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妙な人

「アッハッハハハハ、そりゃ災難だな」

 ガイラス公子との一連の話を説明すると、レイは無責任にもケラケラ笑ってポンポンと肩を叩かれ憮然とした顔をしていると、殿下の方が申し訳ないよな顔で謝罪をしてくるものだから対応に困ってしまう。


「すまないな、そもそも俺が不甲斐ないばっかりに……」


「いえ、殿下の所為ではございません。そもそもあの事故は…いえ、まあ適当に相手して対処しますので気にしないで下さい」

 確たる証拠がない内から”殿下の敗北の原因は何者かの吹き矢です”なんて事はさすがにまずいので言いかけた言葉を呑込んだ。


「でも、公子はなんでペルに突っかかってくるんだろ?」


「まあ、あれだろ?剣を女の子に抑え込まれた事がプライドを傷つけられたって言うんだろうよ」

 ロザリーの疑問に対する答えは、レイの意見が正解だと私も思う。


「……やはり俺がアイツにペルディータくんに関わるのはやめるよう言って来る」


「「ちょちょっとまって」」

 難しい顔をして考え込んでいた殿下が教室から出て行こうとするのを私とレイが慌てて止める。彼としては自責の念と共に、もしかしたら国同士の問題にもなりかねないと公人としての気持ちもあっての事だろうと思うが、そもそもこの程度の事で大事にする気もない。


「お気持ちは有難いですが、公子に殿下が仲介に入れば余計(こじ)れてしまいますので私に任せてください」


「そうか、確かにそうなる可能性もあるのか……」


 結局、殿下には私が上手く対処するから任せて欲しいという事で渋々納得してもらったけど、彼の意外な面が見れた気がする。普段は無口な方だけど、立場を振りかざす事はなく責任感は高い方だと思われるが少し思い込みも激しいのかも知れないという印象を持った。



◇◇◇



 午後の社会学の授業に漂う微睡(まどろ)む空気の中、閉店になりそうな瞼を必死で押し上げて何とか乗り切って本日最後の授業の鐘が鳴り響きくと皆銘々に机に突っ伏したり、欠伸をしたりして私も大きく体を伸ばしていると、ロザリーに声を掛けられた。


「ペル、あたしちょっと事務室に寄って行くんで先に帰っていて」

 そう言いながら部屋の鍵を渡して来る。


「ああ、私も図書室に資料を探しに行くんで時間かかるわよ?」


「そう?じゃあ鍵を渡さなくていいか」


「はいな」

 そう返事をすると軽く手を振ると彼女は急ぎ足で事務室のある方向へ行く姿を見送ってから、私は図書館へと足を向ける。

 兼ねてから読んでいた勇者に関する書籍は持ち出し禁止なので、放課後の時間がある日を使って読み進めていたのに加え、今度の授業に役立ちそうな薬草の本は借りられるのでついでに探しに行く事にした。



(結構遠いのよね……)

 校舎の奥にある通路を通って、円筒形の建物全体が図書館となっている。初めて見た時は自宅の小汚い倉庫みたいな書庫とは偉い違いの綺麗な場所で、最初は感動したが次第に来る度に愚痴が出てしまう。


――ガチャリ


 ドアを開けると独特の匂いがして気持ちが落ち着く。中には数人の生徒がいるだけでとても静かだ。もっとも此処の常連の生徒は大体同じ面子で、目が合うとニコリとして軽く会釈し合う。始めて来た時は、皆さん魔物でも入って来たような警戒態勢だったけど、何度も訪れていると今は大分慣れてくれたようだ。


 いつもの様に見回してると、見知った顔が貸し出しカウンターに座っていた。


「あれ?サージくん、今日は当番?」

「やあ、ペルさんいらっしゃい。 そうなんだ、委員長はこんな事も持ち回りなんだよねえ」


 レイの執事で同じクラスのサージくんは結構優秀で何でもそつなくこなしてしまうので、最近ではクラス委員長までやらされ、さらに持ち回りで図書館の仕事までする事になっているそうだ。


「ご苦労様です」


「まあ、仕事ですから。ところで今日も探し物?」


「ええ、読み途中の本の続きと後で植物の本を借りに行くのでよろしくお願いします」


「はい了解です。ごゆっくり」

 そう言うと、再びペンを取り書き物をしている。そんあ彼の横を通りすぎ、目的の本のある奥へと足を運ぶといつもと違う空気感を感じた。周りを見てもいつもと変わらない面子しかいないのに。


 薄暗い本棚の間を抜けて目的の棚に到着し、読みかけていた本を脇に抱えながら脚立を使わないと届かないほど高い位置にある薬学の本を取る為にこっそりと”力”を使い、取って読んで戻してをしばらく繰り返した後、目当ての本のページを捲ってる所へ突然声を掛けられた。


「こんにちは、ペルディータさん」


「生徒会長さん!?」


 振り向くと目の前に居たのは長く青い空色の髪を揺らし、私を好奇の目で見ている生徒会長のサーディアル・メイザー令嬢だった。


「ふふ、そんな風に驚かれるとちょっと、困ってしまうわ」

 頬に手を当てて少し困った顔をして目を伏せる。


(…”力”見られたかしら?)


「すみません、急に声を掛けられてちょっとビックリしてしまいまして」

 何だろうこのひと?本に夢中になっていたとはいえ、こんな近くにいたのに全く気配と言うものを感じなかった。いや消していたのか?でも何故そんな事を……。


「あらそう?ごめんなさいね。わたくしも調べ物をしていたらちょうど貴方を見かけてね。それでどう?学園生活は順調?」


「はい、目新しい事が多く勉強になっております」

 そう言うと、会長はニコリとして笑顔で肩を持つ。


「よかったわ、まだアルカンディアに対してわだかまりを持っている方も大勢いると思うので何か困った事があったらわたくしを頼ってね」


「はい、ありがとうございます。今のところは平穏に生活しておりますので大丈夫です」

 そう答えると、彼女は少し視線をそらしながら考えてこちらへ向き直る。


「ねえあなた、ガイラス公子の事で困ってない?」


「え、何故それを」


「うふふ、やはり生徒会長としては生徒の学園生活での障害は解決して行かないと支持はされないわ」


「そ、そうなんですか?……お気遣いありがとうございます。でも、この件は自分で何とか出来ると思ってますのでお気持ちだけ頂いておきます」


「わかったわ、でも本当に困った状態になったら声を掛けてね」

 そう彼女が言った途端、入り口の方から声が掛かった。


「会長!何してるんですか、今日は生徒会会議の日ですよ!!」

 怒って入って来たのは背が高くスラッとしたショートカットの美麗な女生徒で、どうやら会長は会議を忘れてこんな所で油を売っていたようだ。


「あれリーサ?今日だっけ?ごめんごめん」

 リーサと呼ばれた役員らしい生徒がツカツカと歩み寄り、会長の腕を掴むと連行するか如く引っ張って行かれるのが妙に滑稽だ。ただ、そう思ったのも束の間、すぐに戻って来て私に小さな声で囁く。


「大丈夫、誰にも言わないから。それじゃまたね」

 案の定、”力”を使っての本の出し入れを見られていたようだった。


 それより会長を引っ張って行ったリーサという女生徒が何故かこちらを睨むように目線を送って来たのを見て肩を竦めた。


(私が引き留めていたわけではないのだが……)







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