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第468部分

「……ええと、お手数だけどその質問をもう一度して貰っても良いかしら?」


 しかし、そうして考える様な態勢に入った少女は暫し……という程の時も経たぬ内に再度顔を上げたかと思うと、恥ずかしそうに頭を掻きながら、いや実際には掻いている訳ではなく一種のポーズの様なものなのだが、そうフィーに質問を返す形で先の質問をもう一度口にして貰う様に依頼する。


 とはいえ、少女もいくら何でもこの短い間に、しかも自身にとっては非常に重要な秘密についての質問の内容を忘れてしまう程に愚かであるという訳ではなかったのだが、その内容を抽象的にというか、自身の正体を知った上でその呼び名について尋ねていた、とだけ記憶していた事で具体的な文面については思い出せず、どの様な形式で返答すべきかの判断をしかねた為に、恥を忍んででもそれをもう一度聞かせて貰える様に頼む事を選んだのであった。


 いや、内容自体は覚えているのであれば、形式などに拘らずとも答えを返す事自体は何も難しくはないというか、実際にフィーも直近ではどうなのよ? と内容だけを尋ねる様な訊き方をしていたのだが、その直前の言葉を文字通りの意味に捉えた少女には、その「最初の質問」を正しく知る必要がある様に思われたのであった。


「は? なんでわざわざ……まあ良いわ。ええと、さっきの質問は確か『アンタの事はアイシスと呼べば良いのよね?』だった筈よ」


 とはいえ、そんな事は知る由も無いフィーは、その無駄な工程に対する至極当然の反応としてその意義への疑問を呈するが、別に大した手間でも無い、というよりも既に少女がそう口にした時点で大人しく答えた方が早いと判断したのか、或いはそれが当人にとっては必要な手順であると考えたのかそれを途中で切り上げると、自身の記憶を辿る様な間を置きつつも少女の依頼に応え、先程の質問を一字一句違える事無くもう一度口にする。


「ありがとう。少し待ってね」


 すると、手間を掛けさせた事は自覚しているのか、それを聞くなり先ずは素直に礼を返した少女は続けてそうして改めて口にされた質問の返答までにもう少し待機する旨を、今度は先程よりも大分砕けた形で依頼すると、再度目を伏せて改めてその質問にどう答えるべきかを考え始める。


「……そうね。その質問に答えを返すとしたら『ええ。私の事はアイシスと呼んで頂戴』といったところかしら」


 尤も、実を言えばその質問への答え自体は既に、というよりも初めから決まっていた為、その思考にはそう長い時間を掛ける事も無く、文字通り「少し」の待機時間を経て口を開いた少女は先ずは何かに納得した様にそう呟くと、「アイシス」らしい、より厳密にはそう自身が考える不敵な笑みを浮かべながら、フィーの質問に対してはっきりと肯定の意を示してそう答える。


 いや、答えが初めから決まっていたのであれば、尚更一連の無駄な遣り取りは、そしてその遣り取りの節々にあった思考の時間は何だったのか、という話ではあるのだが、それが正しく伝わるか否かは兎も角としても、「この世界でアイシスとして生きて行く」という自身の決意を表明する良い機会であるという事を考えれば、少女としてはそれなりにしっかりとした段取りを踏みたいというか、いい加減な遣り取りで済ませたくはなかったのであった。


「そう。まあ、こうして話してる間はどうせ『アンタ』呼びだし、どちらにしろ名前を呼ぶ機会なんてそう多くは無いとは思うけど、アンタがそう言うならそう呼ばせて貰うわ」


 だが、その様なアイシスの思いとは裏腹に、その正直に言えばちょっと格好付けた返答を聞いたフィーは素っ気なくそう答えると、どの道それを呼ぶ機会は多くはない旨を指摘しつつも、その少ない機会に於いては当人の意思に従った呼び方をする意思を明言する。


「あれ? 思ったよりもリアクション薄いわね? もっとこう、本当の名前を訊かれたりすると思ってたのだけれど」


 しかし、その返答自体は一応は自身の意図した、或いは願った通りのものではあったのだが、その反応の薄さについてはそうではなかったのか、その返答を聞いたアイシスはさぞ意外そうにそう訊き返すと、自身が本来想定していた反応の一例を挙げる。


 いや、その互いの反応自体の是非に関してはこの際措いて置くとしても、仮にも自身が「アイシス」であるという旨の言葉を発した直後であるにもかかわらず、自身の本当の名前がどうのという話をするのはどうなのかという話なのだが、これまでの一連の遣り取りからして既に相手にはそれが露見していると認識している以上、最早少女もフィーに対してはそれを隠そうなどとは露とも思っていなかったのであった。

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