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失策続き

視点が変わります


 ニベル教皇は自室に帰るなりイライラを落ち着かせる為に、酒瓶を取り手元にあったグラスには注がずそのままラッパ飲みして机へ叩きつける様に瓶を置いた。


――ダンッ!!


「忌々しいあの魔族の小娘め、余計な事を言ったお陰でわたしがこれまで築いたものが台無しになってしまう所だったではないか」


「あらあら戻って来るなりどうしたのですか?」

 カルメは彼の様子をみながら、新しい酒瓶を運んで来てニベルの前のグラスに注ぎ足す。彼は直ぐに手に取りあおる様に飲み干すと彼女に事の次第を不愉快そうに語って来た。しばらくその内容を黙って聞いていた彼女はクスリと笑いニベルの頭を子供をなだめる様に撫で回し耳元で囁く。


「焦る必要はありませんよ、どうせ卒業してしまえば魔族の小娘は自国に帰る事になりますし聖女の方もどうとでもなります。今は焦らず時を待ち、波風を立てない方が懸命かと思いますよ」


「そ、そうだな、カーデナルの数々の失敗もあって少し焦り過ぎたな、今は静観すべきか」


「はい、その方がよろしいかと。それよりそのカーデナル君の扱いはどうします?放置しますとまた汚名返上と称して余計な事をしそうな予感がしますが」


「……たしかにそれは考えられるな。数が少ないフレッシュゴーレムを勝手に持ち出し失ったツケはきっちり払ってもらわないとな」

 ニベルは不敵に笑いカルメに視線を合わせると、何かを察したように彼から離れ一礼をして部屋を静かに出て行く。


 静かになった部屋でニベルはグラスにお酒を注ぎ、再び一気に飲み干したのだった。




◇◇◇



 その頃、ニベル教皇から暇をもらったカーデナルは下町の小さな酒場の奥で一人酒をあおっていた。


――ダンッ!!


「くっそ、ニベルの野郎~現場を知らないくせに好き勝手言ってくれるぜ」

 安いエールの入った木のジョッキをくたびれた小さなテーブルに叩きつけると、中身が少し飛び散り手を甲を濡らす。

 それを舐め取ろうと口を甲に近づけた瞬間、店の灯りが人影で遮られ影をおとした。振り向き見上げると、そこには見知った顔が笑顔と共にあった。


「やあ、カーデナル、久しぶり。あまり機嫌がよくないようだね」


「ダフニス……ここはお前の様なおぼっちゃんが来る所じゃないぞ?それに俺は今休暇中だぜ」


「おやそうでしたか、聖女探しにあちこっち走り回ってついに見つけたという報告を聞いてたんだけどね。 さあどうぞ、お祝のお酒です」

「はっ、嫌みかよ」

 ダフニスと呼ばれた淡い金髪の爽やかな顔をした体格の良い青年は黒いフードを目深に被ったカーデナルの対面の椅子に座り、手に持ったグラスを彼の前に置くと高級そうな酒を注いで差し出した。


 カーデナルは少し躊躇(ちゅうちょ)した様子を一瞬見せたが、安酒ばかり飲んでいた事もあり差し出されたグラスを拒絶する事も出来ずに手に取り、一気にあおった。


――ゴクッゴクッ…


「ふ~、うまいな」


「お気に召しましたか? どうぞもう一杯」

 すかさず瓶を取り、空いたグラスになみなみ注ぐダフニスの姿を見てカーデナルは静かに、そして威圧する様に口を開いた。


「で?俺に何を求めてるんだ?」


「……まあ、腹の探り合いなんて時間の無駄だからね。単刀直入に聞くよ、君の見つけた聖女って本物?」

 一瞬、彼の言ったセリフに無言になるも、まるで自分が適当な仕事をして確認した事を否定された気分になり、怒気を強めて言い放つ。


「あ”?何言ってやがる、俺はこの目で力を確認したし教会の方でも水晶が光ったそうじゃないか!なんで今更しゃしゃったテメーに文句つけられなきゃならないんだ?」


「あーごめんごめん、君の仕事ぶりを批判するつもりはないんだよ。僕は見ていないんで単なる確認なんだ」


「だったら……」


「僕は今度、ファールバウティ学園に入るんだ」

 カーデナルの怒りも何処吹く風の様に流し、次にダフニスの口から出た言葉にさっきまであった怒りがどこかへ消え去り、驚いてダフニスの顔を見た。


「は?入るって…そんな簡単な事じゃないだろ?だいたいお前は庶民出の修道士じゃないか」

 思わず前のめりになり、小声で疑問を呈したが特にそれが問題でも何でもない様に飄々とした様子がカーデナルを一層混乱させた。そもそもファールバウティ学園は原則貴族の子女子息が入る事が許されているのにも関わらずだ。


「そうらしいね、まあ今回はとある貴族の方が僕を養子に迎えたいと仰ってね、断る理由もないから受けたって事かな」


「そんな奇特な貴族がいるのかよ、お前一体……まあいい、で、お前が学園に入って何をする気だ?俺は騎士団にマークされてるから何も手伝う事は出来ないぞ。最悪首都から逃げなきゃならねえ」


「ああ、わかってるわかってる、君は学生と色々やり合ってるからねえ。まあそんな状況なんで、僕はあまり動けないんだ。そこで君へ打って付けの仕事を持って来たってわけ」

 そう言いつつ小さな紙を破片を手元に差し出され、受け取り内容を一瞥してすぐにテーブル端に置かれている小さな油ランプの火にくべて燃やした。その煙は酒場の天井へと消えて行き、カーデナルは眉間を手で押えながら小さく呟く。


「ニベルの奴を出し抜く気か?それに……」

 言い淀むカーデナルにダフニスはニヤリと笑い再びグラスにお酒を注いで言った。


「アレは本来この国に在ってはならないからね。君は戦闘より潜入活動の方が得意でしょ?それにこの仕事を綺麗に片付けてくれればライハンドル帝国へ逃亡の道筋とお金を用意させてもらうよ」


「…ああ、わかったよ、このまま酒飲んでいてもニベルに吠え面かかせらんねえからな」

 そう啖呵(たんか)を切ると注がれたグラスのお酒を一飲みにして立ち上がると、踵を返して酒場から出て行った。その後ろ姿を何か期待した顔で眺めていると入れ替わるように一人の女が先ほどまでカーデナルが座っていた椅子に腰かけた。


「あんな意気揚々とした顔のカーデナル君は久々にみたわね」


「やあカルメ、愛しの教皇様はどうしたんだい?」


「やめてよ、あんな体をベタベタ触って来るおじさんが愛しいなんて思わないわよ。でもまあ、勝手に騒ぎを起こしたものだから、自省の念を込めてしばらくは大人しくしてるんじゃないの?」


「まあ、カーデナル君ががんばったら静観なんてしていられないだろうね」

 意地の悪そうな顔をして窓の先に見える夜でも明るい王城の方を見つめた。


「そうね、それにしても彼が成功したら本当にライハンドルへのチケットを取ってあげるの?」

 カルメはテーブルに残された高級酒の瓶をおもむろに手に取り、空になっていたグラスに注いでちびちび飲みながらダフニスを見つめると、心外な事を言われたかのように彼は肩を竦める。


「もちろん、約束だからね。でもうまく首都を出て国境を越えるまでの道程の保証までは僕は出来ないけどね」


「怖いんだ」


「あれ?それ、君が言っちゃうんだ」

 お互いの顔を見合わせてクスクスと笑い合う。その笑い声は酒場の喧騒にかき消されて静かに夜は更けて行った。





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