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実家へ帰省

 男は目を疑った。ありえない事だ、目の前で起こってる現実に混乱し思考が止まりかけていたが、熱さと痛みで現実に押し戻される。


――ボワッ


「うあ!熱い!!なんだこりゃ!なんで燃えている!?」

 突然剣を持った右腕の皮手袋と腕に巻いたバンドに火が付き、燃え始めたのだ。助けを求めようと隣の仲間を見るが、彼らも順々に武器を持った腕に火が回っており火を消そうと腕を振りまくっているがそんな事では鎮火はするはずもなく大混乱を起こしていた。


 レイとサージ君はこれをチャンスと見て正面の男達に体当たりをし、突き飛ばした拍子に落とした剣を奪い囲んでいた五人の野盗達を次々と倒してゆく。その手際の良さは流石と思いつつ倒れて気絶している男達の燃えている腕に地面の砂を掛けて火を消して回った。

 正直こんなにうまくいくとは思わなかったが、初めて発火能力が発動した時の様に遅延して発火しなくてよかったとも思った。


「ペルちゃん何かやったでしょ?」

 レイにそう言われて口に人差し指を当ててシーをすると、肩を少し上げながら苦笑しヤレヤレといった表情で了解してくれたようだ。


「とりあえず警備の騎士を呼んで来ますが、ペルさんのお付きの方の方にも向かった連中がいるようなのでそちらにも何人か回って貰います」


「ああ、ネコマルさんなら大丈夫だと思いますよ。奇襲は予期してたからあえて相手を分散させる為に別行動したみたいだし」


「すごいなっていうか、初めて会った時も一人で馬車の屋根の上で無双していたから当然と言えばとうぜんか」

 レイは感心した様に宿屋の方を眺める。その後サージ君が連絡した街の騎士達がやって来て気絶している無精ひげの男以下の五人を連行され、宿の裏手ではネコマルさんにコテンパンにされた親玉以下の十人が同じく逮捕されてめでたくこの辺りを荒らしていた野盗はあらかた排除された。騎士の話しだと、本拠地には多少メンバーが残ってるらしいが、近いうちに討伐されるだろうとの話だ。



――翌日


「じゃあ、名残惜しいけどここで一旦お別れだ」

「そうですね、また新学期で」


「ええ、レイもサージ君もお元気で。それでは新学期にまた学園で会いましょうね」


 ローブレルの街を出てからしばらく進んだアナンケ領へ続く道と国境へ続く道が丁度分かれる分岐点で二人とは別れる事となる。

 ネコマルさんも二人と握手しながら何やら話していたが、単なる別れの挨拶をしていただけと言って詳細は教えてくれなかった。多少モヤモヤするが彼女の秘密主義も今に始まった事ではないので諦めている。


 手を振りながら小さくなっていく彼らの乗った馬車を見送り、私も自分の馬車に乗り込んで国境を目指して一路北東へ進んで行きそこからは順当に……でもなく例のガタつき幹線道路を乗り越え、国境警備隊に挨拶をしガルタネの森を抜け、飛竜を連れた家人と合流する事となった。


「あうう、お尻が痛い」


「ほらほら、お嬢様も急いで飛竜に乗って下さい」


「いや待って、ほらまだ荷物積み終わってないし休憩しましょう」

「だめです。荷物は後からでも運べますが、お嬢様は先に屋敷の方へ送れとの通達です」


「ええ?聞いてないんだけど」

「言ってませんから」

 シレっととんでもない事を言いつつ人の事をグイグイ押しながら半ば強制的に飛竜に乗らされると休む間もなくギューンっと上昇し、一路屋敷のある首都ゴートルクスへと進路を取り始めた。


「まだ夏休み始まったばかりだし、もうちょっとゆるりと出来ないのかなあ」

 ブツクサ文句を言っていると、アンテがまた人の膝に乗って来て丸くなって寝始める。


(ほんと、キミは自由気ままでいいね)



◇◇◇



 半年ぶりの我が家に到着し、飛竜から降りた途端にノイが走って飛びついて来る。


「おねぇたま~」

「ノイ、げんきだった?」


――ドスン!!


「うっ!」

 久々の体当たりに耐え切れず、尻もちをついてしまったが胸に顔を埋めながらくっついたまま動かないノイを見て、寂しい思いさせちゃったなあと感じずにはいられなかった。


「おう、帰って来たか!久しく見ない間に少し細くなったか?ちゃんと食ってるか?」


「お父様、ただいま帰りました。えっと、規律正しく寝起きして三食ちゃんと食べてますよ」

 お休みなのかお父様は相変わらずの顎髭をぞりぞりといじりながら、変な事を聞いてくる。実際、学園に留学してからはたかだか半年程度でそんなに変わるとは思えないがのだが…と思っている所へお母様がノイをサンドイッチにする形で抱きついてくる。


「ペルちゃ~ん、久しぶりね。指輪は役に立ってる?いい男は捕まえた?あら、少し痩せたのかしら」

「ええ?お母様まで何言ってるんですか、そんなに変わりませんよ」


「まあ、こんな所で話していても仕方ない、積もる話は中でしよう」

 お父様に促されながら、屋敷の中へと移動する途中で近くにいたメイド長に後から来る飛竜に乗せた荷物は私物以外を食堂に持って来るようお願いして中に入って行った。


「お兄様は今日はお出かけ?」


「ラディなら昨日というか、二日前から東地区に住んでいる獣人族からの依頼で溢れゴブリン討伐に行っているよ」

「ああ、また異常繁殖して他の縄張り侵してるんですか?お兄様も運が悪い」


 アルカンディアには数多くの亜人や魔物などが存在する。お互いの縄張りや生活などを尊重しなるべく侵さない様に気を使ってるが、魔物に分類されるゴブリンは時折異常繁殖期を迎えると爆発的に数が増えて平然と他の地域へと入り込んで暴れまくるのだ。したがって、アルカンディアの法の名の元に討伐命令が発せられ徹底的に駆逐されるわけだ。もっとも、ゴブリンの場合は会話が通じない上に、武器を使ったり魔法を使ったりと質が悪いので有名なのだが。


「まあ、問題ないだろうアイツの腕はムラクモの奴も認めているくらいだからな」


「え?鬼族以外で認められてるんですか?」


「ああ、その変わり自分の弟子たちの不甲斐なさを嘆いてもいたがな、ハッハッハッハッハ」


 剣豪と呼ばれ我が国の最強の陸戦部隊を率いる鬼族ムラクモ将軍に認められるのは相当(まれ)であり、普段の口の悪い呑気な兄上からは想像も出来な事に少し驚きもあり、嬉しさもあった。そんな団欒をしている途中にようやく届いた私のお土産が食堂へ運ばれてくると、お母様が興味深めに見ていた。


「お嬢様、お荷物をお持ちしました」

「ありがとう」

 早速荷物を開ける為に抱っこしていて寝てしまったノイをお母様に預け、荷物の紐を一個一個解いていく。


「じゃあ、まずはお父様にこれを」

「お、なんだわざわざお土産買って来てくれたんか?」

 渡した紙袋を豪快に破り捨てると、中から大きなガラスジョッキが出て来た物を珍しそうに眺めている。


「あら?貴方いいわねえ、こっちはわたし?」

「はい、お母様に合うと思って」

 ノイを抱っこしているので代わりに私が包装を開き、中から出て来る色々な色のグラス四点セットを目の前に並べると、表面に掘られた模様を一つ一つ眺めながら満足そうに(うなず)いていた。


 その後は家人の皆にお土産を配り回って恐縮されたりしながらも皆一様に喜んで貰えたようで、買って来た甲斐はあったというものだ。


 兄上は居ないが久々の家族団らんでの食事に舌鼓しながら学園の料理って健康志向なんだなあと思いもした。夕食後はノイに付き合って、暖炉のそばで横になりながら二人で買って来た積み木や例の人形やら蛇の玩具で一緒に遊んでいると、唐突に兄上が帰って来たのだ。




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