第471部分
「まあ、自分で言うのもなんだけど、アタシ達『妖精』はそう簡単に出会えるものではないからね。あの子も結構長い間生きて来てそれなりに色々な経験もして来たみたいだけど、妖精と出会ったのはあの時が初めてだったみたいだから」
しかし、その可憐な外見や少女らしい……とでも言うべきか、やや感情的にも聞こえる口調から直感的に受ける印象とは裏腹に、何だかんだ言っても何千年も生きているというのは伊達ではないという事か、少なくともその顔色の変化という揶揄うには絶好の機会には気付いていない筈が無いにもかかわらず、そのアイシスの質問を受けたフィーは大人らしくその機会を活かす事も無く、その質問の答えとして当時のシラユキがそれ程フィーの話に食い付いていた理由を明かす。
だが、その大人の対応により仮にも自身の疑問が即時に解決されたにもかかわらず、その話を聞いたアイシスはそこに然程の感動を覚えなかったというか、その興味は自身の疑問が解決されたという事実よりも、その話の内容そのものの方へと向けられていた。
というのも、その出会いの話が具体的に何時の事なのかは不明なものの、数千年を生きたというフィーの視点でも「結構長い間生きて来た」という程度にはシラユキも年齢を重ねた後の話である事は確かであり、その能力を考えればそれこそ本当に「色々な経験」をしていた筈であるにもかかわらず、シラユキが妖精と出会ったのはその時が初めてという事は、こうしてフィーと話をする機会を得られている事は恐らくは当人の言葉以上に貴重な経験である事に気付いたアイシスは、現状に対して急に妙な緊張感を抱き始めてしまったのである。
「……あのね。一応言っておくけど、アタシ達と出会うのが難しいっていうのは単純に数が少なかったり、知っての通り姿を消せる能力があるから気に入った、もとい興味を持った相手の前にしか姿を見せないからってだけだから。つまり、こうして既に話をしているアンタからすれば、もう別に貴重な体験でも何でもないわよ」
そして、その緊張故にアイシスが直ぐには言葉を返せずに居ると、今度はその変化は無視すべきものではないと考えたのか、少し待ってから再度口を開いたフィーは呆れた様にそう声を掛けると、自分達と出会う事の困難さの理由をそう説明し、それ故に現在の状況はアイシスにとっては別に貴重ではない旨を述べる。
しかし、それもまた年長者としての、或いは単に当人の性格からの配慮に満ちた発言である事は確かではあったが、その話により伝えようとしているであろう最も肝心な部分、則ち「だからそんなに緊張しなくても良い」という旨の言葉が欠けている辺り、やはりフィーも一筋縄ではいかないというか、ただ単純に優しいだけの妖精という訳ではない事は確かな様だった。
「……成程ね。それで、何の話をしてたんだっけ?」
そして、その肝心な部分が省かれていた事によりそこに到るまでには若干の時間を掛けながらも、その言葉の裏にあるであろう真意を恐らくではあるものの悟ったアイシスは、恐らくは当人も望んでいないであろうその配慮への礼の代わりに、その言葉の中にあった揶揄おうと思えばそう出来なくもない部分には触れずにそう答えると、これ以上話題が脱線しないようにと珍しく自分からそう訊く事で話題を戻す事を試みる。
「あの子に他の、いえアンタにとっては元のかしら? 世界の話をするならそれなりに覚悟が必要って話よ。後はまあ、アンタの呼び名の話だけど、もうどちらも済んだわね」
すると、その対人交流を苦手と自負する当人にしてはな努力を……かは兎も角その意図は汲んだのか、その質問を受けたフィーも自身の話をそれ以上広げる事も無く素直にこれまでの話を簡単に纏める事でそれに答えると、それらの話題についても既に話は済んだ事を認める。
「それなら、私もそろそろ修行に戻ろうかしらね。件のシラユキ先生も道中は自由で良いみたいな事は言ってたけど、流石にちょっと休み過ぎている気もするし」
そして、無論実際の所がどうなのかは不明なものの、今度はそのフィーの言葉の意図を汲み取ったアイシスも、未だそうする事に若干の名残惜しさを感じつつも先のフィーの「自分との会話は貴重ではない」という旨の言葉もあり、今回の所は話を切り上げて修行に戻ろうという意思を表明する。
「そうかもね。それならアタシも一旦お暇させて貰うわ。それじゃあまた」
と、やはりそれは相手も望む所だったのか、その話を聞いたフィーは休み過ぎているという当人の言葉に曖昧な同意を示した上であっさりと別れを告げると、アイシスの返事を待つ事も無くそのまま姿を消してしまう。
しかし、その速さには流石にあっさりとし過ぎだろうとは思いつつも、それは先程既に一度ちゃんとした……かどうかは兎も角別れは済ませていたという事と、先の「自分との会話は貴重ではない」という言葉の表れなのだろうと考えたアイシスは、それを見られているかは最早知る由も無いものの、軽く手を振る事でその挨拶に応えるのであった。




