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謁見の場にて


 さきほど見かけた白い法衣の神官らしい者はこの国の教皇ニベルと名乗った。どうやら話の流れを聞いていると、彼が最終的に聖女か否かを判断するらしく、神官数人がかりで大仰(おうぎょう)に運び込まれた綺麗な水晶球がロザリーの前へと置かれると彼女をその前に立たせ、教皇は何か祈りの様な言葉を紡いだ後に、水晶を挟んでロザリーに向き合った。


「ロザリア・オデュッセイ令嬢、この水晶球は歴代聖女様達が祈りを捧げ続け念が込められた貴重な水晶、これに手をかざし、同じ力を持つ者として認められれば光輝きます。貴方にはそれに触れる資格を持った者ですので、心静かに触れなさい」


 教皇に言われ、ロザリーはゆっくりと前に出て皆が固唾を飲んで見守る中、水晶に右手を置こうとする彼女の顔を見ると、明らかに”光るな、光るな”と念じている表情が見て取れた彼女の願いも空しく水晶はゆっくりと淡い光と共に輝き出したのだった。


「「おお~」」


 謁見の間には期待と感嘆の声が響き渡って行くと、ニベル教皇は国王の方へ振り向き断言をする。


「偉大なる国王陛下、御覧の通り彼女はまごう事なき聖女で間違いありません。ただ、歴代の聖女様に比べ、いささか力が弱いですが神殿に預けて頂ければ二、三年の修行の後は歴代に引けを取らぬ聖女にしてお披露目させる事が出来ましょう。如何でしょう?」

 教皇はロザリーの能力に満足してない様子で、修行と称し実質隔離を希望している様だったが、やはり慎重な国王の表情は当然ながら難色を示していた。


「先代聖女を失い十数年、こんなにも早く新しい聖女が発現した事は我が国にとって喜ばしい事だが、今、我が国は非常に難しい舵取りをしているのは周知の通りだと思う。そのような状態の中、修行と称して神殿に入り外界と切り離され人目に付けなくなれば国内は元より、他国に在らぬ誤解を植え付ける可能性が高いと思うが、教皇殿はどう考える?」


「たしかにそのような誤解が生まれるかも知れませんが、そのあたりは外交努力で理解を得る事に期待するしかありません。それより女神の祝福を受けた聖女が能力不足で本来の仕事が出来ないのは由々しき事。特に奥神殿で修行に入った者がみだりに出入りする事は禁忌に触れてしまいます故、ご再考をして頂ければ幸いです」

 ニベルは国王の反応を予想して答えを用意していたのか雄弁に返答し、すでに決定事項の様な顔をしていた。


 国王の懸念する事は最もだろう、神殿には神殿の決まり事があるのも分るがその程度で女神の怒りを買うと言うのだろうか?私達の国の崇拝する星の女神ルドーラ様は必要以上に下界に干渉しないし、偶像崇拝を推奨もしてないから神殿などは皆無だが、一部の熱心な部族が女神神殿を作ったりして祈りを捧げている。また他種族の者がお参りに来ても特に揉める事もないのが現状だ。


 私としては自分達を取り巻く現在の国についてあまりに不理解な現教皇にロザリーを預ける事は歓迎出来ないと思い始めた矢先、意外な助け船が現れた。一人の立派な出で立ちの騎士が手を上げていたのだ。


「アルトレー騎士団長、何か?」


「発言をお許し頂き、有難うございます」

 国王から指名をされ、礼をしながら一歩前に出たその騎士は藍色の短い髪と顔に何かから受けたひっかき傷が三本頬に入っている大柄の騎士でそれでも粗暴そうに見えないのはその立ち振る舞いが美しいからなのだろう。



「さて、これから話す案件は現在騎士団で重要事件として扱っている案件なのですが、最近市中を騒がせてた短期誘拐事件、それとジルベール殿下と聖女様及びご友人を襲った謎の魔導士によるゴレーム事件、二つの事件の背景には聖女能力が関わってると我々は睨んでおります」


「??一体、何が言いたいのだね?」

 話の腰を折られ、少しイラついた様な教皇が騎士団長を睨む。


「はい、当初発生していた聖魔法が使える娘の誘拐事件を起こしていた犯人の容姿とゴーレム使いの容疑者の容姿が非常に酷似していまして、黒いフードを被り腕に蛇の入れ墨が入った男というのが目撃者からの共通情報として我々の所に入っております」


「それで?」


「それに関連して最近城内にある神殿の裏手の墓地で警備の者が黒いフードを着た不審者がうろついているのを見かけすぐに駆け付けましたが、見失う事が数回報告も受けております」


「ああ」

 思わず納得して、小さく声を上げてしまった私は慌てて両手で口を塞いだが、騎士団長はこちらをチラリと一瞥しながら口角を少し上げた。


「犯人を捕まえなければ真相は分かりませんが、少なくともそのような者が神殿付近に侵入している事は非常に由々しき問題だと我々は考えております。しかも騎士団には神殿への立ち入り捜査権がなく行き詰っている状況です。事件の特性から考えれば不審者の狙いは明らかに聖女です。そのような者がうろついている時に聖女を修行させるのはいささか危険かと思います」


「なるほど、君達が扱ってる事件に神殿関係者が関与している可能性があると……たしかに我々が聖女を探していたのは国王陛下も知っておられる事実だが、もし神殿内関係者が事件を起こした不審者を雇ったとなれば、それこそ信用問題に関わる事だな。うむ、わかった。こちらでも内部調査し、全面的に騎士団に協力しよう」


「ご協力感謝いたします」

 教皇は先ほどのイラついた顔を隠し、穏やかな表情で騎士団長にそう答えると、頭を下げ彼は元の位置へと戻る。これは教団に対しての牽制であり、国王への援護でもあるのは察しの良い人なら気が付く行為だった。それと同時に国王が口を開く。



「さて、となるとロザリア嬢の今後だが彼女は第二王子ジルベールの婚約者候補であり、また学園に入ったばかりでまだ学生だ。国としては喜ばしい事であっても過去の歴史を恐れ、諸手を挙げて名乗り出る事は出来なかったのは当然だ。列国の対応も方針転換をされる可能性もある。そこで、各国の大使のご意見を賜りたいのだが、いかがかな?」


 国王に意見を求められた大使一同はそれぞれの立場から慎重姿勢の意見が大半であった。中でも辛辣だったのはライハンドル帝国大使ヴァルマンの意見は聖女利用を完全に停止する事と出来る事なら能力封印まで求めてきている。そんな中、レティクス大使の番が回っていた。


「発言の許可を頂きました事、誠に感謝いたします。そうですね、過去の事例から考えれば二、三年とはいえ所在が分からなくなる事を危険と見る者も現れるでしょうな。とはいえ、我が国から過剰な要望を出すわけには行かない事も事実。陛下の懸命なご判断を期待しております。それと聖女ロザリア様の今後の扱いとなれば、私などの意見より入学以来、聖女殿に懇意にしてもらってるペルディータ嬢の意見も聞いて頂きたく存じます」


(え”っ!?)

 突然こちらに回され、驚き大使の顔を横目で見ると楽しんでいる様な顔でニコーっとしていた。


「なるほど、たしかに内政に当たる部分は大使殿が意見するのは難しい部分が多そうだ。ペルディータ嬢、個人的意見で良いから何かあるかね?」


「あ、はい、発言のお許し有難うございます。えっと、私は現在御国にお招き頂き、学園に通っております。その中で授業時間の合間に学園の図書館で勇者や聖女についての歴史本をいくつか読みました」


――ザワザワ

 まさか私が勇者らについて調べてるなんてお歴々も思わなかったのか妙にざわつく。


「その中で勇者と聖女の関係は皆様もご承知の通りだと思いますが、しかし今では聖魔法を使える人は後天的とはいえ多くいます。ならば聖女と聖職者との最大の違いは異世界と繋がる糸の有無に帰結すると考えれば、ロザリーいえ、ロザリア嬢に固執する必要はないかと私は考えます」


「なにを馬鹿な事を!!聖女様はこれまで結界の修復や人々の救済、その後は神殿に籠り女神様に祈りを捧げ国の繁栄を願っておられたのだ!!」

 突然激高したニベル教皇が私に対して怒りの形相を向けて来たが、皆が驚く中私も止まらない。


「そもそも聖女の発現は古い記述から見るに、先代聖女から次世代聖女が現れる期間が最大で二百年も空いていたり、今回の様に僅か十数年で現れたりと一定ではないです。ならばわざわざ修行を経て先代と同じ力の聖女を欲するというのは……」


「だまりなさい!異教を崇拝する魔族が!!太陽の女神ホークレア様を愚弄するのか!!」


(!?)



『ニベル教皇!!口が過ぎるぞ、さがれ!!!』

 国王が玉座から立ち上がり、ニベル教皇を怒鳴りつけると辺りが水を打ったようにシンっと静まり返った。その後、興奮した教皇は修道士に連れられ退席し、国王は私に続きを促してくれた。


「…すまなかった、後で正式に星の女神ルドーラ様を侮辱した件を謝罪するゆえ、続きを」


「は、はい。私が言いたい事は一人の聖女という存在に国という重荷をすべて背負わせるのではなく、足りない部分は皆で支えるべきだと思いますので、隔離など考えずに彼女には未来への選択肢を考える時間を与える事が出来るのは学園なのではないかと考えています」


「「……」」

 謁見の場が静まり返る中で続けて口を開く。


「……えっと、色々言いましたがロザリーいえ、ロザリア・オデュッセイという大事な友人を失いたくないというのもまた本音です。これまでの私の発言で不快に思った方もおられると思います。申し訳ございませんでした」

 そう言い閉め、深々と頭を下げると不意にパチパチパチと手を叩く音が聞こえ、ちらっと見るとレイが率先して手を叩いていた。それに呼応するようにジル殿下も笑顔で叩き始め、周りのお歴々方も渋々ながらも手を叩いてくれていた。その中で印象的だったのは、ライハンドル大使のニヤリとした顔だった。奇しくも私の意見は能力封印とまでは行かないが、彼の意見に結構近いものになっていた。


「皆の者、聞いての通りだ。わたしも彼女の意見に賛成だ。勇者召喚を捨てた今の時代に先代と同じ能力の聖女など必要はないのだという事を思い改めなければならない。 ロザリア嬢よ、以後は普段通り過ごすがよい、だが卒業をした後は貴族の義務は皆と同じくきちんと果たす様、期待する」


「は、はいありがとうございます、こ、国王陛下!」

 修行と称して神殿に人生を捧げる事を辛うじて回避できた事に安心したのか、彼女の目から涙がボロボロと落ちていた。その光景を眺めながら、少し安堵の溜息が出たのだった。





今回はいつもより長めですみません

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