此度(こたび)のマージナルの提案は非常に見るべき所のある提案に思えるが、どうじゃなガデライン将軍?」


「…は、皇太后様のおっしゃる通り、此度の件については考慮する価値の在る提案だと考えております」


「であろう?それにペルディータ嬢もアナンケ伯のご子息と非常に仲が良いと聞いておる。のう?」

 皇太后様から不意に向けられた視線は幸せを願う様なものではなく、自分の意見を押し通す威圧的な感じがする視線であった。そもそも何故この方は私の動向を知っているのだろうか?とは一瞬思ったが、それでも何か答えなければ非礼に値すると考え一礼をして口を開く。


「はい、レイソード様には学園に入学以来色々助けて頂いた良き友人であり、大変感謝しております」


「そうかそうか、将軍も令嬢もまんざらでもない様じゃな。わらわも大いに支持するが、陛下はどうじゃな?」


「…母上、これは国家間の大事な交渉事、個人の好き嫌いで物事を決する事案ではありません。貴重な意見として留意して置きます故、ここはおさがり下さい」

「なんじゃ、為政者は時に即決即断も重要なファクターであるぞ、まったく」

 陛下はそこまで言うと、侍女たちを呼び半ば強制的に皇太后様を退場させたが話の腰を大きく折られてしまい、結果的には判断は保留しマージナル外交団の滞在中に返答するという事で今回の謁見は終了する事となったのだった。



◇◇◇



「ペルとレイさん、婚約するのかあ…」

「なんか素敵ですね」


「いや、決定してないし、したとしてもその先はわからないから」

 城からの帰りの馬車の中で元気になり始めたロザリーのテンションに少し疲れた感じに答えて溜息を小さく吐いた。


「申し訳ありませんペルディータ様。無配慮な二人で」

 オデュッセイ家のメイド長ディアさんが二人に変わって謝罪をしてくると、ネコマルさんが涼しい顔をしながら私を遮って答える。

「問題ありません、この程度はいつもの事なので気にしないでください」


(なんでネコマルさんが答えるのよ…)


 何故ロザリー達が我が家の馬車に乗っているかというと、マージナル外交団が滞在している間はロザリーと家の者以外は迎賓館に寝泊りする事になり、彼女は私がいる方がメンタル的に安心できる可能性が高いので我が家で宿泊する事となったのだ。



 馬車が屋敷に到着し、家人達が荷物を下してる姿を横目で見ながら屋敷の扉を抜けるとノイがこちらを見つけてすっ飛んで来た。


(あ、やばい)


「おねぇたまー、ロジャーお帰りなたーい」

 ノイの突撃に備えて構えようとした瞬間、ロザリーが前に出て腰を屈め体を少し斜めにし構えのポーズを取ると

「お嬢様!わたしも手伝います!」

 セティアがそう叫んでロザリーの背中をガッチリと支えた。


「よっし、ノイちゃん来い!!」

(え?ちょ、まさか)


ドドドドドドド ドシーン!!!


「「わ~!!!」」

ガラガラドーン!!


 どうやらロザリー達は一度洗礼を受けており、二人がかりで押えれば何とかなると思ったらしいが案の定、抑えきれるはずもなく三人で後ろにあったフラワースタンドを粉砕して倒れ込んでしまっていたがノイだけは面白かったのか一人でケタケタと笑っていた。

 幸い、花瓶は私が直前に受け止めたので無事だったけど、スタンドは再起不能だ。


「ちょっと、二人共大丈夫?」


「あ~うん、今回は受け止められると思ったんだけどなあ」

「おしかったですね」


(いや全然惜しくないんだけど……)


「次はもっとこう勢いを外に逃がす様に…」

 ロザリー達が次の作戦を練っていると、目を三角にしたディアさんがやって来たのを見て二人は顔を青くしていた。

「お嬢様!セティア!!早速なにやっているのです!人様の家の物を破壊して笑ってるんじゃありません!!」


「ロジャーとセニャ怒られてる~」

「そうだね、アホだねえ」


 ディアさんに怒られて正座している二人はネコマルさんにまかせてノイを抱っこしながら着替える為に自分の部屋へと足を向ける。


(お父様の事だから私の意向はある程度聞いてくれるとはおもうけど、まさか皇太后様が出て来るなんて・・・)


「おねぇたま、おねむ?」

「ん~大丈夫だよ~大丈夫」

 そんな私の頭を撫でてくれる妹を抱きしめながら部屋へ入って行った。





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