第470部分
とはいえ、自身が見る限りではその様な素振りは見られなかった……というだけならば兎も角、そもそも当人の言葉の真偽どころかその態度が演技であるか否かですら自身では、そして恐らくはタチバナですらも全く見抜けていない現状では、そのフィーの言葉をそのまま事実であると信じられなくても仕方が無い事ではあった。
「言われてみれば確かにそうかも。帰ったら暇な時にでも話して……いや、タチバナが居ない時にしか出来ないし、そうしたとしても神出鬼没な所があるし、そもそも何か除け者にしてるみたいで気が引けるわね……」
のだが、当のアイシスはそもそも疑う選択肢すら無い、という位に即座に納得してそう答えると、それならばと実際に自身の過去について、或いは前の世界について実際にシラユキに話してみる事を検討してみるが、少し考えただけでも容易にその行為に付随する問題がいくつも浮上して来た上、生涯隠し通そうとすら思っていた秘密を続け様に見抜かれた事で若干感覚が麻痺していたものの、流石にタチバナには軽々に話す訳にはいかない事もあり、最終的にはそこまで口にした所で言葉を詰まらせる。
「まあ、別に無理に話す必要があるって訳じゃないし、偶々そういう機会があった時に気が向いたら、位で良いんじゃない。あの子だって、いくら興味があるからといって無理に話せなんて言わない筈よ」
だが、そんな表情をさせる事は本意ではなかったという事か、結果としてはその要因となったフィーは直ぐに別に無理に話す必要は無いとアイシスをフォローすると、そうすべき根拠として再度シラユキの考えをそう代弁する。
しかし、流石にタチバナだけが知らない情報がある事には未だ若干の引け目を感じない事はないものの、そのフィーの言葉により実際に「ならそれで良いか」と納得したアイシスではあったが、そうした事で一時的に引っ込んでいた思いが再度胸中に顔を出した事により、結果としてその納得を言葉にする事は無かった。
「ああ、でももし実際に話すつもりなら覚悟しておく事ね。あの子が納得するまで続けるなら下手をすれば一晩中、いえ他の世界の話なんて事になったら数日は拘束される事になるでしょうから」
が、別にそんな事は気にしていないのか、或いは寧ろその方が都合が良かったのか、思い出した様に再度口を開いたフィーは何かを考えている風なアイシスに向けてそう忠告すると、その根拠としてシラユキの習性をやはり見て来た様にそう語る。
「うっ、それは流石にちょっと勘弁して貰いたいかも……。でもそれはそうと、ふふっ、本当にシラユキ先生の事を良く分かってるのね」
と、その時には別の事を考えていたアイシスであったものの、その状態の割には珍しく相手の言葉に対して即座にそう正直な反応を返すが、そこで丁度その「別の事」について触れる機会であると判断すると、途中で笑いを我慢し切れなくなりながらも少し前から抱えていた思考をフィー当人に向けてそう揶揄う様に口にする。
いや、その発言の内容自体は事実に基づいた感想に過ぎないと言えばそうではあるものの、仮にも既に少なくとも五千歳を超えている事を知った上に、仮にも命の恩人であるとも言える相手に対してその態度はどうなのか、という話ではあるのだが、既に相手から散々揶揄われた事もそうだが何よりも当人からして対等な関係を示唆していた事もあり、別にアイシス自身もそこまで考えての言動ではないものの、それは一種の親しさの表現としての言動だった。
「はぁ!? ……と言いたい所だけど、アンタよりはあの子との付き合いも長いし、何より一度体験済みだからね。あの子が最初に此処に来た時にはそれはもう酷い目に遭ったもの」
とはいえ、散々揶揄われた事への仕返しの良い機会という事もあり、その言葉がフィーへの会心の反撃となる事を期待し、その最初の反応の際にはアイシスも実際にそれが叶ったと思った事もまた確かではあったのだが、最初こそ「効いていた」様にも見えたフィーは意外にも直ぐに冷静にそう言うと、先の忠告は実際の自らの体験からのものであった事を明かす。
「ああ、そうだったのね。でも意外だわ。その頃のシラユキ先生にはそんなに知らない事があったのかしら?」
その意外な、そして大人びた反応と、その忠告が自らの経験を元にした善意からのものであったという事実には、逆に何とも子供染みた復讐心……という程のものではないにせよそれに近い動機での発言をしたばかりの身として、多大な羞恥心を抱いたアイシスは自らの上半身に熱を感じずには居られなかったが、あくまでも冷静を装ってそう答えると、自身の内心を隠す様にその話から感じた事をそのまま続けてそう尋ねるのであった。




