試験結果
城内で起こっている事は露知らず、試験も無事終わりのんびり昼食を取ろうと席を立つと見知った二人の男子生徒が待っていた。
「やあペルさん、これから昼食ならご一緒にどうですか?」
「ペルちゃん、昼飯に行こうぜ」
レイとダフニスはお互い肩で牽制し合って、グイグイ迫って来るのを目の当たりにして思わず苦笑いをした後、溜息をこぼす。
「あ~、二人共食事を取るなら皆で仲良く……」
そう言いかけると、急に後ろから腕を掴まれ振り向くとロザリーが明後日の方を向きながら必死に何かを訴えていた。
「あ、あたしいつも彼女と食事を取ってるから大丈夫です!」
何事かと見てみると、どうやら聖女様とお近づきになりたい生徒達が昼食を誘いに来ていた様だった。中には黒髪で不吉だとか、魔族の血がどうとか陰口を叩いていた輩も混じっていてこちらも如何ともしがたい様子である。
誘って来ている者達もまさか自分が蔑んでいた同級生が聖女になるとは思いもしなかったのだろう。手の平を返す気持ちも分からないでもないが、結局聖女である事をしばらく隠すという学園の方針はあまり役に立っていないのは自明の理であった。
どうしたものかとロザリーを囲む面々を眺めていると、私に睨まれたのかと思ったのか視線が合った途端に苦笑いを浮かべてすごすごと散ってゆく。
(そんなに怖い顔したかな……って君達の所為なのね)
私の後ろに控えた男二人が腕組みをして怖い顔で威圧していたのを可笑しく感じていたが、よくよく考えてみれば第三者的に私がやらせてる様に見え、ちょっと複雑な気分だ。
昼食後、いつもの面子でテラスでお茶をしていると話の流れが自然と例の火事の話しになり、殿下にその後の話を聞いてみるが、結局宝物庫以外は無事という最初の情報以外は特に連絡はないらしい。
それよりも身近な火事は近くで起こっている様で、ここ最近増えているロザリーを見る他の生徒の視線だ。これに関しては私や殿下達が近くにいる場合は良いが、剣魔科の授業などでは魔法専科ゆえに一人になってしまう事が多い。かといってルシオネさんやカーリーさんにお願いしても、子爵家の令嬢という立場ゆえ家格を盾に追っぱわれてしまう可能性も高いのが残念でならない。
これは本格的に学園に動いてもらわないと難しいかも知れない。となると、気は進まないがこういう生徒同士の問題はやっぱりあの方に相談するしかなそうだ。
(あんまり借りは作りたくはないんだけどな)
――放課後の図書館
貸出不可の本を立ち読みをしていると、横に人影を感じ本をパタリと閉じ、その人影の方を見据える。するとその人は少し驚いた様な顔をした。当然だ、ここに来るのを待ち構えていたのだから。
「会長、ちょっとご相談があるのですが」
「なあに?貴方から相談事なんて珍しいけど、たぶんロザリアちゃんの事ね?」
さすが、四方に情報網を持っている会長様だ。私の相談事など手に取る様にわかるのだろう。
「お察しの通り、彼女の学園での生活に少々不自由になって来てましてこのまま放置すると更にエスカレートするのではないかと危惧しています。ですのでご助力を頂けないかと」
「そうねえ…正直生徒会としても難しい問題なのよね。下心があるなしにしろ、生徒同士の交流に制限を掛ける様な決まり事を安易に作る訳にもいかないし、判断に苦慮してるのよ」
「なるほど、たしかに下手な制限は今後の学園内に閉塞感を生む可能性もあるという事ですね」
「そういう事。でもまあ、このまま放置するわけにもいかないから近々行われる予定の生徒総会でもう少し踏み込んで注意喚起はするつもりだし、それに現状ペルちゃん達も睨みを利かせているなら次第に沈静化はすると思っているの。まあそれでもしつこい輩はわたくし直々に個別指導をしてあげるわ」
いつも笑顔の会長様の顔がこの時ばかりは背筋がぞくりとしてしまった。
◇◇◇
数日後、予定通り学期末最後の生徒総会が行われその場で生徒会長の訓令が出たお陰で無理に食事誘いや過剰な接触などは大幅に減ったのは有難い事であった。コソコソとしていたロザリーも普段通りの生活が出来、私達も神経を尖らせる必要も徐々に減って行ったのは助かっていた。
夏休みが近づくそんなある日、ついにテスト結果が張り出され皆が戦々恐々としながら廊下に集まって一喜一憂をしている。
「うう、やだなあ…見たくない」
「ちょっと歩きにくいんだけど」
ロザリーは人の腕をガッチリ掴んで引っ張るものだから、張り出されている廊下へたどり着くまで無駄に時間が掛かってしまい、さらに辿り着けば近くの生徒は私達をジロジロと興味ありげに見られていたのは半分諦めるしかなさそうだ。
「あれ?ペルちゃん達は今見に来たの?」
声を掛けられ振り向くと、殿下とレイが笑顔で立っている。
「まあ、これだから遅くなっちゃったんだよね」
引っ付いてるロザリーを指さし渋い顔をすると彼らは苦笑した顔で掲示板を指さして言う。
「まあ、ご覧あれ」
レイの誘導の元、人垣を掻き分け見える位置まで移動し張られた順位表を見上げた。
直ぐに目に入ったのは一番上位の殿下で当然一位。二位にはサージ君、以外にも遅く入学したダフニスが三位、メティが四位と才女ぶりを発揮していた。
(何と言うか、私の友人達ってみんな優秀すぎないかしら)
感心しながらも目線を下へ移していくと、九位に自分の名前を確認して少し安堵する。一応皇女殿下の名代という面目もあるのでギリギリとはいえ十位以内になれたのは良かった。そのすぐ上の八位にレイの名前が書いてあり横目でチラリと見た彼と目線が合うと笑顔で返してくるが、すぐ逸らし反対に居るロザリーの顔に視線を移すと、複雑そうな顔をしており、彼女の目線の先を見ると二十一位という場所に名前が書いてあった。
とりあえず四十八人中真ん中より上だったから勉強会は無駄ではなかったのではないだろうか。そう考えつつ微妙な顔をしているロザリーの手を引っ張って人垣から外へと移動し、待ってくれていた殿下達と教室へと戻って行く。
「はぁああ、あたしだけ十位どころか二十位以内にも入れなかった……」
「とは言え勉強会の成果が出ているって事は今後も頑張れば順位はもっとあげられるんじゃない?今回は腰を上げるのがちょっと遅かっただけで伸びしろはあると思う」
「うん、みんなには感謝しているけど、それより周りの目が痛かったよ」
「焦る気持ちは分かるけど聖女関係なしに自分のペースでやるべき。それに中間以上だから上々だよ。某ガイラス君に比べればね」
「ええ~、あの人下から数えた方が早かった気が……」
ロザリーが愚痴りそうになった時、真後ろから聞き覚えのある声が響く。
「俺がなんだって?」
「「うわ、でた」」
振り向くと、ガイラス公子が腰に手を当てて仁王立ちしてこちらを睨んでいた。
「人を魔物みたいに言うな!」
「まあ、それはともかく君はもうちょっと勉強はした方が良いと思うよ」
「はっ!いいんだよ、俺は将来近衛騎士を目指しているんだからそんなチマチマした事が出来なくとも問題ない。そもそも古語や社会学なんて剣術には必要ないだろ」
「ん~、立派な夢だけど騎士の上に立つなら過去の戦史とか学ぶべき事は多いんじゃ…」
「それこそ軍師でも目指している奴がする事だ、騎士ってのは集団戦が基本だ。だからこそ個々の専門分野の人間を振り分ければいいのさ、一人が何でもかんでも出来ればいいってもんじゃない」
「う~ん、何かいい事言ってる様に聞こえて根本的に間違ってる様な気が……」
「はは、俺は何時だっていい事しか言わねーよ、じゃあな」
得意げな顔をして自分の教室に戻って行く公子の後姿を複雑な気分で見送った。でもやっぱり勉強はした方がいいよ、四十四位のガイラス君。




