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騎士団長からのお誘い


「ペルディータ嬢、ちょっとよろしいかな?」


 ほどなく聖女に関する話は終了し、指輪を付け直して謁見の間を退出しようとした時に後ろから声をかけられた。振り向くと例の騎士団長がそこに立っており、どうやら私に話があるという事で大使とネコマルさんには先に戻ってもらい、私は団長の案内で城内の小さな応接室に通された。


 メイドが一人やって来てカップとお菓子を用意して慣れた手つきで私と団長のお茶を注ぐと、一礼をして部屋を出て行ったのを目で追いながら出されたお茶を啜る。


「急に呼び止めてしまったすまなかったね。俺は騎士団団長のアルトレー・アイガイオンだ。少し聞きたい事があるんだけどよろしいかな?」


「はい、私に答えられる範囲の事柄であれば」

(あれ?たしか学園長の家名と同じなのは親族かな?)


 彼は椅子を少しずらし、私の方へ向き直ると机に肘を着き、前かがみで真っ直ぐ目を見て来る。なるほど、騎士団の尋問慣れした方だなと思いつつも冷静に見つめていると、急に体を起こして頭を掻き始めた。


「あ~すまない誤解しないでくれ、君を尋問する為に呼んだんじゃないんだ。ただ、殿下に例の事件の話を聞いた時に君がフードの男を知っているかの様な対応をしていたと話していた物で、それを聞きたかったんだ」


「あっ、その話しですか、すみません、実は報告していない事があったのを失念していました」


 入学初日に起きた例のロザリー襲撃の話しだ。あの時は彼女の意向で内々で処理してしまったが、今となっては隠す必要もないだろう。

 私は例の男が部屋に入って来て彼女を襲った事や撃退した際に腕に入れ墨があった事を事細かく団長に報告すると、彼はうっすら伸びた顎髭を指でなぞりながらしばらく考え込んでいたが、何か思い立ったように聞いて来た。


「君が見た入れ墨が動いていたというのは本当かな?」


「ええ、危険を感じたので蹴飛ばして距離を取ったのですが、そのまま逃げられてしまって」


「何と言うか、すごいな君は。 う~ん、もしかしたらその入れ墨は闇魔法の類かもしれないな」


「というと?」


「ふむ、君の国では闇魔法の使い手はいるのかい?」


「私の周りは肉弾戦専門が多いですが、部族によってはその手の魔法を得意とする方々はいますね。でも国外にはいるかと言われれば、居ないと言った方が早いでしょうね。それでも魔法を書き記した写本が世の中に出回る事もあるでしょう」


 闇魔法なんかを含めて魔法を得意とするのは魔女(ウィッチ)系の連中だが、研究熱心な彼女らは大体単独で湿地や深い森の奥を好んで住み着き、時々情報交換の為に魔女の集会が行われる程度で他の魔族と出会う事も稀な連中だと聞いたことがある。


「なるほどな、嘗ては君の国とは手広く交易していたから過去にその手の本も紛れる可能性もあるか……いや、情報提供をありがとうペルディータ嬢、感謝する。後はお菓子を自由に食べて行ってくれ」


「ありがとうございます」

 謝意を伝えると、彼は少し感心したような口調でこんなことを言って来た。


「正直な話、今回君が教皇と言い争った意義は我々にとって非常に有意義と見てるんだ」


 そうなんですか?と聞くと、団長は大きく頷く。よくよく彼に聞いてみて分かった事は教団という存在はマージナル王国の中に存在する独立した組織であり、謁見の場でも言われていた通り騎士団の捜査権限がないゆえ、これまで教団がらみになると手が出しにくくなるようで、国王でさえも気を使わないとならない非常に厄介だそうだ。

 しかし、今回の件での教皇の暴言は、教団の今後の聖女の扱いに疑念を持たれた者は少なからず出て来たのは確かだ。おかげでロザリーは難を逃れたが、代わりに私は教皇に睨まれる立場になってしまったが。



「まあ、とにかく君のお陰で教皇の仮面の下を垣間見えたのは大きい。あ、その菓子気に入ったのなら後で君の部屋に届けさせよう」

 話を聞きながら何となく口に運んでいた小さな甘いクッキーは気が付くと、お皿の半分消えていたので少し照れながら話題を変えた。


「す、すみません、ありがとうございます。 ところで団長様はファールバウティ学園の学長とは親戚か何かですか?」


「ん?ああ、あの人は俺のじいさんだ。結構変わり者だろう?でも、魔法に関しては非常に高い知識持った人だったんで、学園を任されたらしいが最近会った時に、学園の空気を変えてくれる様な面白い娘が入学してくれたと話していたよ」

 私を見ながらそう言いつつニヤリと笑いカップのお茶をグイっと一気に飲み干す。


「え?それって……」


「ハッハッハッ! では俺はこれから仕事があるんでここで失礼するよ。此処は騎士団の休憩室なんで、ゆっくり食べて行ってくれ」

 傍らに外して置いてあった兜を被り、立ち上がるとこちらに一礼して部屋を颯爽と出て行く姿を見ながら私も会釈を返して見送るのだった。



(さて、私も戻ろうかな)


 ドアを開けると、先ほどのメイドさんが待機しており、彼女の案内で王宮外での馬車が待機している場所まで送って行ってもらい辺りを見渡すと、それらしい馬車は一台もおらず代わりに使い魔のアンテが階段脇にちょこんと座っていた。

 近寄って行くとこちらに気付いたのか”ニャー”と一言鳴いて私の胸に飛び乗って来る。すると不意にネコマルさんの声が頭に響く。


《――あ、お嬢様、ようやくお戻りになられましたか?》


《うん、今駐機場に来たんだけどうちの馬車が見当たらないよ?》


《――はい、あんまりお嬢様が遅いのでレティクス大使をお送りする為に先に出発しました。ですのでお嬢様は誰か適当に便乗させてもらって学園にお戻りください》


《……は?? ちょっと待って、それって》


《――あら、すみませんお嬢様、長時間アンテを待機させておいたので魔力切れです。では失礼します》


《ちょっと!それは…》ブツン!


「酷いんじゃないかなあ~」

 煙の様に消えるアンテを眺めつつ独り言を呟いて、どうやって帰ろうかと考え込んでいると後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。


「あれ?ペルちゃん、帰ってなかったのかい?」

 その声に反応して振り向くと、そこにはレイが立っていた。


「レイこそ、殿下と一緒に戻ったんじゃないの?」

 聞いてみた所、父親でもある辺境伯の名代として会議に参加していたが、殿下は陛下の夕食会に参加する為に残ったらしい。レイも誘われたらしいけど、さすがに居心地の悪さが極まった場所での食事は食べた気にならないので先に戻る事にしたという事だ。


「まあ、分かる気がする」


「だろ?ジルには悪いが先に逃げさせてもらったってわけさ。ところでペルちゃんは家の馬車待ち?遅れてるならウチの馬車に乗っていくかい?なんて…」

「乗ります!」


 被り気味に手を上げ即答する私に気圧され、やや引き気味に”お、おう”とだけ返事をしてレイは自分の馬車へと案内をしてくれたのだった。



――ガラガラガラガラ


 学園に戻る二人きりの車中ではしばらく沈黙が続いたが、やはり気になるのかレイは謁見の間での話を切り出して来た。


「やっぱり角とかあったんだね」


「ん~まあ、入学時に魔族に不慣れな人が怖がるかも知れないから見えない様にするという提案を私の方からしたんだけど、見せたくなくて隠してるわけじゃないって事は分かってほしいな」


「そういうことか……いや、すまないあの姿を嫌がってるってるわけじゃないんだ、ただ、驚いたのは確かなんだけど、何と言うか……」


「うん大丈夫、わかってる。レイはそういう偏見で人を見ない事を知ってるよ」

 そう言いながらもちょっと疑ってしまったのは胸の奥にしまっておこう。


「そうじゃなくて、やっぱりあの時の女の子はペルちゃん、君なんじゃないかと思ってるんだ」


「え?あの時??」

 どうやら彼の態度に対して勘違いをしていたのは私の方だった。





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