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第466部分

「……もしそうなら、わざわざ今みたいに訊き返したりすると思うかしら?」


 そして、その認識は質問をした当人も同様であったらしく、その少女の返答を聞いたフィーは呆れた様に溜め息を一つ吐くと、浮遊する高さを少しだけ、具体的には少女の目線よりも僅かに高い場所にまで上昇させながら再度そう訊き返す。


「……だって、特に何も思い付かなかったんだもの」


 だが、その人を馬鹿にする様な、或いは幼子をあやす様な態度には、ある程度は精神的に自立して来たと自負している少女としては正直に言えば業腹であるというか、納得が行かない様な感覚を抱いていた事は否めなかったものの、その発言の内容自体は自身でも自覚していた問題点を指摘するものであり、納得する以外の選択肢は存在しなかった為、結果としてそうまたしても苦し紛れに近い言い訳を返す事しか出来なかった。


「それなら正直にそう答えれば良いじゃない。『愚かな私には分かりませんでした』ってね」


 しかし、文法的にどうかは兎も角、その少女の返答は実質的には降参に等しいものであった、つまり「だから答えを教えて欲しい」という意味が込められていたのだが、これまでに見せて来た洞察力からしてもその事は察していると思われるにもかかわらず、その言い訳を聞いたフィーはならその旨を正直に答えれば良いと正論を返すと、追い打ちを掛ける様にそう続ける。


「……!」


 その人を馬鹿にする様な、というよりも明らかに喧嘩を売っていると言っても過言ではない言動には、流石の少女もそれなり以上の怒りを覚えずにはいられなかったが、先程から論理的には相手の方が100%正しい上に、そもそも明らかな挑発に対してそうした所で更に相手を喜ばせるだけである為、喉から自然と溢れ出そうになった反論を何とか飲み込むと、表情の変化も可能な限りには抑える事に成功する。


 とはいえ、その怒り自体は紛れも無く本物の感情ではあったものの、それは理不尽な事に対する憤りの様なものではなく、思えば殆どの期間を病室で孤独に過ごしていた前世は勿論、この世界に来てからも周囲の人物は割合に真面目な者が多かった事もあり、そういった親しい相手に対してのみ抱く事が出来る、外から見れば何処か微笑ましくもある類の怒りを覚えたのは本当に久し振りであった事もあり、少女はその苛立ちの中にも何処か楽しさの様な感覚を覚えていた。


 なお、フィーの言動により思う存分に翻弄されている事もあり、当の本人は無論そんな事にまで考えが及んでいた訳ではないものの、そもそもフィーがその様な態度を取る様になった事もまた、既に少女をそれに値する親しい相手であると認めている事の表れである、という見方も出来たというか、無意識にそう認識しているからこそ、少女の胸中の感情はその様な複雑なものになっていたのだが、言うまでもなく当人はそれを理解している訳ではなく、また理解する時が来る事も恐らくは来ないだろうと思われた。


「冗談よ。でもまあ、そんなに難しい話でもないわ。さっきも言った通り、アタシは何千年以上も歌って来てるのよ? 当然ながらこの世界の全ての歌を……とまでは言わないけど、その歌の元となる音楽の理論とか音階なんかは大体知ってるわけ。でも、アンタの歌っていた歌はそのどれにも属さないものばかりだった。勿論、一曲やそこらなら『未だアタシの知らない曲もあったんだ』とか『新しい音楽が生まれたのね』とかで済んだかもしれないけど、それが十や二十にもなれば話は別よ。という訳で、アンタはこの世界の住人ではない、という当然の結論が導き出されたってわけ」


 ともあれ、少女にそこまでの怒りを抱かせるつもりはなかったのか、或いはそうさせた事で既に満足したのか、続けて口を開いたフィーはそうさせるに到った自身の言動を冗談だと宣うと、口調からして恐らくは当人にその意図は無いものの、少女が答えられなかった質問を別に難しい話ではないと煽る様な前置きをした上で、自身が口にした「少女がアイシスではない」という旨の発言の意味と根拠を一息で、という訳ではないのだろうがそう感じられる程の勢いで語り切る。


 しかし、その掴み所の無い言動に相変わらず翻弄されっぱなしである上に、その様な勢いで語られてはとても理解が追い付かなかった少女であったが、必死に頭を回転させる事でどうにかその概ねの内容を理解すると直前までの怒りは何処へやら、不思議とその顔には微笑みが浮かんでいた。


「ちょっと、何がおかしいのよ」


 すると、自身にはそうされる様な事を、それが単に笑われているにせよ何かしら微笑ましく思われたにせよ口にした覚えは無いという事か、それを見たフィーは不満を隠そうともせずにそう指摘するが、既にそのややきつめな口調にも慣れた、或いはそれも当人の特徴だとして受け入れたのか少女は表情を変える事も無く、ただにこにこと、或いはにやにやとした笑みを浮かべ続けるだけだった。

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