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聖女は平伏する

「さ、聖女様。ご案内いたしますのでお付きの方々と共にお…いえ、私に付いて来て下さい」


 ロザリアは言われるがままラディードに付いて行くが、その後ろ姿を見て溜息が出る程関心をする。

黒ヒョウの様な精悍さとイケメンな容姿、背は高く筋肉質で後ろのマントの下から見える長い尻尾がラブリーすぎる。

(ペルのお兄さん格好良すぎない?屋敷で見た妹さんも可愛いし、なんてうらやましい…)


 そんな不埒(ふらち)な事を考えていると、セティアがそばに寄って来て小声で声を掛けて来る。

「お嬢様、あの騎士の人めちゃくちゃカッコイイですね。特にあの裾から出ている尻尾が!触ってみたい」

「こらこら失礼な事を言っちゃだめよ」

「えへへへ、そうですね」


 最後尾を歩くメイド長ディアはそんな二人を渋い顔で眺めつつ、後でお説教が必要かもしれないと考えていた。


「こちらの控室でお待ちください。それと何か御用がありましたら扉の外に警備の兵士が居りますのでお申しつけください。では」


 ロザリア達が控の間に入ると、そこは白を基調に金で装飾された広い部屋で赤い大きなソファーなどかなり高級な部屋だと感心してセティアと二人で色々弄り回している間に、メイド長は準備されていたティーセットを使いお茶を入れる準備を始める。


「お嬢様、お茶を入れましたから調度品を壊さない内に席へお座りください。それとセティア!遊んでないでそこに置いてある茶菓子を用意しなさい」


「は~い」

「ひゃ、ひゃい!」


「まったく…」

 呆れた顔で二人を見つつも、メイド長は用意されていたカップや茶葉、それに周りの調度品などは明らかにマージナルの人間に合わせた物ばかりが用意されていてかなり気を使っている事が分るのと、個人的にこの国に対して文化的ではないイメージを持っていたが、自身が身をもって体験をすると印象がこうも変わる事に内心驚いていた。



 一方、隣の部屋ではレイとサージが少し落ち着かない様子であてがわれた部屋の中を物珍しそうに見回っている。


「いや~なんかすごい所だよな」

「ええ、そうですね、獣人族の方は拝見した事はありますが、有翼人や蛇族の方々は初めて見ました」

 レイがワクワクした顔でソファーに座ると、対面の椅子にサージが窓の外を眺めつつ座る。


「俺もだよ。一昔前までこの国と戦争していたなんて考えられないな」

「そうですね、ペルさんに初めて会った時からもこの国の印象は結構変わりましたからね」


「だな。それはそうとジルの奴はどこ行っているんだ?」

「殿下ですか?殿下は隣の部屋で大臣と最後の打ち合わせをしているはずです」


 そうサージが口にした瞬間、ドアが叩かれ案内役の女性騎士が顔を出し謁見が始まる旨を伝えて来た。


「さていよいよか」

「はい、わたしは付き添いをすることは出来ないのでくれぐれも言葉や行動に注意してください」

「わかってるって、どうせ親父もいる事だし気をつけるよ」

 サージは掛けてあった上着をレイの背中に掛けると彼は素早く袖を通し、緊張をしつつも背筋を伸ばして廊下へと出て行く。



◇◇◇



――謁見の間


 私は父であるガデライン将軍の付き添いをする形で後に続いて謁見の間に入って行くと、本城がまだ完成していない事もあってマージナルの謁見の間よりこじんまりしていたが代用の場所にしては天井が高い分、そんなに小さい感じは受けない。


 左右に近衛兵が並び、金の刺繍が飾られた赤い絨毯を歩み進むと、正面の玉座にまだ若いディライド・カーティス・アルカンディア皇帝陛下が座しており、手前の位置に摂政であるベクタールのおじ様が立っている事に気が付くと、おじ様は目元だけニコっとしながら小さく頷いた。


「皇帝陛下、ガデライン・クロノス及び、ペルディータ・クロノス参上致しましてございます」

 片膝を着いて挨拶をする父に合わせて私も同じように挨拶すると、陛下はふっと小さく笑顔を浮かべ、口を開く。


「将軍、忙しい所を呼び出してすまなかったな、珍しくもマージナルからの客人だ。申し訳ないがしばらく付き合ってくれ」


「陛下、前にも仰いましたが申し訳ないなどと言う言葉は不要にございます」


「ハハハハ…うむ、そうであったな。して、そちらの娘がペルディータか」


「はい、ガデラインが娘、ペルディータと申します。皇帝陛下に置きましてはご機嫌麗しゅう存じます」


「うむ、よく来た。遠慮はいらん、顔を上げよ」

 そう言われ顔を上げると陛下の目が合うが、意外にも畏怖は多少感じるものの恐れと言ったものは一切感じず、寧ろ懐かしい感じの印象を受ける。

 それはたぶん、王冠で多少隠れているものの白銀の長い髪と黒い大きな角、そして私と同じ小麦色の肌と金色の目が親近感を与えているのだろう。しかし無言でジッと見つめられると目のやりどころに困ってしまう所、ようやく言葉を発してくれた。


「…」

「ふむ、報告によるとそちは聖女達と友誼(ゆうぎ)を結んでおって良好な関係でおるそうだな?」


「はい、ありがたい事にそのようにお付き合いさせて頂いています」


「そうか、今回の会見ではお主の様に更なる良好な関係が気づければ良いと思っておる。もっとも相手の出方次第だが、しばらくは将軍と一緒に近くに控えていなさい」


「はい」

 そう答えながら、父に付き添い横の列に並びしばらくすると、兵士二人が扉に近づき両開きの扉が解き放たれると近くにいた近衛兵が入場して来る来賓を読み上げて行く。



「マージナル王国、ジルベール・アーネス・マージナル第二王子様、ロジーク・シルベルト外交大臣様、続いてジェラルド・アナンケ辺境伯様、レイソード・アナンケ辺境伯子息様、聖女ロザリア・オデュッセイ伯爵令嬢様、入場!」


 殿下を中心に五名が中央の道を陛下の前まで歩み進んで来る姿はやはり王族と言うべきか若さに似合わず威風堂々としている姿に思わず関心をする。胸に手を置き一礼をすると皆が合わせて一礼をすると陛下もニコリと笑顔で頷いた。


「アルカンディア帝国ディライド皇帝陛下、この度は急な訪問のお聞き入れを頂き有難うございます」

 代表のジル殿下が一歩前に出て、口上を述べる。


「うむ、ジルベール殿、はるばるようこそアルカンディア帝国に参られたな。慣れない長旅は疲れたであろう」


「いえ、こちらに到着した後にゆるりと一日休ませて頂きましたゆえ問題ありません」


「そうか、本当は到着されたら歓迎の宴をと考えていたがそれでは疲れが取れぬと指摘を受けたのでな、それは会見後に改めて開こうと思っておるゆえ受けて欲しい」


「はい、皇帝陛下のご配慮に感謝いたします」


 ジル殿下と陛下が会話を続けている間、視線をロザリーに移すと相変わらずこういう場所では今にも死にそうな顔をして作り笑顔を浮かべている姿を見て、思わず吹き出しそうになったが場所が場所だけに彼女の気持ちも分からないでもない。

 それにしてもこんなシーンに既視感を覚えた所で殿下に変わり髭の大臣が聖女が何たらと言い始めた時にふと思い出した。

(ああ、そういえば聖女認定式の時もこんな感じだったな)



「では陛下、先ほどのお話にありました女神ホークレアの祝福を受けし乙女はこちらの令嬢になります。ロザリア嬢、陛下に挨拶を」

 外交大臣ロジークに呼ばれ、レイの後ろで目立たない様にしていた彼女は緊張の為か手足が一緒に動きつつ前に出て来ると、何を思ったか両手をついて平伏し始めた。


「こ、こ、皇帝陛下にはお日柄もよろしく……」

 皆が唖然としている所、テンパりすぎてあまりにもおかしな行動を取り始めたのを見かねて、私は陛下に一礼をして彼女に近づき立たせて小声で声を掛けた。


「何してるのアンタは、さっきと同じ礼をして普通に自分の名前を言うだけよ」

「え?あ、ペル?うん、そうだねそうだったね」

 目を白黒させながら声が上ずっている彼女に深呼吸をさせて、改めて一礼をし名乗らせた。


「ま、マージナル王国ユルバーン・オデュッセイ伯爵の長女、ロザリア・オデュッセイと申します。お見知りおきを」


「うむ、ロザリア令嬢、緊張するのも無理はないが何も取って食おうという訳ではない。お主の友人も居る事だから安心して質問に答えればよい」


「は、はい、大変失礼いたしました」


 私がそばにいる事で少し安心したのか、緊張はしているがだいぶ落ち着きを取り戻した様だ。それに合わせてジル殿下達マージナルの面々もホッとした様だった。




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