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朝稽古

「おお?ペルが帰って来てるって聞いて速攻で帰って来たぞ」


「あ、兄上~お帰りなさい」

「おにぃたま~」

 ノイが兄を見つけると、ダッシュして体当たりの様な抱きつきをかますが、慣れているのか私の様によろけもしないで軽く抱き止めて抱っこしてあげる。


「おう、元気そうだな!なんか痩せたか?」


「親子そろって人に同じ事言わないで、私の体型は何も変わってないわよ」


「ふ~ん、まあ息災ならそれに越したことはないな」

 胡坐(あぐら)をかいて座り、ノイを抱っこし直して膝へ乗せると人形で遊び始める彼女の頭を撫でている兄上にふと思った事を投げかけると途端に渋い顔をする。


「兄上こそゴブリン討伐に行っていたんじゃないの?」


「それな、一応討伐自体は大体終わったんだが、また新たな集落や洞穴が見つかって後日また行く羽目になったよ。結局部隊の蓄積ダメージが大きすぎるんで一旦俺らは撤収して近々再討伐に出る事になると思う。今は別の部隊が交代で行っているがな」


「なんというか、ねぎらい言葉しか言えないけど、無理はしないでね。それから倉庫の方にお土産で買って来たお酒の入った木箱があるから飲みすぎない様に」


「お!マジか!!さんきゅーな、明日にでもジント達の所に持って行ってやるか」


 ジントさんは兄上の同僚で気さくなウェアベアの大男で親友の間柄、今は地方から来ている戦士たちは基本的に帝城の外れにある独身寮で大所帯暮らしをしてる。私は一回兄上に連れられて行った事があるが、少なくともうら若き乙女が行っていい場所ではない事をその時思い知ったのは良い?思い出だ。

 しばらく学園生活の事やらなんやら話している内にノイの頭が上下に揺れ始めたのを見て取る。


「あら?またノイ寝ちゃったのね。じゃあ私が部屋に連れて行くわ」


「今日は一緒に寝てあげるのか」

 兄上から寝ているノイを受け渡される際、手から人形が落ちてしまった。


「ええ。あ、落ちた人形取って」

「ああ、これか?マージナルはこういうヒョロヒョロしたのが流行ってんのかよ」


「そうよ、まあこういう文化は見習いたいわね。しかも魔石使って音も鳴るし…あっ!」


「へぇマジか」

 そう言いつつブンブン人形を振ったその時、例の声が発せられる。


《ヤメロ》


「うあ!なんだこいつ」

 突然のおっさん声に驚き、持っていた人形を絨毯の上に落とし慌てて距離を取る兄に苦笑した。


「声に関しては私が挨拶とか色々入れてあげているんだけど、お店のおじさんの声が入ったデモ用魔石を取るのを忘れて入れっぱなしだったんだけど、ノイがそれ聞いて気に入っちゃったからそのままなのよ」


「わけわかんないの買ってくんなよ、マジで呪いの人形かと思ったぜ」


「天下の近衛兵団の隊長さんが情けないわよ。さあノイ、おねえちゃんと一緒にベッドに行きましょう」


「成長したのは減らず口だけかよ……まあ取り合えずゆっくり休んでくれや」

「うん、ありがとう。お兄様もね」

 人形を私の腕元に引っかけて自分の部屋に戻って行く兄の背中を見送りながら(きびす)を返して私も久々の自分の部屋で就寝をする事にした。


(明日はノイの為にお菓子を焼いてあげようかな)

 そんな事を考えながら横で寝ているノイの頭を撫で、眠りについた。


◇◇◇


――翌朝


 懐かしの帝城工事の音が鳴り響き、目が覚める。横ではノイがまだ寝ていたが、ドアをノックする音が聞こえ、彼女を起こさない様にベッドを降りドアを開けるとネコマルさんが立っていた。


「おはようございますお嬢様」


「おはよう、ノイならまだ寝てるよ」


「いえ、旦那様から朝稽古のお誘いです」

「!?」

 言われた瞬間、方向転換してベッドに入ろうとしたが、肩をガッチリつかまれとても良い笑顔で強制的に着替えさせられ洗顔など行われた後に屋敷の庭へと連行されてしまったのだった。


 渋々庭に作られている競技場へ入ると、そこには父はおらず代わりに紅い服を着た黒髪の少女が私に気が付き大声を上げて来る。


「よう!ペルディータ、久しぶりだな!!今日の模擬戦の相手はあたいだ」


「うわ、ツバキ…また面倒臭いのが……」

 目の前に居るのはムラクモ将軍の六兄弟の末っ子で私の幼馴染のツバキ・ムラクモ。額に二本の角を擁し艶のある長い黒髪を後ろ手に縛って凛とした表情の美少女だが、如何(いかん)せん鬼族の気性の荒さが全てを台無しにしているのが玉に瑕だ。

 学園に行く前はよく手合わせをしていたのだが、八割方は私の勝利で終わる。力は彼女の方が圧倒的ではあるが、直線的な攻撃を力任せにしてくるので読みやすい上に負けると直情的に仕掛けて来るので御しやすい。さらに何度も挑戦して来る為、私の体力切れで負けると全ての勝負に勝ったかのように喜ぶので面倒臭い、まあ悪い奴ではないのだが。



「あん?何か言ったか?」


「い~え、なにも」

「ふん、人族かぶれになってないかあたいが試してやるからね」

 そう言いつつ錫杖の長い木の棒を頭の上でグルグル回し、一通りの演武を見せつけてから構え決めるのを見て私も渋々ながらもネコマルさんに渡された木の棒を構えていざ勝負。


「はい、始め!」

 開始の合図と共に突撃して来るツバキの攻撃を受け流す様に払って行く。


カン!カン!カン!


 棒を打ち合う音が庭に響き、何合か打ち合ってると彼女の変化に気が付く。フェイントを入れてきたりと攻撃が多彩になってきてるのだ。


「へえ、お兄さんにしごかれた?」

 思わぬ進化にガードしながら聞いてみると、ニヤリとしながら攻撃を加速させる。


カン!カン!カン!カカン!!


「はっ!元々の実力よ!それそれそれ!!」

 高速で突き出される棒先を何とかかわしながら上手くいなしていた。しかし防戦一方の矢先、踵を小石に取られ体制が崩れた瞬間、チャンスとばかりに渾身の一撃が私の肩口に放たれたその時、私の視界が一瞬歪み何故か彼女の背中を捕らえたが、”バシン”と肩を打たれ尻もちをついた事で目が覚める。


「そこまで!」

 ネコマルさんの合図で、棒を治め互いに礼をして終了した。


「ふぅ…まいりました」

「ふふん、どうよこの成長ぶり」

 ツバキは得意げに地面に棒を立てながら、私に手を差し伸べてくれたので素直に手を取って起き上がり砂埃を叩いていると、何処で見ていたのかお父様が拍手をしながらやって来た。


「ツバキ、見事な立ち回りだった。成長したな」

「ありがとうございます!将軍に褒められると兄達にしごかれた甲斐もあったというものです」


「ペル、お前はちょっと怠けすぎだな、夏休み中は朝稽古をちゃんと出る様に」

「は、はい」


「ははは、まあ気を落とすなよ、今度他の連中連れて来るから久々に遊びに行こうぜ」

「うん、ツバキありがとう。あ、朝食いっしょに取らない?」

「わり~、兄貴達と約束があるんで、また今度ご相伴に預かるよ」

「わかった」

 人の背中をバシバシ叩きながら早朝から元気なツバキが大きく手を振って走って帰っていたのを見送り、朝食の為に屋敷に入ろうとすると、お父様から呼び止められる。


「ペル、朝食の後にでも俺の部屋にちょっと寄ってくれ」


「あ、はいわかりました」


 何だろうと思いつつも、湯あみをした後朝食を取り、その後お父様の部屋を訪ねたのだった。




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