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不和の芽

前半は別視点です


 黒フードの男は東森の湖での事を報告する為、法衣の男の元へとやって来ていた。


「なるほど、そうですか」

 書き物の手を止めずに法衣の男は黒フードの男の報告を特に関心もなさそうに聞いている事に少々苛立ち感じていた。


「はい、聖魔法の確認も出来ましたしロザリア・オデュッセイはほぼ聖女に間違いないと」


 そこまで言うと、ガタリとペンと机に置き溜息交じりに黒フードの男を見据えた。

「ふ~、カーデナル、君はわたしの言った言葉がまるで理解していなかったようだね」

 イラついた様に指で机をトントンと叩く音が静かな部屋に響く。


「え?それはどういう…」


「わたしはしばらく関わるなと言ったはずだがね、にも関わらず実験体のフレッシュゴーレムを無断で使い、あまつさえジルベール殿下らを襲わせてアルカンディアの娘にまで聖女である事を知られるとなると、かの国も監視の目を強めるだろうね」


「そ、それは……申し訳ございません、しかしゴーレムの基礎理論は……」


「ああ、作ったのは君だが材料を始め潤沢な資金を提供したのはこちらだ。しかも使用権限もこちらにする約束だったではないかな?」


「……」

 何かを言いたそうだったカーデナルは言葉をグッと呑込み、頭を下げる。


「まあ、それでも今回の行動によってロザリア嬢が聖女の片鱗を見せたのを確認出来た事だけは評価しよう。そうだな、君にはしばらく休暇を与えるから市中にでも羽根を伸ばしに行ったらいい」


「お待ちください、私には休暇など必要ありません!」


「休暇は必要だね?」


「……は、はい。 それでは失礼致します」

 法衣の男の怒気に押され慌てて逃げる様に部屋を退室して行く。その後ろ姿を複雑な顔つきでみていると別のドアが開き、スリットが大きく入ったとても女神に仕えるシスターとは思えぬいでたちの女性がノックもせずに入ってくる。


「ふふ、カーデナルにしては珍しく失敗していたわね。最近はライバルの活躍が目立つから気持ちは分からないでもないけど」


「カルメ君、はしたないですよ。 まあ、カーデナル君の焦る気持ちも分からないでもないが、今回はちょっと独断専行が過ぎたようだ。おかげでロザリア嬢に対しては色々やりにくくなってしまったよ」


「でも教皇様はロザリア嬢を諦める気はないのでしょう?」


「当然だよ、聖女は能力の上下があるなしに関わらず我々教団が管理しなければならないと思っている」


「ふふ、女神に仕える教皇の言葉じゃないわよね。でもいいの?最近騎士団が遺体損壊に関して嗅ぎまわってるようだけど」

 カルメと呼ばれた妖艶なシスターは教皇の膝の上に跨り、体を摺り寄せて来ると腰を取り自分の方へと寄せて呟いた。


「問題ない、連中は神殿の捜査権限もないし、墓を勝手に暴くことも出来ない」

 そう言いながら再びカルメの体を触ろうとした時、ドアをノックする音が聞こえ彼女はスッと教皇から離れるとドアの外の主が声を掛けて来る。


「ニベル教皇様、国王陛下との会議の時間が迫っております。そろそろお支度を」


「うむ、わかった。今行く」

 返事をしながら、カルメに上着を掛けてもらい帽子を被ると部屋を出て行った。見送る彼女は興味もなさそうな目でその後ろ姿を見ていた。




◇◇◇




 私達を乗せた馬車は城門を越えてから広い敷地をしばらく走り、とある建物の前に到着すると待ち構えていた数人の従者が手際よく私とロザリーを中へと案内してくれた。途中、謁見の間に入る前にそれぞれ別の控室に誘導されると、ロザリーは不安げな顔をこちらに向けながら奥の部屋へと連れて行かれた。


「それではペルディータ様はこちらのお部屋でお待ちください」


 従者にそう言われ、開けられた部屋の中に入ると、見知った顔が揃っていた。一人は私の後見人に当たるネコマルさん、その隣には若い細身の紳士、アルカンディア帝国大使のギーゼ・レティクス様だった。


「おや、トラブルに見舞われたと聞いていたが元気そうで何よりだね」

 私の顔を見るなり語りかけて来たのは、どうやら大男の件は報告が行っている様だった。


「お久しぶりですレティクス様。トラブルの方はクラスメイト達の協力もあって問題なく処理できましたし、体の方はこの通り何ともないのでご心配なく」


「そうですね、湖に落ちて溺れた程度なので」

「ちょ!」


「ハッハッハッハ、獣王の娘さんは泳ぎが苦手でしたか、でもまあ大事なくてよかったですな」


「は、はい、ありがとうございます」

 大使に笑われ少し赤面してネコマルさんの方をチラリと見たが、あさっての方を見て知らん顔している。やはり最後の所で無茶をした事に対して、まだ怒っている様だ。後見人の立場としては分かるが微妙に大人げないなあと思いつつ出されていたお茶を(すす)った。



――コンコン


 しばらく大使と談笑をしていると、ドアをノックする音が聞こえネコマルさんが返事をすると従者が頭を下げつつ入って来た。


「レティクス大使様、並びにペルディータ様、ネクマール様、準備が整いましたので謁見の間へご案内します」


「うむ、よろしく頼む」

 部屋の出口に向かう大使の後に続こうと席を立つと、ネコマルさんに肩を叩れ小声で耳元に囁いてくる。


「お嬢様、その指輪はお外し下さい。今から会うのはこの国の国王ですので、偽りない姿で接する事が礼儀というものです」

 今更ながら気が付いたが、ネコマルさんは獣人の耳を出して、服も見慣れたメイド服ではなく礼服になっている。なるほどと思いつつ、お風呂の時くらいしか外さない指輪を外し急いで大使の後を追い従者の前を通りすぎると私の見た目の変化に彼の目が丸くなっているのが分って苦笑してしまった。


 廊下をしばらく歩くと大きな扉が見えてくる。その扉の左右に立っている騎士に従者が話しかけると、互いに頷き合い、その大きな扉がゆっくりと開き中へと手を掲げ誘導して来た。どうやら従者は此処までで、その案内通りに大使を中心に三人謁見の間へと足を踏み入れて行く。


 謁見の間は天井の高いホールに左右十数本の柱が立ち並び、床は磨き抜かれた石を敷き詰められてその上に金刺繍の赤い絨毯が玉座に向かって敷かれている豪華な作りとなっていた。さらに上部の集光技術の工夫で石造りの密閉された空間でも非常に明るい事に関心した。


 視線を正面に移すと国王陛下が玉座に座り、右に第一王子らしい人物とジルベール第二王子が並んで立っており、左の二段ほど下がった所に白い法衣を着た神官らしき男が居て左右には各大臣以下、高位貴族のお歴々が並んでいる。当然、私達の登場で各人の表情を見れば我が国をどう思っているのかが一目で分かり、そのほとんどが不愉快そうな顔を必死で隠してるのが意外と面白い。


 その中にレイを見つけ、私と目が合うなり驚いたような表情を浮かべていた。一瞬、何その顔?と思ったが、思い返してみれば彼に元の姿を見せた事がない事を思い出し合点がいく、同時にそこまで驚く事なのだろうかとの思いもあった。


(やっぱり彼も私の姿を忌避(きひ)したくなるよね)

 そう思うと少し胸の奥がチクリとした。


 大使の後ろに付き従って国王の前に出ると三人同時に礼をし挨拶をすると、アルドリア国王が申し訳なさそうな顔をしながら口を開く。


「レティクス大使よ、今日は急な呼び出しをしてしまい申し訳なかった。先にお伝えした通り、聖女の確認と、今後の扱いについての事柄なので参列して貰った次第だ」


「はい、我が帝国としても気になる案件故、同席させて頂いた事感謝に堪えません。また、こちらとしても発言を求められる事がある場合以外は意見を挟むことはしませんので、御髄に事をお進め下されば幸いです」


「お気遣い痛み居る」

 国王が手を上げると、従者がやって来て私達を左へと列席させた。こう並んで立っているとネコマルさんの意図が見えて来る。礼儀と称していたが一種の示威行為でもある様だ。

 そんな事を考えていると隣の辺りから視線を感じ、ゆっくり大使の横に並んでる浅黒い顔をしたガタイの良いエキゾチックな礼服の男がこちらを見ていた。おそらくライハンドル帝国の大使も当然呼ばれているのだろう。しかし、その視線は親愛的でも敵意でもない何とも言えない感じに背筋がゾクッとした。



「ユルバーン・オデュッセイ伯爵並びに、ご息女ロザリア・オデュッセイ令嬢がご拝謁に上がります」


 並びながら色々な人の表情を眺めていると、従者の声が響き、いよいよロザリーが父親と一緒に入場して来た。父親はブロンドの髪と髭を蓄え中肉中背で至って普通の貴族という感で彼女の父親として目元は似ていると言えば似ているが、(ひるがえ)ってロザリーを見ると漆黒の艶のある長い髪が特徴なので違和感を感じる人も多いのだろう。


 豪華な白いドレスは色白で黒髪という彼女の姿はコントラストが非常に美しいものだが、普段の彼女を知っていると思わず苦笑いでもしたくなる。途中、目が合った瞬間は顔に”タ・ス・ケ・テ”と書いてあったが、こればかりはどうにもならないので声に出さず口の形で”が・ん・ば・れ”と返してあげると、口をへの字に曲げて涙目になって何かを言いたそうだったが、そのまま国王の前まで行き挨拶をしている姿を見ると、何とも言えない気分になる。




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