フィールドワーク
11日投稿「御用聞き」の順序が変わっていますので注意してください
結局、昨晩は一時間も部屋の外で立たされてやっと解放された後に速攻で寝たのだが、翌朝の出立は早くかなり寝不足でボーっとした顔で対面したレイに二人共笑われる結果となった。
「おいおい、朝からそんな調子で大丈夫か?」
「男性の前で申し訳ないけど、東の森に到着するまで寝かせて下さい」
殿下はそう申し出をすると少し面を食らった顔をしたが、笑顔で”どうぞ”と優しいお言葉を頂いたけどロザリーの方は寝顔を見られるのが恥ずかしいのだろう、寝ないつもりでいるようだ。しかしレイさんが間に入ってるとはいえ少しずつではあるが殿下と話をしようとしているのは良い傾向だと思い、例の”魅了”の説明した後、眠りについた。
今回のフィールドワークの目的は貴族の心得として協調性と臨機応変に対応できるように精神を鍛えるという御大層な目標がある様なのだが実際、東の森はフォレストウルフなどそんなに強くない魔物がたまに出没する位の危険度で、学園指定の場所でグループごとにキャンプを張り二泊三日を過ごす話しになっている。
さらに随伴として剣魔科の三年生が同行し、2グループ8人が先生の代わりに指示役となり、さらに冒険者ギルドからBクラス冒険者が1パーティー雇われて外周警護を務めるらしい。
日がだいぶ高い位置に来た頃には目的の森の入り口が見えて来て、既に何台かの馬車がすでに到着しており皆が早速荷物を下したりして作業に取り掛かっていた。
「ぐー……、ふがっ!ふがふが!?」
突然、寝ている私の鼻を摘ままれて目が覚めガバッと起き上がり、プハーっと一息つくと眼前に居るレイに頭突きを食らわせた。
――ガズッ
「いって~!?ペルちゃんなにすんの!!」
「も~!寝ている女の子の顔に悪戯するなんて最低よ!!」
顎に手を当てて涙目で痛がってるレイに”ギー”と歯を立てて怒ると、隣に座ってたロザリーがバツの悪そうな顔をして手を上げて来た。
「ごめ~ん、やったのあたし」
お怒りモードが一気に吹き飛び、土下座する勢いでレイに頭を下げた。
「なっ!? レイ!ご、ごめんなさい!!眼前に居たからてっきり貴方かと」
「いや、俺もちょっと迂闊だったよ、しかしペルちゃんって結構石頭だねえ~しかも怒るとこわい」
そう言いながら直撃を食らった顎を撫でながら苦笑いしている彼の姿を見て自分の顔が赤くなってるのが分る。
「いえ、迂闊なのは私の方です。ほんと、ごめんなさいね」
すぐさま持ってきた荷物から擦り傷用の軟膏取り出してレイの額に塗ってあげていると、ふと目が合った瞬間に不思議そうな顔をして感想を述べて来た。
「…ペルちゃんって、前から思ってたけど昔何処かで会った感じがするんだよなあ」
「え?そう?私は国外に出るのは今回が初めてだから別の人じゃないかしら? はいお終いです」
「お、ありがとさん」
車内の窓ガラスを鏡がわりに軟膏を塗った部分を確認していると、ロザリーは何を勘違いしたのかレイをからかっていた。
「レイさん、女の子をナンパ……いえ、口説くセリフにしてはちょっと古い手ですよ」
「は? いやいや口説いてねーし」
「まあ、ちょっとした災難だったがレイはもう少し普段の女性への言動を自重した方がいいな」
「ええ?なんで俺、怒られてるの~」
レイは慌てて否定をしていたが、普段一緒にいる事の多い殿下のお言葉で追い打ちをかけられてしまいガックリとうなだれるも私の方を見ながらウインクして来たので、苦笑いで返すしかなかったのだった。
――うん、そういう所だぞ。
用意された軽いお弁当昼食を済ませてから集合場所に着くと、既にほとんどの参加生徒が上級生の元に集まっていた。多少の予想はしていたがやはりというか、颯爽と前に出て来たのは生徒会長のメイザー嬢。
「えー、今年の剣魔科の生徒のみなさん、それと薬学科のみなさん今回のフィールドワークへのご参加ありがとうございます。我が学園では新入生の恒例行事となりますが、これも授業の一環である事を忘れずにチームで協力をし合い苦難を乗り越えていって下さい」
会長が挨拶をし終わり後ろに下がると代わりに副会長が前に出て来る。
「会長、有難うございました。それでは皆様、早速本日の宿泊用のテントがある程度形になって用意されていますので足りない部分を各自作り始めて下さい、わからない事があったら各方面に見回る三年生に気軽に聞いてください」
「「はい」」
副会長の号令に一年生は返事をして、各自チームが指定の場所へと散らばって行った。それにしてもほぼ完成品のテントの製作っていうのもなんだかなあとは思うが、目的は共同作業という事ならそれでもいいのかも知れない。
「さて、ロザリーはしっかり殿下達のお手伝いがんばってね」
「え?ペルってばどこ行くの?」
私の言葉に慌てた様子で問いかけて来ると、それを遮る様に後ろから別の声が掛かる。
「薬学科の参加生徒で西側の森での植成調査を行う為ですわ」
同じく薬学科から参加しているメティス嬢が腰に手を当てながら後ろに立っていた。
「そうなの?」
「まあ私達が参加しているのも授業の一環だからね」
不安げなロザリーが聞いてくる問いに答えてると、多少強引に腕を引っ張られ連れ出されてしまった。
「さあ、ペルディータさん時間がないから急がないと。 ではまた後で」
「え、ええ、じゃあまた」
軽く手を振りながら遠ざかると見送るロザリーの顔は口をへの字に曲げてムスッとしていた。ともあれこれで少しは殿下とお近づきになれる機会が増えればと考えながら集合場所へと急いだ。
薬学科からの参加生徒は私達を含めて六人が参加したが家の事情で出られなかった二名を除きほぼ全員で、付き添いの先輩も1人なのだが彼女を見た瞬間顔が引きつりそうになったのをギリギリ押えて、笑顔で声を掛けた。
「生徒会長、ご苦労様です」
「あら、ペルちゃん今日はよろしくねえ」
(ち、近・・)
メイザー会長は私の手を取ると、上下にブンブンと大げさに握手して顔を近づけて来るが目の奥にハートマークが存在する様な錯覚を覚えて思わず腰を引きながら挨拶を返した。
「は、はい、よろしくお願いします。てっきり会長はあちらの大所帯を見てるものかと思いました」
「フフッ大丈夫よ、あっちは副会長のリーサを始め経験者ばかりの優秀なメンツがそろってますからね。それにこれでもわたしは薬学科三年なのよ」
彼女の話を聞いてその意外性の内心驚く。勝手なイメージで剣魔科だと思い込んでいたのだ。
「それじゃあ薬学のみなさんは予定の西森の湖に移動します。そこから自由調査ですが、森の奥には行かず誰かしらが必ず見える位置で作業してください~」
そう号令をかけ、歩き始めた会長の後をゾロゾロと皆と一緒に移動を始める。最近は全く行くことが無くなってしまった森の雰囲気は久々に羽根を出してウロウロしたい気持ちになったが、今回は学校の行事なので自重するしかなさそうだ。
しばらく木々と草むらの道を進むと急に視界が大きく開け、日の光を浴びてキラキラ光る青い湖畔が広がった場所へとたどり着いた。
「わあ!」「すごい綺麗」
皆、銘々感想を述べて先ほどの深い草むらを越える時の不満そうな顔が吹き飛んでしまった様だ。私も澄んだ空気を吸い、体を伸ばし湖畔の雰囲気を堪能した後にカバンからノートを取り出し早速周辺の薬草調査を始めた。
手始めに湖面に近い沿岸の草むらを見て回ったが、回復ポーションの原料などに良く使われるアマイズの草は取られつくしたのかほとんど見かける事はなかったが、ハルゾンの様な食用になる細い小さな花を付ける草花は多く見かける事が出来て嬉しさの余り、思わず取って口に咥えた所でメティに見られてしまった。
「ちょっと、ペルさん?貴方今その辺の草を食べませんでした?」
――ごくん
「え?た、たべてないですよ」
「口の横に葉っぱが付いてます」
そう言われ、慌てて手で拭うと苦笑顔で”嘘ですよ”と溜息交じりに言われ、自分でもちょっと顔が赤くなったのが分かった。
「いや、まあ久々の森散策だったから……ついね」
――クスクスクス
「ペルさんって本当に色々知ってるわね。で?どれが食用なんです?」
「それはですねえ…」
普段、私の趣味に対して家族やネコマルさん、ロザリーも興味を示さない草花に対して、興味を示してくれる人がいると思わず周りがドン引きする位に饒舌になってしまう事はある意味幸せな事なのかもしれない。




