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模擬戦


 殿下とガタイの良い男の模擬戦を観戦しているギャラリーの中にロザリーとレイを見つけた。軽くトントンと肩を叩くと、ビクッと驚いたように振り向いて来たのは余程真剣に見入っていたのかも知れない。


「どうなってるんです?これは」

 そう聞くと、ロザリーは難しい顔をして少し考えてから口を開いた。


「よく分からないんだけど、急にガイラス公子が殿下に勝負を挑んで来てこうなったとしか言えないんだよね……」


「その、公子?ってのがなんで勝負を挑まなきゃならないの?」


「ああ、そこは俺が説明するよ。ガイラス公子はこの国の王従弟である公爵の息子で、昔から一方的にライバル視して何かとジルに突っかかって来るんだよ。普段はほとんど相手にされないけど模擬戦となれば自分の実力を周りに見せつけるチャンスと見て挑んで来たんだろうね」


「なるほど~」

 レイの話を聞くと、因縁が深そうな二人が出会えばそうなるのはわかった。ただ、実際勝負の行方はこのまま進むと殿下の勝ちな気がする。公子は立ち回りはうまいと思うけど全体的に攻撃が大振りすぎて隙が多く、体力の無駄遣いしてる事に対して最小限の動きで小気味よく受け流してる殿下の無駄のない動きは徐々に相手を追い詰めて来てる。


「そう言えばペルちゃん剣技の心得あるの?」

 真剣に勝負の行方を見つめる私に気が付いたレイさんが好奇の目を浮かべて聞いた来た。


「ええ、まあ、あまり好きではないけどこの間まで散々やらされましたよ、文武両道が家訓なんで」


「へえ、そりゃ~一度手合わせお願いしたいね」


揶揄(からか)うのはやめてくださいな」

 彼は感心してるが、当事者としてはガデライン将軍の娘としてそれなりの技術を磨かないとお家の恥じになるからと人一倍しごかれた記憶が蘇り身震いしてしまう。


 そんな事を思い出しながら勝負の行方を見ていると、案の定最初の勢いは何処へやら公子は徐々に追い詰められて防戦一方になり、いよいよ苦しくなって来たその時、右奥の生徒のいない木の間の茂みに妙な気配を感じた。



 何んだろ?この嫌な感じは……



「ジ、ジルベール殿下!?」

 ロザリーの声に視線を戻すと、優勢だったはずの殿下が片膝を着いて公子の猛打に耐えてる状況にいつの間にか変わっていた。その様を見ていたギャラリーもザワつき出した。


「なんだ、ジルのやつ急にどうしたってんだ」

「ちょっと、先生止めなさいよ」

 固唾を飲んで見守っていたレイとメティスさんが焦りを顔に出して叫んでいる。



いくら模擬用の剣とはいえ、これはいけない。



「ちょっと借ります」

「え?」

 近くに模擬剣を持って固まって様子を見ていた男子生徒から拝借して駆け出す。



 苦痛に顔を歪ませる殿下の防御が崩れた直後、勝利を確信した公子の渾身の一撃が殿下の頭を捉えようとした瞬間、私は意識を飛ばして彼の腕の動きを一瞬止めると、その隙に相手に近づき振り下ろされる剣を受け止め、そのまま弧を描くように軌道を変えて地面に剣先を誘導し手で刃先を掴んで押さえつけた。


――ガスッ


「公子殿、勝負はすでについています」


「な、なんだお前!いつの間に。 う、動かねえ!!」

 模擬剣を動かそうと必死で(あらが)うが私の力の影響下に入っているかぎり、動かすことが出来なくなっている。

 奏功している内に、慌ててハーマス先生が”勝負あり”の声をやっと上げ、ガイラスはやっと悪態を付きながら模擬剣から手を放し、殿下から離れてくれた。


 慌てて駆け寄って来たロザリーやメティスさんに支えられ殿下は救護室へと運ばれていく姿を見送り一息ついていると、ガイラスがツカツカと寄って来る。


「貴様、俺を誰だか知って邪魔をしてきたのか?」


「ええ、たしかガイラス公子殿ですね、申し遅れました私はアルカンディア帝国から留学生として招かれたペルディータ・クロノスと申します。以後お見知りおきを」

 アルカンディアの名前を出した途端、相手の目には動揺が浮かんだがイキリ勇んだ手前引っ込む事が出来なくなり、勢いでこんな事を言って来る。


「はっ!食堂で自己紹介していた魔族女か。留学生だか何だか知らねーがジルとの勝負を邪魔したんだ、責任を取って今度はお前が俺と勝負しろ!」


(え~、なにその超理論…)


「はあ、まあ模擬戦の”機会”がありましたらお受けしますので、その時は正々堂々の勝負でやりましょう」


「ちっ」

 先ほどの模擬戦で殿下の体調不良を知っての攻撃を気にしてか、憮然として悪態を付きながら去っていく後姿を見つめているとレイが隣へやって来て苦笑している。


「意地悪だねえ。薬学科のペルちゃんと、勝負する”機会”なんてする日は来ないでしょ」


「あの手合いは長引くと面倒ですからね、それより……」

 少し考えてから妙な気配を感じた西側の茂みに裏側に急いで移動すると、私の行動が気になったのかレイさんも後から慌てて付いて来る。


「おいおい、突然どうしたんだ?」

 彼の問いかけを無視するかのように草むらに這いつくばって目を凝らすと、誰かが潜んでいたかのように一部が踏み固められている部分を見つけた。

 さらに茂みの下を手で撫でる様に左から右へ動かすと、何かが手の平に当たり拾い上げて見つめる。


「なるほど、吹き矢で使われる矢ね」


「まさかジルが途中でおかしくなったのはコレの所為か? ガイラスのやつ!」

 めずらしく怒気を孕んだ声で拳を握るレイの手を押える様に片手を添える。


「落ち着いて、模擬戦を妨害した者がいたのは確かだけど、手を回したのが公子という証拠はないわ」


「……そうだな、悪い、ちょっと熱くなった様だ」

 照れ臭そうにそう言いながら私の目をジッと見て来る。しばらく無言で見つめ合ってると自分がレイの手の甲に自分の手をずっと重ねてる事に気が付き、慌てて手を引っ込めた。


「あ、ごめん…私はそろそろ寮に戻るね。その証拠はレイに預けておきます」


「お、おう」

 妙な空気が流れてレイをその場に残してそそくさとその場を後にした。



 寮に戻る道すがら、ふと先ほどのガイラス公子を思い返す。

(そもそもあの手の自己顕示欲(プライド)の高そうな男があんな小細工するかしら……)



◇◇◇



 寮の自室に戻り、ドアを開けると以外にも既にロザリーが戻っていた。


「あれ?早いわね、殿下は大丈夫だったの?」


「うん、多少の打撲と擦り傷だったんで医務の先生の治癒魔法である程度は回復したんだけど、問題は脹脛(ふくらはぎ)に毒虫に刺された様な腫れがあって、そっちの方が大変だったみたい。誤って服の中に入ったんじゃないかって言ってたけど……」


「そう毒虫ね、なるほど、なるほど」


「あのまま行っていれば殿下の勝ちだったのに運が悪かったわ、それにしても公子ったら様子がおかしいのを分かっていても攻撃を続けるなんて…」

 ロザリーや他の生徒から見れば殿下は不運に見舞われたと思った様だが、あの吹き矢が原因という確証はないものの、模擬戦を利用してジルベール第二王子に怪我を負わせる事が目的だったのだろうか?何の為?何にしてもここに来たばかりで情報が足りない。王子の人となりを調べる前に死なれたりしたら困っちゃうんだけど。



「はぁ~、今日は授業初日だというのに何か別の意味で色々疲れた」


――バフッ


「あたしも疲れた」

 同じようにベッドに横になったロザリーに少し前から気になっていた事を聞いてみる。


「ねえ、あなた何故か殿下を露骨に避けてるけど何かされたの?」


「え!?いや、ないない何もされてないよ!」

 ベッドに倒れ込んでいた彼女はギョッとした顔で起き上がり、手をブンブン振って否定する。


「でも……」


――カラーン、カラーン


 そう言いかけたタイミングで部屋の外から食事の時間の予鈴が鳴り響いた。ロザリーはチャンスとばかりにベッドを飛び出して横になったばかりの私の腕を掴んで引っ張られた。



「さあさ、ご飯ご飯、遅れると寮母が五月蠅いからね」


「え、あ、ちょっと」

 無理やり部屋から押し出されて結局、なし崩し的に話は有耶無耶になってしまったのだった。







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