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試験と煙


 一定時間が過ぎ他の教科へ変更して今度は私が苦手な古語を何故か会長が教えてくれる形になった。彼女の教え方は非常に要点をまとめて分かりやすく教えてくれるので、古い言い回しや文法の形などはすぐに覚える事が出来、非常にありがたい。


「まあ、ペルちゃんはマージナルの古代語の文法なんて馴染みがないから難しいよね」


「そうですね、ただ歴史学にも繋がる事なので出来るに越したことはないですし、会長さんの教え方が非常に分かりやすくて為になります」


「うふふ、褒めても何も出ないわよ?でもまあお役に立ててなにより。その調子で試験もがんばりましょうね、でも隣はもうギブアップ寸前かな?」

 会長が移した視線を追うと、隣で一緒に古語を教えても立っていたロザリーは今にも眠りに落ちそうな彼女の様子を確認し、こっそり太腿をつねってやった。


「い”っ!?」

 中途半端に声を上げて立ち上がる彼女に気が付き、不思議そうな顔をして殿下が優しく声を掛ける。


「ロザリーくん、どうしたんだい?わからない所でも?」


「…えっと、大丈夫です。問題ありません‥‥‥」


「?それなら良いんだけど」


 そう言われ、苦笑いしたあとに私の方に向き直り、涙目で睨めつけて来のだった。


 その後は滞りなく勉強会は終わり、途中生徒会長がリーサ副会長に見つかって連行された以外は私的に上手くいった感じだったけど他の人達はどうだったかは試験後にわかるだろうとは思う。この勉強会以降はレイとダフニスがやたらと私の世話を競ってしたがるのがちょっと鬱陶(うっとう)しく感じる事が多くなったのは割愛。



 それから試験までの期間は時間が合えば度々勉強会を行い、気が付けば学期末試験当日となり皆が戦々恐々となっている中、教室を一通り眺めていると特に緊張もしてないような殿下やメティ、ダフニスとギリギリまで教科書を見ているレイや肩を叩いたら耳から覚えたものが零れそうなロザリーの真剣な顔がちょっと可笑しかった。私と言えば試験というものが初めての経験で意識はしていなかったけど手が汗ばんでいるのを見て多少緊張はしているのかも知れない。


 開始の鐘が鳴り響き、試験が始まると皆真剣な面持ちで答案用紙とにらめっこしながら回答を埋めて行き、休憩を挟みながら粛々と各教科のテストを(こな)していく。


 奏功している内に最後の学科として苦手とする古典語学のテスト用紙が回って来て小さく深呼吸をしながら落ち着いて問題文を読んでいると、窓際の生徒が少しザワツキ始めていた。

 最初こそは無視して頭を掻きながら問題文を考えていたが、ザワツキが教室の一部に広まる頃には教壇の近くに座っていたクラフトール先生が立ち上がり注意をし始めたのが耳に入り、彼らと同じく視線を窓の外に移すと黒い煙が立ち上っているのが見えた。

(火事かしら?)


「何を騒いでる?試験中だぞ、私語は慎め」


「でも先生、王城から煙が……」

一番前にいる窓際の生徒が窓から見える王城を指さし、教師に訴えると他の生徒も外を見ようと立ち上がり外を眺め始める。


「なに?」

「え?火事じゃない??」

「マジで」

「なんか焦げ臭い匂いがする」


――ぱんぱん


「戻りなさい、例え火事であろうと王宮魔術師が控えてるから問題ない、君達には君達のやるべき事があるだろ?ちゃんと座ってテストを続けなさい!ただし、どさくさに紛れてカンニングなどしない様に!!」


 クラスの浮足立っている状況を見かねて先生が言葉の怒気を強めると、皆驚き席に戻り始める。先生の言う通り、王宮には水系を使う魔術師程度いくらでもいるだろう。それにしても嫌なタイミングで火事が発生したものだ、集中力が途切れ後半は結構グダグダ感が否めない。それでも終了までには何とか答案を埋める事が出来たのは勉強会のおかげかもしれない。



 試験終了の鐘が鳴る頃には、王城の煙は白く変わり薄くなっているのを見るとほぼ鎮火したと見て良いだろう。ボーっとしながら窓際に寄りかかって外を見ているとレイが隣へ寄って来た。


「まあ試験の結果はお互い推して知るべしだな。とりあえずお疲れさん」


「そうだね。まあ取り合えずお疲れさまです」


 私が最初に眺めていた方向に気が付いたレイは補足するように、あの火事の状況を教えてくれる。


「詳細はまだだけど一応ジルの所に連絡きていて、燃えたのは教団が管理する区画で宝物庫の一部が燃えたらしいから陛下らの場所は無事だそうだ」


「そう、人的被害がないなら不幸中の幸いって感じね」


「人的被害はないけど、被害によってはニベル教皇は今頃青い顔をしているんじゃないかな」

 いつの間にか近くに来ていたダフニスが肩を竦めながら窓に寄って行き、白い煙が風に流されてる様子を見つめている。その姿にレイは少し眉を動かしたが、同じように視線を城に向けた。


「宝物庫って言ってけど。貴重品があったら勿体ないわね」

 そうは言いつつ、魔具などの先進国なので実際貴重品があったとすれば防犯用に色々対策位はしているだろうと思ってもいたのだが、後で聞いた話では当事者達はそうも行かない様子だったらしい。



◇◇◇



――王城の端、教団宝物庫


「早く燃えていない書物や魔道具などの宝物を移動させなさい!!」


「は、はい、しかし火の方は大方鎮火しましたが、完全に鎮火したわけではございませんのでまだ危険な状態かと思いますが…」


「そんな事はわかっています。とにかく今は延焼していない物だけでも出来るだけ外に移動させなさい」


「「はい」」


 ニベル教皇は焦っていた。大勢の神殿関係者を動かし、貴重品の保護を最優先させているが宝物庫にあった貴重品の半分は諦めるしかない状況で一番気がかりなのは最深部にある金庫だ。防護結界などを張り巡らせている為、多少の火では燃える事はないにしろ万が一何かの拍子に中身が見られては教団の失墜を招く可能性が高い。何より全て破棄したはずの聖女を使った召喚術式の写本が見つかってしまえば没収どころか、大問題に発展する事は必至なのだ。


「ニベル教皇、アルトレー騎士団長とスィオーネ魔術師長が面会を求めて来ています」


「なに?この忙しい時に…… 分かった今行く」

 修道士の一人がニベルに報告に上がると、一瞬忌々しそうな言葉を小さく呟いたがすぐに取り繕い報告に来た者を下がらせて、二人の待つ入り口まで足を向けた。



「これはこれは騎士団長に魔術師長、この度の火災にあたりのお力添え大変感謝しますぞ」


「ニベル教皇殿、此度は災難でしたな。とは言えまだ火は完全に消えておらず、二次災害の可能性もありますゆえ中での消火作業の許可を頂きたいのだが?」


「ありがたいお申し出だが、それは難しい相談ですな。宝物庫には門外不出の書物や魔道具が数多くありそれを部外者に見せる事は出来かねるのだ。それにこちらにも王宮魔術師とは行かないが多少心得のある者が対応しておりますゆえ、お引き取りを」


「しかし……」

 尚も食い下がろうとしたアルトレーをスィオーネが肩を掴んで止めた。


「アルトレー、教皇殿が仰る通り此処は彼らに任せて我々は他の場所が延焼していないか調査に回ろう」


「…わかった。君に従おう」

 教皇の対応に釈然とはしなかったが、長年の親友である魔術師長には何か思う所があっての対応と見て引き下がる事に同意をした。


 帰って行く二人を見送り、(きびす)を返して金庫の確認をしようと足を向けた所、消火に当たっていた修道士が一人がニベルの元へ青い顔をして走って来るのが見えた。何事かと問うと彼の口から出た言葉にニベルは愕然とする。


「ニ、ニベル教皇!黒ずくめの男が金庫の中身を盗み我々の消火の隙を突いて逃げて行きました!恐らく火事の間、金庫の防護結界内で脱出のタイミングを推し量っていたのかと思われます」


「何!?まさか!!!」


 そう叫ぶと教皇はやって来た修道士と共に宝物庫の奥へと走って行く。その姿を後ろで見ていたアルトレー達は頷き合うと、すぐさま後を彼らの追った。




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