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再会は馬車の中で

 夕刻の傾きかけた日の光が学園へ続く道すがらの木々の隙間を抜けて、走り続ける馬車の中を等間隔で照らしてゆく。

 そんな車中で真剣な眼差しで私をジッと見つめるレイの視線に耐え兼ね、何か言おうとすると先に彼の口が開いた。


「俺ね、ガキの頃、領内に運び込む荷物搬入の手伝いに親父達が行っている隙にサージと一緒に探検と称して行く事を禁止されていたアルカンディア国境近くにある黒の森に馬で向かったんだ」


「黒の森?」

 私の頭の中の地図には黒の森という名称はないが、国境付近と言えばたぶん薬草の宝庫でもあるガルタネの森の事を言っているのだろう。


「そこで草むらを進んでいたら足元に崖がある事に気付かず足を踏み外してそのまま落ちて大けがをしたんだ。一緒いたサージは降りて助けてくれようとしたけど、何せ子供が簡単に降りられる場所じゃないから最初は右往左往してたんだけど、あいつ馬を怖がってたくせに俺の為に乗って大人に知らせに行ってくれたんだよ」


「…なるほど、その間に私と会ったという事ね」

 にべもなく私がそう結論付けるとレイは一瞬目を丸くしたがすぐに笑顔になる。


「…ああ、やっぱりあの時の子はペルちゃんだったんだ。国境近くで会った時から気にはなっていたけど、さっきの姿を見て確証に変わっていたよ」


「そう…なんだ。何かごめん、あの時の事はぼんやりとした記憶しかないけど、汚いって文句を言って来た男の子は覚えてた」


「あっ!それは何と言うか、正直申し訳なかった。命を救ってくれた恩人なのにそんな事言って」

 私の言葉に思い出したかの様な顔をしたと思いきや、いきなりレイは床に頭を付ける位の勢いで頭を下げて来てちょっと驚く。軽い気持ちだったが結構気にしてた様だ。でもまあ子供の頃の悪気のないストレートな言い方はよくある事だろう。


「やめてよ、お互い子供同士だったし全然気にしてないよ。あの処方は私が子供の頃に教えてもらった簡単な傷薬なの。見た目の印象は悪いけどね」


 そう答えると少し安堵した様な顔をしてレイは座席に座り直す。


「……結局あの後、屋敷は上へ下への大騒ぎで最終的には医局の人に観て貰ったけど、血も止まって化膿もしていない足を見て驚いていたよ。それでも母親の意向でわざわざ高い上級ポーションを飲まされたけど、その後怒って帰って来た親父にげんこつ食らってたんこぶ出来たのもいい思い出だな」


「ふふ、怪我を直した後に怪我したら上級ポーションも形無しね」

 二人で笑い合っていると、御者の人が小窓を叩いてもう間もなく学園に到着する旨を伝えて来た。


「なんとかギリギリ夕食前に帰って来れたな。俺達はともかくロザリーちゃんはこれからちょっと大変かもな」


「ですね、国王様が一応緘口令(かんこうれい)を敷いてたけど、遠からずロザリーの噂は広がっちゃう可能性が高いと思う」


「ああ、出席していた貴族の一部が家族に少しでも漏らせば鼠算的に話は広がるだろう……ってペルちゃん今、立ち上がると危ない」


「きゃっ!」

 もうすぐ到着する気の緩みから立ち上がろうと膝を伸ばした瞬間、車輪が石を踏みその勢いで車体がガタリと揺れると立ちかけていた私はバランスを崩し、倒れる寸前レイが抱き止めてくれたのだ。


「大丈夫か?」

「え、ええ…」


「……」

「……あっ、ごめんなさい。 ありがとう、もう大丈夫だから」

 抱き合ったまましばらくその温もりを感じ沈黙が続いていたが、不意に髪に隠れていたキュローに毛を引っ張られて自分のしている恥ずかしい状況に気が付いて、慌てて彼から距離を取った。


「おっと、ちょっと残念だな」

「すけべめ」

 そう言われおどけて笑う彼の顔を見て、胸の奥が少し暖かく感じると同時に視線を落とした先の手に光る指輪が現実を突きつけて来る。急に黙り込む私を見てレイは悪戯が見つかった子供の様な困った顔をしていたのは申し訳なく感じた。



 窓の外をみると既に学園の門を通り過ぎ、馬車はゆっくりと校舎の出入り口で停止すると素早く御者さんがドアを開けてくれる。

 レイはエスコートの為に先に降りて手を差し伸べてくれたので遠慮せずにその手を取り、既に日が落ち灯りが付いた校舎前に降り立つと、少し冷たい風が髪を揺らし半日外へ出かけていただけなのに授業より疲れを感じ早めにベッドで休みたい気分であった。


「はーやれやれ疲れた。ギリギリ夕食には間に合いそうだからこのままホールに行っちまおう」


「そうですね」

 そう答えながら手を引かれるまま二人で食堂ホールへと向かった。


(ロザリーはあの後父親に連れられてどこかに行ったけど、もう戻ってるのかしら?)



◇◇◇



 その頃、ロザリアは父親に連れられ実家へと一時帰宅をさせられていた。


「あの、お父様、あたし学園に戻らないと……」


「ん?ああ、問題ない!三日間の帰宅許可は得ておる。それより、セドナは元よりシャニアも戻っておるし今日はお爺様や伯母上も呼んでおる。お祝だぞ」


「ええ?シャニアは幼年学校の寄宿舎からわざわざ呼んだんですか!?お父様わかっています?国王陛下から聖女である事は卒業まで秘密にせよとのお達しがあったじゃないですか」


「はっはっはっは、大丈夫だ。事前にその事はちゃんと話しておるから今日は親族のみの宴会だ。残念ながらな」


(お父様、歩く拡声器の伯母様がいる時点で公然の秘密じゃないですか…本当に残念です)


 そう思いながら彼女が屋敷の中に入ると、家令を始めメイド達が左右に並び正面の階段から二階まで親族がずらりと勢ぞろいしてるのを目の当たりにして愕然とする。そして彼らは一斉に声を上げた。


「「お帰りなさいませ、聖女ロザリア様!!!」」


(うそでしょ~!?)


 茫然として固まってるロザリアを一斉に取り囲み、母親であるセドナは全力で彼女を抱きしてめて来たのだった。


「ロザリーちゃん!お帰りなさい~母親として本当に鼻が高いわ~、まさかあなたが聖女認定されるなんて」

(そんな大層な性能でもないんですが…)

 抱きしめられながらそんな事を思っていると、弟のシャニアやお爺様、伯母様が目をキラキラさせながら隣に集まって来た。


「ねーさん!凄いよ、僕も友人達に自慢できるよ」

(すんな)

「流石ワシの育てた孫じゃな」

(おじーさまには育てられてませんが…)

「すばらしいわ~、わたくし昔からこの子には何か秘めたモノがあると思ってたのよ~」

(いや、おばさまはあたしを変人扱いしてましたよね?)


 もみくちゃにされながら周りを見渡すと、当時奇行が多かったのと黒髪だった事を馬鹿にしていた従姉妹やその他、会った事もない親戚までいる事に深いため息をつく事となる。


 その後、オデュッセイ家では滞在時間の三日間の内二日はずっと宴会と親族の相手をさせられて最終日は流石に疲れて部屋で休もうかとしていても、やれ腰痛を直してくれだの、食べすぎで腹痛だの挙句の果てに最近頭が薄くなって来たから何とかしてくれだの、引っ切り無しに人が来るものでロザリアは完全にグロッキー状態に陥っていた。


 明日は学園に戻るとなる夜半はさすがに両親も気を利かせてロザリアの部屋には来ることはなかった。安堵してベッドに入ろうと準備していると、ドアを叩く音が聞こえた。


「お嬢様、セティアでございます」


「ああ、入って」


「失礼します」

ちょこんと頭を下げて専属メイドのセティアが入って来ると、静かにドアを閉めてロザリアの傍へと寄って行く。


「三日間、本当にご苦労様。大変だったでしょ」


「いえいえ、普段はお傍仕えが出来ない分、大いにお仕え出来ましたから嬉しかったです~」


「そう?でも無理はしないでね。今後は色々大変になるし、卒業後はもっとね…」


「とんでもない!それこそドンと来いです。それにお嬢様が聖女になろうともお嬢様はお嬢様ですので今後も誠心誠意仕えさせていただきます」


「ありがとう、その気持ち嬉しいわセティア。そうね今度またペルにお願いして焼き菓子作って貰おうかしら」

「え!?あの焼き菓子ですか! あ、すみません」

 思わずでた涎を慌てて腕でゴシゴシしながら恥ずかしそうに頬を赤らめるセティアは小動物のように縮こまる。


「ふふ、すっかりあの菓子のファンね、あたしも彼女に習おうかな」


「え?良いですね、その時はわたくしもお手伝いします~」


「ありがとう」


 そんな会話をしながら、三日目の夜は静かに更けて行ったのだった。




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