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選択授業


 次の時間は社会歴史学で教師のサルマルス先生は私の存在を意識してか、先の戦争の話を角の立たない言い回しで話していたのを結構興味深く聞いていた。

 中でも過去に召喚した勇者の助けを借りて新しい技術を手に入れたり、国難をいくつか退けてきたという話には非常に興味深かったので授業後、直接質問をしに行ったのだが次の授業の準備があるとか何とかで図書室で調べてくれと体よく逃げられてしまった。


 その後は商学の授業は売り手と買い手の関係など基礎的な話をしていたのだけど、隣のロザリーは欠伸をかみ殺しながら必死で聞いている姿を見て思わず苦笑する。内容は貴族が商人を呼んで買い物をする場合に上手く言いくるめられない様にする為の話しであり、拍子抜けだった事は否めない。今後に期待と言った所か。


 昼食後は選択科目で剣術魔術科と薬学科、芸術科の三つに分かれての一組、二組合同授業になる予定だがロザリーは私が薬学を取った事を驚きの声を上げた。


「ええ?ペルは薬学なの?なんで?」


「ん?元々植物を育てたり研究するのは好きだし、将来的に自国で立ち遅れてるポーションなんかの産業に生かせたらいいかなって思ってる」


「へえ、ファーマシスト(薬剤師)とかアルケミスト(錬金術師)を目指したいのね、すごいわ」


「え?いやいや目指すかどうかわからないし。それに……」


「ん?どうしたの??」

 昔助けた少年の不満そうな顔をなんとなく思い出してクスっと思わず笑みを零してしまったのを見てロザリーは不思議そうに顔を覗き込んで来た。


「いや、なんでも。それよりロザリーはなんで剣魔科なの?むしろそっちの方が驚いたよ」

 治癒魔法を知られたくないと言いながらわざわざそっち系に行ってしまうと危険なのでは?と老婆心ながら考えてしまう。


 そんな私の疑問をくみ取ったのか顔を近づけて来て耳元でささやく。

「実は聖魔法の事を隠す為にもう一つの特性がある水魔法を独自学んでいたんだけど、どうしても個人だと限界があってもっと専門的にやってみたかったのよ」


「なるほど、でも家庭教師でも雇えばよかったのでは?」


 そう聞くと、彼女は大きな溜息をついて空を見上げ呟く

「そうしたかったんだけど、お父様は戦いに繋がる様な事が嫌いで許可がおりなかったのよ、代わりに礼儀作法やダンス、音楽とか色々やらされたわ~」


「あーそれはお気の毒に」

 正直私も礼儀作法は苦手だったのでわかる。今回こちらに来る事が決まってから、色々と再勉強させらたのを思い出すと寒気がした。



――カラーン、カラーン


「あ、予鈴だ、じゃあねペル」


「ええ、また後で あ、ちょっと待って」

 別れ際に彼女の手に持ってきていた魔石を一つ握らせると驚いたように石を見つめていた。魔石は自身のマナを肩代わりさせる事も出来る物で魔法使いには定番の代物だ。


「え?いいの?こんな純度の高そうな石」


「魔法の授業には必要でしょ? さあ行った行った」


「うん、ありがとう!」


 お礼を言いながら外へ走って行くロザリーを見つめていると、ふと思い出す。あれ?殿下達も剣魔科じゃなかったかしら?そう思いながら薬学科が集まるガラスの温室へ足を向けると後ろから声をかけられる。


「あら?ペルディータさん、あなたも薬学?」

 振り向くと派手な金髪を揺らしたメティス・キオーネ嬢が立っていた。


「ええ、メティスさんもそうでしたか。でもいつもご一緒の二人の令嬢さんはいないのですか?」


「あの子達は家の関係で魔法を学ばなければならないのよね」

 少し心配そうな顔で剣魔科の集まる場所を見つめていた。母親が娘達を心配するようなその姿を微笑ましく思いながら、改めて声を掛ける。


「そうでしたか、でもまあ学園の授業でそこまで危険な事はないと思いますし、私達は私達で授業をがんばりましょう」


「え?ええ」

 彼女の手を取り、急いで温室の方へと小走り始めると最初は驚いた顔をしていたが、満更でもない様な顔になり昨日の警戒する様な目は消えていた。



 正直薬学は不人気なのか六人しかおらず、到着した時は私達が最後だった。同じ組の子以外は私の姿を確認するとあからさまに距離を取って来るのを見て思わず苦笑いをしてしまう。


「あらあら、去年より人数が多いわね。よかったわ、わたしが担当のレグナントよ、よろしくお願いするわ」

 そう言いながら奥から初老の女性が白衣を着て現れた。去年はと言うと二年生の事を言ってるのだろうが、今より少ないとなると薬学は人気がないのだろうか?そう思い少し質問してみる。


「あの先生、薬学ってあまり取る人はいないのでしょうか?」

 手を上げ、質問をすると私の顔をまじまじと見て何かを思い当たった様に頷きニコリとして答えてくれる。


「ああ、魔国の娘ね? この国は治癒魔法があるから貴族でわざわざ取る人は少ないのよ、それに薬品は商人達が扱う専門の業者がありますからね。それでも、薬学の知識は大事だと先生は思っていますよ」


「はあ、なるほど……わかりました」

(たしかに若い貴族のお歴々が集う学園で習うなら騎士道やら芸術などの方が優先度が高そうだ)


「そういえば、貴方の国では治癒魔法とかそういうのないの?」

 横にいたメティスさんが小声で聞いて来た。


「治癒魔法を使える者もいるけど、それより私達は自己回復能力が高いから補助的に薬草をすり潰して飲んだり塗ったりする方法が主流なんで、こういう知識があると便利かなと思って」


「へえ、意外と野生的なのね、あ!別に馬鹿にしてるわけではないのよ」


「大丈夫ですよ、私自身もそう思う事だからこそ新しい知識は必要なのよね。メティスさんは?」


「わたくしの家はライハンドルに近い南に所領を持っているの。だから温暖で古くからポーションなどの原料を領地の一部で専門的に作っていて、家に連なるものとして色々知っておきたかったのよ。それに場合によってはわたくしが継ぐ事になるかもしれないし」

 

「家業を知るですか……それはとても立派な考えだと思います」

 私の返答に顔を赤くして”大した事じゃないわ”なんて照れているけど、他家へ嫁いくだけが生きる道ではないと考えてる彼女に対して、最初イメージした典型的な貴族の娘から全く違う印象を受けた。



 この日の授業は初日という事で温室の一部で育てられている薬草類の説明と、一年生用の畑で自分の苗を植える簡単な作業であっという間に授業は終了した。畑を掘ったり植えたりしていると、ついつい時間を忘れて没頭してしまうようだ。今後の内容は定期的に薬草を育て、それを使い授業の内容を参考にしてポーションを作りレポートにまとめる作業で評価されるそうだ。




「まだ習ってないんだから、そんなに教科書見つめてもわからないわよ」

 最初の授業が終わり、帰り道ずっと歩きながら目を皿にし教科書を読んでいる私にメティスさんが苦笑してるが、こういう専門的な解説が書いてある本は読んでいて面白い。



――ザワザワザワ


 寮に向かって歩いていると、少し近くの生徒達がざわついている声が聞こえた。


「あら?何かしら、もう今日の授業は全て終わっているのに」

 彼女の言葉に私も教科書から顔を上げ、周りを見ると何かを言いながら皆小走りで競技場の方へ向かって行くのが見えた。


「あっちはたしか剣魔科の授業があった方ね、私達も見に行ってみません?」


「え?そ、そうね、行ってみましょう」


 校舎を周り、人が向かっている場所に辿り着くと、競技場のグラウンドで沢山の生徒が二人の生徒を囲むように見守っていた。





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