勉強会
驚いた事に、ロザリーは魔女の文字を読み解くことが出来てしまった。これも聖女の力なのか彼女自身は特に勉強したわけでもないそうだ。
「ありがとうロザリー、切れ端の内容が何となくわかったわ」
「え?あ~うん、なんかよくわかんないけど何か役に立てたようでよかったよ」
自分のやった事の凄さが分ってない様子で、猫に頬ずりしている姿を見るとこれを考えた魔女達に同情を禁じ得ない。
《――なるほど、文章の端々から考えられる事はフレッシュゴーレムの製造方法に関する記述の一部だろうと推察できますね》
《例のキャンプでロザリーや殿下を襲ってきたあのゴーレムの出所場所の手掛かりがあれば騎士団長さんの方も捜査が進むかもしれないわね》
《――それは兎も角として、お嬢様はこれ以上余計な事件に頭を突っ込むのはやめましょうね。それは騎士団の仕事ですから、お勉強の方に力を入れてください》
《はいはい、わかってます。でも降りかかる火の粉は払っていいでしょ?》
《――自分から火事の真っただ中へ突入して火の粉を被るのは違いますから》
《……はい》
伊達に専属メイドを幼少の頃から仕えてる訳もなく、私の性格を見抜いた上で先手を取って来るネコマルさんは流石としか言いようがない。ここは素直に従っておくしかなさそうだ。
《――取り合えず、本日の定時連絡は終了します。もうすぐ学期末の試験の様ですので皇女殿下の名代として相応しい成績を残して頂けると期待していますね》
《!!……も、もちろんわかっているわよ、それじゃね》
古典語学が苦手科目になっているのを完全に見抜かれての釘指しだろう。まったく油断も隙もないが、たしかにラティア殿下の名代で留学しに来ている事を考えれば、あの黒フードの男の事など構っている暇はないのだ。
「あ~、時間切れか~アンテちゃんバイバイ」
煙の様に消えてゆく猫を惜しむように手元を見ているロザリーにちょっと勉強について聞いてみた。
「あのさ、もうすぐ学期末のテストが近いよね?勉強進んでいる?ってなんでソッポ向くのよ」
「もー、わかってるでしょ?あたしに勉強の話を聞かないで!サージさんにでも聞いて頂戴」
そう言いつつロザリーはベッドに潜り込んでしまう。正直、彼女の言う通りクラス委員長でもあるサージ君に勉強を教わる事も考えたが、実際彼はレイの執事でもあり、クラス委員長、図書館の司書とマルチロールな半面皆が頼りにしすぎていずれパンクしてしまうのではないかと思うと、おいそれとお願いするにはいささか躊躇してしまう。
変わりと言ってはなんだが、明日メティにでも相談してみようかと思いながら自分もベッドへと潜り込んでサイドテーブルの上に在る魔石ランプの灯りを消した。
◇◇◇
翌朝、例の紙片を返しに学長室へ行くと早朝にも関わらず騎士団長が待っていてくれたのはやはり、この案件に関心が高いのだろう。
「なるほど、ジル殿下やロザリア嬢を襲ったゴーレムの出何処が見えて来たな。いや、君にお願いしてよかったよ、ありがとう」
感謝の言葉を言われ、少し迷ったが実はロザリーが魔女の文字が読めたという事をあえて伝えた。他国の者が知っていて自国の人間が知らないのは問題があると思うし、学長や団長さんなら上手くロザリーの負担にならないよう取り計らってもらえると思っての事だ。最も、ロザリーにも迂闊に自分の更なる能力をべらべら喋る事の無い様に釘をさしておいたが、本人もこれまでの経験から分かっているのは幸いなのかもしれない。
午前の授業がようやく終わり、昼食後にメティに声を掛けようとするとルシオネ嬢とカーリー嬢の二人が彼女を囲んで教科書を片手に談議している姿を見て声を掛け辛いなあなんて思っていると、レイが殿下が商学の教科書を持って私の所へとやって来た。
「なあ、なあペルちゃん、商学得意だったよね?ちょっと教えて欲しい所があるんだけどいいかな?」
「え?あ、まあ私で分る所ならいいですよ」
「おっ、助かる」
商学は取引や勘定、税などがあり要は計算などが多いのだ。私的にはポーションの薬剤の分量計算などで使う為、疎かに出来ない学科でもあるので教える分にはそれほど難しくはない。
「あ、ペル!あたしも~」
レイに教えてる姿を見て、ロザリーが横へやって来るのを見て一応聞いてみた。
「ねえ、あなたの得意……いや苦手な教科って何?」
「えっと、商学、社会、語学…魔学も難しいわね」
指折り数える姿を見て思わず大きな溜息がでた。いや、その溜息を一番つきたいのは近くで苦笑いしている殿下かもしれない。
「あっはっはっは、ロザリーちゃんそれって全部じゃん」
「いやぁ、一夜漬けは得意なんだけどねえ」
「それじゃあ身にならないわよ、まったく…」
呆れながら勉強の仕方を指摘すると、えへへと頭を掻いて誤魔化してきたのでもう少し小言を言おうとした時に見かねた殿下がフォローを入れて来る。
「まあ取り合えず、ここで話していても仕方ないから放課後に図書館あたりで勉強会でもしようじゃないか」
休み時間という短い時間では大して効果がないので殿下の提案に乗り、放課後集まる事になったのだが……
――放課後の図書館
私とロザリー、殿下とレイは分かるが、何故かダフニスとメイザー生徒会長まで座っていた。
「……えっと、会長は生徒会のお仕事は良いのですか?」
「ん?うちの生徒会はリーサ副会長がいるから問題ないわよ。期末のテストの勉強するならこのわたしが自ら見てあげる」
まあ、三年生であり才女と名高い会長が勉強を見てくれるなら心強いがこの人、前も副会長に怒られてなかったかな?と思いつつ、もう一人増えてるダフニスに視線を移すと目が合い何故いるのかを説明し始める。
「ああ、僕も遅れて入学した関係で、分からない教科があったんだけど殿下から勉強会の話を聞いてお邪魔させてもらったという訳だよ」
チラリと殿下に視線を回す私に気が付き、経緯を答えてくれる。
「まあ勉強会だから頭数がいる方が苦手科目を教え合う事が出来るし来てもらったんだ。だめだったかな?」
「いえ、そう言うお話であれば歓迎です」
殿下の言葉に、そうは返すがどうも私はこの男が何を考えて近づいて来るのかが分からなかった。取り合えず注意をしているが、私以上に相性が悪いのかレイが妙に敵意を燃やしている為に必要以上に警戒するほどでもないようだ。
勉強会が始まると、何故か私の左右にレイとダフニスの二人が座り正面にメイザー会長という妙な布陣が出来てしまった。
「えっとまずは商学から始めましょうか…」
元々、レイからの要望もあったのを思い出し優先しようとしたが実はダフニスも商学が苦手という事で結局二人の面倒を見る事になったのだが……左右から此処の公式がとか、計算の仕方がなどグイグイと二人で迫ってくるもので、てんてこまいになってる様子を会長は楽しそうに見ている。
(この人、なんでこの場所に居るのかしら…)
「ほらレイ、ここの計算間違ってるよ、ダフニスさんは此処を置き換えて」
「あ、ほんとだ」「ああ、そうかありがとう」
妙に同じタイミングで質問してくるものだから二人の顔をチラリと見たら、どうやらお互いライバル視して牽制しあってる様だった。とりあえずライバル心が向上心になってるなら良いかなとは思うが巻き込まれる側は大変だと考えていると、会長がニヤニヤしながら体を前に出しながら私に小声で一言を耳打ちをしてくる。
「ペルちゃんって、わりと鈍感ね」
「ええ?なんですかそれ」
(…鈍感に見えるよねえ)




