魔法と剣と
視点が変わります
ロザリアは選択科目を選ぶ際に大事な事を失念していた。剣魔科を選べば殿下と一緒になってしまう事を。
幸いな事に魔術と剣術は先生が別になるので、そんなに顔を合わせる事もなさそうではあるが、今後の授業である実習キャンプなどで学園側が気を利かせて来る可能性もある事を考え頭を抱えていた。
(正直、殿下は急に増えた婚約者候補のあたしをどう思っているのだろうか?)
ボーっとしながら、殿下のいる剣術チームを見つめて考え込んでいると、大声で自分の名前を呼ぶ声に気が付いた。
「ロザリア・オデュッセイさん!ボケっとしてないで前に出なさい」
振り向くと魔術のシグルード先生に呼ばれてる事に気が付き慌てて返事をする。現在彼女は他の魔法科生徒と一緒に実力テスト中だった。
「は、はい!」
「魔法は集中力が大事だから気を引き締めなさい。…えっと、君は水系の魔法だね、早速始めて」
「はい、行きます」
息を吸い、全身の魔力を集中して手の平に水の玉が浮かぶように呪文を唱えると小さな水滴が徐々に集まり回転しながら大きくなっていく。
《大気に大地にあまねく水の力よ、集え集え》
呪文を繰り返し念じると徐々に大きくなる水玉はポケットに入れていた高純度の魔石の影響を受け予想より肥大化していってしまう。慌ててそれを安定させようと意識を集中したが残念ながら水玉はフニャフニャとし、安定するどころか次第に形を維持できなくなり、ついには……。
――バシャ!
「あっ」
ボール大の大きさになった所で、水の玉は崩れて手と袖口を濡らす結果となってしまった。周りにいた数人の一組生徒は彼女の結果を見てクスクスと笑いヒソヒソと陰口を叩く。家で練習していた時は少なくともしばらく安定していたが、どこかで集中出来ていなかったのだろう。それを見た先生は持っていたボードに何かを書き込み、こちらを見て口を開いた。
「ロザリアさんはもう少しゆっくり魔力を練り上げるようにしなさい、それと魔石の制御が疎かですのでもう少し気を配れば安定するはずです。…ただ見ていて思ったのですが、君は本当に水属性なのかね?書類ではそうなってるが、何か別の属性が邪魔している様にみえるのだが……」
「あ、はい。事前に受けた適正では水です」
「そうか、わかった。じゃあ次は……一組の生徒かな」
先生はあまり納得していない様な顔だったが、時間も差し迫っているようで次の娘が呼ばれ内心ほっとする。
邪魔にならない位置まで下がってから芝生へ座り、他の生徒が繰り出す色々な属性の魔法眺めながら溜息をつく。やはり無理して魔法学科を受けずにペルと同じ薬学の方へ進めばよかったかなと今更ながらぼんやり考えているといつの間にか隣に現れたレイが話しかけて来た。
「ようロザリーちゃん、初日でもう疲れた?」
「レイさん、まだ授業中ですよ」
「ああ、俺の番はもう終わったからね。そう言えばペルちゃんは剣魔じゃないんだなあ、有名な将軍の娘さんだからこっちだと思ったのに」
「彼女は薬学に興味があるそうよ、将来的に祖国で学んだ知識を役に立てたいみたい」
「なるほど、ペルちゃんには立派な夢があるんだねえ」
「そう言えば今、模擬戦してるのは殿下ですか?」
「そうそう、今ジルの奴が一組の奴と模擬戦してる所」
レイに誘われる様に殿下が勝負してる場を皆と同じように眺めてみたが、素人目にも分るほど綺麗な戦い方だ。その様子を魔法科の女子達がキャーキャー言ってるのを見て、どうりで魔法模擬の終わった子がいないと思ったらあちらに詰めていたようだった。
「さすがですね、殿下は」
「ああ、でもちょっと綺麗に戦いすぎるかな?」
「どういう事です?」
腕を組んで、少し困った顔で殿下の戦う様子を見ているレイに聞いてみる。
「ああ、競技ならともかく実戦ともなると、騎士道無視の卑怯な手を使って来る輩もいるって事。まあ、そもそもアイツが実戦する事態になる方が可笑しいんだけどね」
「なるほど。でもレイさんってまるで剣の師匠みたいな事言うのね」
「おいおい、見くびっては困るなあ、これでも親父仕込みで魔物討伐にも参加してた実践派よ?」
「へえ……あ、もう勝負がついたみたいって…あれ?」
レイはロザリアの興味なさそうな生返事にガックリしつつ、彼女の言う方に視線を移すと勝負がついたにも関わらず、別の所からガタイが良い男が何か因縁をつけに来て険悪な雰囲気だ。
「あらら、面倒な奴が出てきやがったな~」
「誰なんです?」
「あいつは現王従弟のエゼルド公爵の息子ガイラスだ。前々からジルに何かと因縁つけてくる厄介者だよ」
名前だけは聞いたことがあった。レイが眉間にシワを寄せ、いつもの笑顔が消え誰とでも笑顔で接する彼がこんな顔をするなんて相当な厄介な人物なのだろうとロザリアは見つめる。
少し近づき、囲んでいる生徒達に混ざって様子を見ていると、彼らの声が聞こえて来た。
「――だからさ、俺と勝負しようぜと言ってるんだよ、こんなのに勝っても実力を示した事にはならんだろ?」
殿下にいなされて片膝を立てている生徒を模擬刀で指示して”こんなの”呼ばわりされる彼も可哀そうだなと見ていると、さすがにまずいと思ったのか剣術担当のハーマス先生が割って入った。
「まあ、まあ、今回は単に皆の実力を軽く見る為の模擬だから……」
「はぁ?何かったるい事言ってるんです先生?実力見るなら力が拮抗している同士がやるべきでしょう」
食い気味に先生の言葉を遮り自分の意志を押し付ける高圧な態度に何も言えなくなっている様子を見て、殿下は面倒くさそうに溜息をつく。
「いいだろうガイ、君の相手をしよう。先生、審判をよろしくお願いします」
「あ、ああ、でもいいのかね?」
先生の問いかけに殿下が頷くも、相手のガイラスは口角を上げニヤリとする。たかだか実力テストで何故ここまでするのか分からないが、事が動いている以上皆見守るしかなかった。
すでに授業終了の鐘は鳴っていた為、この勝負のギャラリーが徐々に増えて来て一大イベントになりつつある状況でもこれから対戦する二人は至って冷静に相手を見据えていた。
「両者前へ!」
ハーマス先生の声にジルベール殿下とガイラス公子が対峙しお互い模擬刀を構えると先ほどまでざわついていた周囲がシーンと静まり返る。
「始め!!」
先生の声が響き、両者が剣を構えるが動かない。初手はお互い相手が動くのを待っている様だったが、気が短いのかガイラスが先に動き、高速で剣を撃ち込んで行くと待っていたように殿下はそれを払いのけながら回る様に体重移動し隙を伺う。
その時、高速攻撃がいつまでも続く訳もなく一瞬その攻撃が息切れした刹那、返す剣でわき腹に一撃を加える。
――ガキン!
「「おおー」」
ギャラリーから驚きの声が上がる。それは殿下の攻撃が綺麗に入った訳でもなく、ガイラスが一瞬で剣を逆手に持ち替え、寸ででわき腹への一撃を止めたのである。
「お前が踏み込んで来るのは分かっていた よっ!」
そう言いながらそのまま剣を大きく横に振り切ると、殿下は素早くバックステップで避けたが剣風でブルーグレーの髪が二、三本パラりと落ちた。
「「キャー」」
殿下ファンの女の子達の悲鳴が響く中、一進一退を続ける模擬戦の様子を拳を握り締めて固唾を見守ってるロザリアの背中を誰かが叩く。振り向くと、薬学の授業が終わったペルディータとメティスが立っていた。
「どうなってるんです?これは」




