王城にて
視点がかわります
入学してから初めてのフィールドワークが明後日に控えた午後の放課後、ジルベールの元に王城から使いがやって来て明日、レイと一緒に登城するようにとの連絡を受けた。
「なんでこんな時期に王城から呼び出しなんて来るんだろうな?」
自室で使者から貰った召喚状を眺めていると、レイは面倒くさそうに椅子にドカッと座りこんだ。
「ああ、相変わらずこちらの都合をまったく考えていないのはいつもの事さ」
溜息交じりに答えながら召喚状を渡すと、彼は手に取りサッと眺めて諦め顔をする。
「最近は陛下の周りも色々貴族共が五月蠅いからその事への注意喚起の為じゃないか?」
「それもあるが最近兄上の所へ教団の関係者が頻繁に出入りしているらしいのが気になる」
テーブルに置かれた紅茶のカップを見つめながら顎に手をやり少し考え込んだ。
「まさか教団の連中、まだ聖女探しやってんのか……あわよく見つけたとしてもまた生贄にして召喚儀式なんてしたら今度こそアルカンディアに潰されるどころか、南のライハンドルも好機と思って攻めてくるぜ」
「ああ、だからこそ教団は他国に動きを悟られない様、兄上を次期国王として囲い込みたいのだろう」
「はあ~、何の為にペルちゃんの所と外交してるのか分かってないのかねえ」
呆れた様に天井を仰ぐ友人の姿を見ながら少し考え込む。召喚勇者は諸刃の剣だ、それは過去数百年に何回か行われ現れた勇者個人の資質による所が大きい。
過去の文献によれば、当時召喚された者は国に仕える事を良しとせず何処かへ消息を絶ったり、ある者は仕えたが期待したほどの力が与えられておらず、魔物討伐で返り討ちに会い死んでしまったり、ある者は力を振りかざし暴力と贅を尽くした挙句に一緒に寝た女に寝首を掻かれるなど酷い結末に終わっていた。
そして歴代最強の勇者とその力を過信した前国王は共にアルカンディア帝国に挑み破れマージナル滅亡の危機にまで発展してしまったのは僅か十五年前の話しだ。
「何にせよ父…いや陛下も分っていると思うから兄上にも俺にも釘を刺す為に呼び出したんじゃないかな」
「なるほどね、ロイール殿下も流石にわかってると願いたいね」
レイの軽口に苦笑しながら冷めてしまった紅茶を口に運びながら思う。さすがに兄上も教団の連中もそこまで考えなしではないだろうと……。
◇◇◇
翌日、ジルベール第二王子とレイソード辺境伯子息は国王陛下に謁見する為に久々に登城をし、陛下と謁見する部屋に向けて長い廊下を歩いていると目の前から数人の人物がこちらへと歩いて来た。そしてその中に派手に着飾った女性と仲良さそうに話をしているロイール第一王子を見つけた。彼はジルベールより三つ年上で少し長いブルーグレーの髪を後ろで止めた細めの男だが、真面目一辺倒の次男より、立場を最大限に利用した派手な恰好と暮らしぶりは相変わらずの様だった。
「兄上、お久しぶりです」
そう話しかけると集団は足を止め、ロイール以外の側近達は一歩下がって頭を下げて来る。隣にいた女性も慌てた様に頭を下げると彼は不愉快そうにジルベールに視線を向けるがその目は憎しみを一瞬浮かべたが次の瞬間、笑顔に切り替わり口を開く。
「おお、我が弟ジルベールじゃないか!久しぶりだな、学園の方は順調か?」
白々しいまでの作り笑顔で大げさなリアクションで聞いてくるが、ジルベールは相手にする事なく事務的に答える。
「はい、良き友人にも恵まれ充実した学園生活を送っています」
「はん、そうかそれは何よりだな……所で聞いた話だとお前は従兄のガイラスに剣術の模擬戦で敗れたらしいな?しかもアルカンディアの小娘に助けられたとか聞いたが情けない!マージナルの王子がそんな体たらくでは国を引っ張って行くなど夢のまた夢だぞ?」
「ロイール殿下、それは……」
ロイールの言葉に周りの側近と令嬢もニヤニヤしているのが目に入り、レイが慌ててその時の状況を説明しようと横から口を出そうとすると、ジルベールは手で遮って改めてロイールを強い意志を持って見つめる。
「わかっています、模擬戦とはいえガイラス公子に不覚を取った事は確かです。とは言えこのまま不覚を取り続けるつもりはありません。ですので秋の剣術大会で汚名返上をして見せますゆえご期待下さい」
「そ、そうか、ふん精々頑張るのだな」
ジルベールに気圧されたのかそう言いながらぞろぞろと側近達を連れて去って行き、その後ろ姿を見て安堵の溜息を二人で同時にするとお互い苦笑しながら陛下のいる一室へ足を向けて行くのだった。
――コンコン
「何だ?」
「ジルベール第二王子及びレイソード辺境伯子息が参りました」
「うむ、御通ししろ」
「ハッ」
陛下の居られるドアの前に立つ近衛兵が一連のやり取りをし、ドアが開けられ二人中に入ると陛下側近の親衛隊長スコルが待機しており、奥へと案内される。
奥の書斎に着くと、ジルベールと同じブルーグレーの髪と髭の初老の男が書類にペンを走らせながらやって来た若者二人を指で指図しながら応接の長ソファーに座らせた。
マージナルの現国王アルドリア・オーブ・マージナルは仕事を終えると、立ち上がり長ソファーに座る二人の前の椅子にどっしり座り、少し緊張した面持ちの二人を見てニコリとする。
「ジル、レイ、忙しい所よく来てくれた」
「いえ陛下、我々二人はお呼び頂ければいつでも参上します」
「ハッハッハッハ、ジルよ公式の場ではないから普段通りでよい」
「はい、父上」
ポンポンと肩を叩かれ緊張が解かれたのか普段通りの顔に戻り、照れ臭そうに答えた。
「ところで陛下、自分も呼ばれたのはどういったご用件でしょうか?」
「レイ、まあ慌てるな順々に話して行くのでな」
「先ほどロイールを呼んだ時も言ったのだが、最近教団の連中が聖女探しを熱心にしているのは小耳に挟んだ事はあるだろう?」
「はい、噂程度ですが市中にも足を延ばしてるとか」
「先日、ニベル教皇を呼び出して噂を確かめたのだが、探しているのは本当だ。連中が言うにはそれは召喚とは関係なく、失った結界などの修復など人々の心の安定の為などと言っているのだが、一応彼らも聖女の存在は他国に要らぬ誤解を与える可能性があるので慎重に行っているという事らしいのだが真意は測り知れん」
「何故父上はそのような勝手な事をしている教団を放置しているのですか?大変危険だとおもうのですが?」
「お前の言う事は最もだ。しかし元々王家と教団はどちらが支配とかではなく、持ちつ持たれつの関係なのは知ってるな?だからこちらとしても余り強くは出れないのだ」
「面倒な所ですねえ」
レイは出された紅茶を口にしながら難しい顔をする。
「そうだな、しかし野放しという訳には行かぬのでこちらからは最低限の条件を出している」
「条件とは?」
「ともかく聖女が発見された場合、神殿の仕事に従事する場合以外の生活は常に所在を分かる様に王家の管理とする事を条件にしたのだ」
「なるほど、私や兄上が呼び出された時点で何となく予想はしておりましたがやはり教団側の動きを牽制しましたか」
「そうなると、失礼とは思いますがこれまで教団がロイール殿下に声を掛けていたのは将来的に動きやすくする為の布石だったのでしょうね」
「二人共察しが良いな、まあ、そう言う事だ。お前は良いとして、ロイールは脇が甘い所があるから今日は少し厳しく言ってはおいたのだがな」
やはり陛下的には、最近までロイールが教団の者と頻繁に会っている事を懸念している様だった。何にせよ今後も教団の動きには注意が必要だ。
「ところでジルよ、メティス嬢とロザリア嬢とはうまくいっているのか?」
「は、はぁ、メティス嬢とはよく話す機会はあるのですが、ロザリア嬢には少し避けられてる気が致します」
陛下は女性の扱いに疎く、弱気な発言をする目の前の息子を見て大きな溜息を吐いた。
「なんだ情けない、どちらを婚約者にするにしても兎に角、大事な事はよく話してその者の本質を見抜く事が大事だ。それと外務大臣の提案でお主達の所にアルカンディアの令嬢が来ているそうだがどうだね?」
面目次第も御座いませんと言った顔のジルに変わってレイが代理で答える。
「あ、はいペルちゃ・・いえ、ペルディータ嬢とは皆仲良くやってます。価値観の違いか風変わりな所もありますが、彼女も気さくな性格なので少なくとも同じクラスの皆は受け入れられてる様です」
「そうか、愛称で呼ぶくらいの関係になったのはなによりだな、いずれにせよアルカンディア帝国との関係を改善するもう一手を打ちたいと考えておる」
そう言いつつ、陛下は顎髭をいじりながらレイの方を向いて意味深にニコリと笑ったのだ。その顔を見たレイは”まさか俺に交換留学して来いって言わないだろうなあ”と心底心配になって来たのだった。




