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来訪する外交団

 ツバキ達と遊びに出かけた数日後の朝、いつものように工事の音が鳴り響くベッドの上でウトウトしていると、お尻に重みを感じた。


「あ~、ペルのお尻の感覚久しぶりだわ~」


「ちょっとロザリー、お尻にくっつくなっていつも言っているでしょう」

「痛って、いたいたいた」

 尻尾で頬っぺたを数発ペシペシ叩いた所でハタと動きを止めた。


(いやまって、なんでロザリーの声がするの?)

 そう思い慌てて毛布を跳ね上げて足元をみると、ロザリーが頬を押えながら”エヘヘ”と悪戯っぽく笑ってそこに居た。


「は?なんで貴方ここにいるの??まさか荷物に紛れて密入国したとか」


「え~、なんかボロクソ言ってくれやがりますが、ちゃんと手続きして来たのよ」

 私の問いに腕を組んでドヤ顔で言っては来るが、そもそも彼女が此処に居ること自体がおかしい。少なくとも彼女の立場考えれば…そう思い口に出そうとしたタイミングでドアを叩く音が鳴る。


――コンコン


「お嬢様、ロザリア様、三十分ほどで帝城へ登城する時間になりますのでご準備をお願いします」

 ネコマルさんがこちらの返事も待たず、ノックと同時に入って来てクローゼットを漁り始めた。


「あのネコマルさん?ロザリーがいる事や登城の予定など聞いてはいないのですが?」


「ネクマールです。 ええ、ですから今言ったじゃないですか」


「今言ってどうすんのよ!少なくとも昨日どころかもっと前に言っておくべき案件でしょ」


「ええ、まあそれに関しては大変申し訳なく思っております。あ、今回はこちらを着てください」


「はいはい。 最近私の扱いが雑になってない?」

「さあ?いつもと変わらないんじゃないですか」

 そんな私達のやり取りを見ていたロザリーは唐突に吹き出し笑われてしまった。


 着替えが終わり、玄関ホールへと向かう途中に何故ロザリーがいるのか本人に聞いてみたが背中を押すだけで何も答えてくれなかったが、階段を降りる先を見た瞬間全てを察した。


「よお、ペルちゃん!その衣装カッコいいねえ」

「ペル君、お邪魔しているよ」

「御無沙汰しています」


 レイと殿下、そしてサージ君の三人が正装をしてエントランスで私達を待っていたのだ。頭に?を浮かべながら皆の元に歩み寄ると、彼らの後ろから厳つい顔つきの正装をした壮年の男が現れ私に近づき顔をジッと見ていたと思ったら体を引き、今度は目線を上下に動かし全体を見て唸ってくるので恐る恐る聞いてみた。

「えっと、失礼ですがどちら様でしょうか?」


「ん?なんだレイ、彼女に何も話してないのか?」

「アナンケ辺境伯殿、ご子息は実家に戻ってから話を聞いてますので話すタイミングはなかった思いますぞ」

 手を振り”俺は知らない”というジェスチャーをしているレイをフォローするように男の横にいた騎士が兜を外し、声を掛けると納得した様に頷く。


(あ、アルトレー騎士団長も来ていたのか…殿下がいるから当然か)


「そうか、それなら改めて自己紹介しよう。俺の名はジェラルド、ジェラルド・アナンケだ。この国と国境を接しているアナンケ領の領主をしている。それとこのレイソードの父でもある」


「お初にお目にかかります、ガデライン・クロノスの長女ペルディータ・クロノスです。ようこそおいでくださいました」

 マージナル式のカーテシーで挨拶をすると、妙に感心した様にウンウン頷いて笑顔になってくれたので間違いはなかった様だ。


「ほう、話に聞いた通り礼儀正しいお嬢さんだ」


「恐縮です」

 そう答えながら周りを見てみると、レイ達の後ろに見覚えのある髭のおじさんを見つけた。確か入学した際に会った外交大臣のロジー…ロジー…何とかいう人だ。という事はこの団体はマージナルの外交団という事なのだろう。

 簡単な挨拶を交わそうと思った所へネコマルさんが間に入り一礼をし、私を制して案内を始めた。


「さて皆さま、御歓談中申し訳ございませんが時間が差し迫っていますのでお城の方へ移動をお願いいたします」


「おお、もうそんな時間か。ではペルディータ嬢、また後で」


 アルトレー騎士団長の指示に従って皆用意された馬車へと分譲して行き、外で待機している護衛の騎士団はジル殿下とレイ達が乗る一台目とロザリーと外交大臣他が乗る二台目の護衛に付き、移動を開始する。私もネコマルさんに押されるがまま三台目に乗り込み帝城へと移動を始める。


 兄が勤めている帝城の近衛隊の宿舎に差し入れを持って行く時はよく訪れてはいたが、皇帝陛下に直接拝謁するのは小さい頃に父に連れられ一度だけ挨拶をしに行った時以来になる。他には生誕祭や祭り事などでバルコニーに立つ遠くの姿を数回見たのみで顔は覚えていないが、私と同じ銀色の髪と黒い大きな角は印象に残っていた。


「で、人を除け者にして一体何を企んでいるの?」


「ん~、まあたしかにお嬢様に情報を与えなかったのは申し訳なかったと思います。最初こそは普通の外交折衝だったらしいのでお嬢様には関係のない事柄でしたが、聖女のお披露目や色々な提案がマージナルからの書簡で示されて旦那様のご意向によりお嬢様もお連れする事となりましたので」


「お父様が?……でもロザリー達の来訪を隠すことがよくわからないんだけど」


「あ、ロザリア様達の件は単にお嬢様を驚かせようとしただけです」


「な”! 真面目に聞いた私がバカだったわ」


 涼しい顔をしているネコマルさんに呆れて溜息つきながら窓の外を眺めながら考える。大方表敬訪問に合わせて聖女を披露し条約は守られてる事をアピールする事が目的だろう。それにジルベール殿下の方が対外的に適任と国王陛下も考えているに違いない。

 それにしても帝城は工事中だけど、迎賓館は健在なのにわざわざうちの屋敷に泊まらせるお父様は何を考えてらっしゃるのだろうか?


 モヤモヤした気持ちのまま、馬車は跳ね橋を越えて城内へと入って行く。


◇◇◇


「お嬢様、す、すごいです、大きいです」

 セティアは馬車の窓にへばり付いて帝城の巨大さに少し興奮気味に感想を述べているが、語彙力が少し残念なのは彼女らしいのかも知れない。


「セティア!騒いでないでちゃんと座りなさい」

「ひゃ、ひゃい」

 今回ロザリアの謁見の為にお付きがセティアだけでは心もとないという事で、オデュッセイ家のメイド長ディアが同行していた。


「まあ、あたしも目の前に見えているのになかなか辿り着かない巨城には驚くばかりよ」

「そうですね、わたくしも此処まで大きな建物は生まれて初めてです」

「ですです」


 まだ足場や工事用資材があちこちに積み上げられている状態ではあるがきっと完成すれば優美な城がお目見えする事だろうとロザリアは考えながら車内の対面に視線を移すと、ロジーク大臣と秘書の人だったか二人でずっとあんちょこみたいな小さいメモをずっと見つめながらブツブツ言っているのが不気味ではあった。


 ようやく馬車が停車し、窓の外を見ると正装した近衛兵らしき兵士達が整列して並んでいる姿に思わず溜息が漏れる。

 先に大臣達が降り、続いてあたしが降りようとすると、色黒で精悍な顔立ちの青年が手を差し伸べて来た。

「本日、聖女様の護衛をする事になりました第一近衛隊のラディード・クロノスと申します。以後お見知りおきを」

「あ、はい、あた…いえ、わたくしはロザリア・オデュッセイと申します。よろしくお願いします」

 緊張した面持ちで彼の手を取り、馬車を降車した時に思い出す。


(あれ?クロノス?ペルと同じ家名じゃなかったかしら…)


 そう思い、再び彼を見返すとラディードはニコっと笑い小さな声で耳打ちをしてきた。

「妹がお世話になっているね、ロザリーちゃん」


 思わず声を上げそうになって慌てて口をおさえるロザリアであった。





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