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昼食は豪華に

 取り合えず持って来た十二本の初級ポーションをお店のお婆に預け、しばらく売れ行き動向を見ながら今後を考えようという事で話はついた。その後はお婆に注意されながらも色々な魔法道具を見て回っている時に、ふと思い出した事を聞いてみる。


「ねえお婆、動く入れ墨って知ってる?」


「なんじゃ(やぶ)から棒に…入れ墨が動く訳ないじゃろ?」

「いやまあそれはそうなんだけどね」

 呆れ顔でそう言われ、取り合えず私が出会った例の黒フードの男の話を掻い摘んで説明すると、何か思い当たる節がある様で、奥にしまってあったボロボロの本を取り出し小さな眼鏡を掛け指でなぞりながら納得した様子で顔を上げた。


「う~む、お前さんが見たのは入れ墨じゃないな。魔女の魔法の中に”カースシャドー”という物がある」


「カースシャドー?私が見たのはそれ?」


「お前さんの話を聞く限りそれに近い。何かしらの呪物…この場合は蛇じゃな、その影を自分の体に当てて定着させ自由に影を操る目的に使われておる。他にもお主の肩に居る蜘蛛や蜂など他にも何かしらの小動物の影を使う場合もある」


「自分に呪いをかけるなんて…もしかして定着させた影の対象物の能力でも使えるのかしら?」


「聡いな、その通りじゃが当然リスクもあって常時魔力を奪われ続けるじゃろうな、それに持っている魔力回復量を上回るほどの影を使えば何れ魔力は枯渇し足りない分は生命力を削って行くじゃろうよ」


「使用制限の伴うリスクが大きすぎる」


「だから使っている者は今となっては皆無じゃな。それにしてもこんな古い魔法を使う輩が人族の国に居るとは……やはり流出した書物の中に他の魔法も混じっておったか」


 ボソッと小さく呟いたお婆の言葉は気にはなったが、聞いても素直に話してはくれなさそうな顔をしている。


「なあ、そろそろ繁華街行こうぜ」

「あ、ごめん待たせたわね」

 話し込んでいる私にお店に居るのが飽きて来たツバキがぼやき始めたのでまた来ると言い、お婆に別れを告げ店を出ていく時に振り返ると、やっと五月蠅い連中がいなくなった事にホッとしたのかまた水たばこをふかして書き物をはじめていた。


 次に繁華街の方へと戻り久々のショッピングを楽しみ色々見て回ると、こちらとマージナルの下町との商品の違いが見えてくる。例えば種族的な体系の違いによる変わった服やどうやって着こなすか分からない服など多種多様であるものの、人族のお店は大体同じ印象であるがデザインが多種多様で見ていて面白い。食事にしてもそうだ。


「お、あそこの屋台で昼メシ食おうぜ」

 ツバキが見つけた屋台に行くと、どの種族でもお腹一杯になるメニューが豊富で皆方々好きな物を注文し、外に置いてあるテーブル席に座って食事を開始する。


「おいおい、ペルさぁ食が細くなってない?何それ人族じゃあるまいしパンとシチューにサラダなんて」


「ん~?そうかなあ」

 そう言いつつ周りを見てみると、ツバキはステーキ山盛り、エララはラミアらしく卵料理専門、パレーネは大きな魚の素揚げに香辛料と魚醬(ぎょしょう)を掛けたシンプルなものを好んでいる。


「そうですねえ、もう少し食べられた方がよいと思いますのでおすそ分け」

 エララはそう言って自分の料理の上に乗ってる目玉焼きをくれると、じゃあわたしもとパレーネも魚の身をパンの上に置いてくれる。さらにツバキはステーキ一枚をドンと乗せて来るものだから私の料理皿がカオス状態になったが、折角の好意を無碍(むげ)にするのもなんなんでありがたく頂戴した。


――が、何とか完食はしたがお腹いっぱいでしばらく動けそうにない。


〈ほんとうに食が細くなったわね〉

「ペルは元々ツバキちゃんほど食べないけど、人族の学校ってそんなに食料不足なのかしら?」


「いやそんな事はないと思うけど、なんか向こうに合わせていたらそうなったというか…」


「まあ、こっちには何でもあるからここにいる間に元の胃袋にもどるんじゃないの?」

 いつの間にかおかわりを注文しに行っていたツバキが再びステーキの山盛りを食べながら戻ってた。


((ああ、まだ食べるのね))

 さすがに彼女の食べっぷりに三人で胸やけを起こした様な顔でお肉を頬張る姿に溜息を落とす。


「は~食った食った」

 ツバキは楊枝を口に咥え、お腹を摩っている姿を見て容姿は綺麗なのに行動がおっさんっぽく呆れながら指摘しようとしたその時、別の所から声が掛かった。振り向いてみるとそこには竜の角を擁した紫色の長い髪の長身女性が不愉快そうな顔をして立っている。


「あら?ペルディータ、帰って来ていたのね。てっきり人族に(ほだ)されてあちらで一生、生きて行くのかと思ったわ」


「キキョウ!てめえ、いきなり挨拶だな」

 その言葉にいきり立ったツバキが席を立とうとしたのを手で制し、私が立ち上がって彼女の前に立つと腕を組んで威圧して来た。当然背の高さは頭一つ分私の方が低いので効果的と思ったのだろう。


「キキョウ、お久しぶりですね。今、私は学園の夏休みでこちらに帰って来てるんですよ。向こうでの体験などのお話をしていた最中なのでよろしければ貴方も如何です?」


「不要だわ、あんな野蛮で下賤な種族の話しなんて!あんた達は連中の話しなんか聞いて喜んでるのは程度がいっしょなのね」

 私達を小馬鹿にするような表情でそう言い放って来ると、ツバキ達は怒髪天を衝く様に口を開きかけたが後ろ手に彼女らを制して落ち着いた様に溜息をついてみせる。


「ふぅ……貴方は私がマージナルに行っている事が気に入らないようですがこれはラティア皇女殿下の名代としての責務を果たしているだけですのでご不満があるようでしたら皇帝陛下に上申すれば良いと思いますよ?」


「な!!……ふ、ふん!精々連中に利用されないように気を付ける事ね!」

「御忠告痛み入ります」

 そう返すと、キキョウは私を睨めつけながら拳をワナワナと震わせながら踵を返して去ってゆく。さすがに皇帝の命に逆らう事も出来るはずもなく退散してい行く彼女の後姿には多少の同情もあった。


「なんなんだよあいつは」

〈むかつく〉

「お気持ちはわかりますが、ペルに文句を言うのは筋違いですよねえ」


 エララの言う通り、私に文句をつけるのは筋違いだが父親の事を思えばこそモヤモヤした感情が抑えきれなかったのだろう。



 キキョウ・アマツは私の一つ上の世代だが、彼女の父は前皇帝の近衛軍の指揮官で私の父と並ぶ稀代の名将でもあった。しかし、十六年前の勇者戦役の際に防衛を一手に担ってたアマツ将軍は命を賭して勇者に戦いを挑んだが志半ばで討ち取られ、結果皇帝も相討ちで命を落とすという結果になる。

 戦後は国を守った英雄として崇められたが、一部の心無い者達は彼を皇帝を守り切れなかった将軍という陰口を叩いた。それが原因かどうかはっきりとは言えないが、キキョウの人族嫌いの一因になったのかもしれない。

 表向きは関係改善方針となっているが、キキョウだけでなく他にも講和に納得しない者達が未だに多くいるのは当然で、それはマージナルでの事件を鑑みれば同じなのだろう。



「あ~あ、なんか変なケチがついたから腹減ったな!あっちに新しい甘味屋が出来たから行こうぜ」


「え”?さっきお昼を食べたばかりなのにまた食べるの?」

 呆れた様にツバキに問うと、これでもかっていう位の笑顔で人の腕を掴んで走り出した。


「甘味は別腹って言うだろ!者共付いて来い!!」

「ちょ、ちょ…」


〈マジかよ〉


「まあ、わたくしも甘味は嫌いではないので…」

 パレーネが引っ張られる私を見て呆れた声を上げるが、隣のエララも食べる気満々の顔を見てさらにドン引きをしてボードを下に落としていた。





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