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第465部分

 しかし、そのフィーの言葉は自身の正体が、いや肉体は紛れも無く当人のものなのだからより厳密に言えばその魂とでもいうべき存在が「アイシス」本人ではない事を指摘しているという事であり、自身の最大の秘密を初対面の相手に看破されたという事でもある為、当人にとって計り知れない程に衝撃的なものではあったのだが、既に直近で似た様な経験をしていた事もあってか、それを受けた少女はしっかりと言葉と表情を失いこそしたものの、無様に取り乱したりする様な事は無かった。


 尤も、逆に言えばこの短期間で自身の最も秘すべき事が、より厳密には自身ではそう思っている事が二度も露見したという事でもある為、外見上こそ落ち着いて見えた、というよりも完全に静止していたものの、秘密が露見した事自体も含めてその内心は決して穏やかとは言えなかったが、それでもこの短期間でも確実にその精神は成長していたのか、その思考は完全には停止していなかった。


「……そうね。アタシも含めた全員の名誉の為に一応言っておくけど、もしアンタが誰かにその話をしていたとしても、アタシがそれを盗み聞きしていたって訳じゃないし、その誰かが口を滑らせた訳でもないわよ。まあ、どちらも証明のし様は無いから、信じるかどうかはアンタの自由だけどね」


 とはいえ、その事を完全に静止している外見から察する事は難しかったのか、或いはその沈黙の長さからその思考が難航している事を察したからこそ、その手掛かりとなる情報を与えようとしたのか、少女の考えが纏まるよりも早く再度口を開いたフィーは小さくそう呟いた後、自身が少女の秘密を知ったのは当人を含む誰かから聞いた訳ではない旨を述べるが、それを信じるか否かは自由であると続ける。


「……それじゃあ、どうして?」


 しかし、既に師としても個人としても完全に信用し切っているシラユキに関しては当然としても、未だ初対面から幾らも経っていないフィーの事でさえも、助けられた事やその後の会話により疑う気など元より更々無い当人からすればその様な言葉は蛇足にしか過ぎないとでも言う様に、少女は最早その言葉が事実である事は前提としてそうとだけ尋ねる。


 そして、その質問の言葉の足りなさについては、それだけでも何を問うているかは明白である為に兎も角としても、そう問い掛ける事は則ち「自身が本当はアイシスではない」事を明言するに等しかったのだが、それは別に少女の現状の困惑振りからその事にまで考えが及ばなかったという訳ではなく、フィーの言動からして既にそれを認めるか否かという段階は過ぎている事と、その段階を省いたとしても問題は無い事を理解した結果だった。


「そうね。どうしてだと思う?」


 とはいえ、そこに順位を付ける事の意味の有無は兎も角、それは現状では自身にとって最も大切な相手であるタチバナにすら未だ明かしていない秘密である事は確かという事もあり、その言葉足らずな質問も絞り出す様に口にしたものではあったのだが、恐らくはその事を察しているにもかかわらず、その質問を受けたフィーは素直に答えるのではなく、何処か悪戯っぽい微笑みを浮かべてそう訊き返す。


「……待って。少し考えてみるから」


 そして、実際に当人がどの様なつもりでそうしているかは不明なものの、一応は自身の師として自身の考える力を試すなり鍛えるなりという目的が考えられるシラユキとは異なり、恐らくはその様な意図は無いであろう事がその表情からも分かるその質問には、現在の話題が仮にも自身にとっては最大の秘密についてである事もあり、流石の少女も多少なり呆れる様な感情を抱かずにはいられなかったが、元来妖精とはこの様なものだという事を思い出すと、若干の悔しさにも似た感情を抱きつつもそう答え、その挑戦を受ける意思を示す。


 尤も、その「元来この様なものだ」という考えは、少女が元居た世界の創作に於ける典型的な解釈の一つに過ぎなかったのだが、その特殊な半生故にその様な創作に数多く触れて来た事もあり、実際にこの様な、少なくとも自身にとっては重大な場面で見せられたその表情と言動には、その様な考えが自然と頭を過る事も仕方の無い事ではあった。


「……ええと、何かこう、妖精特有の特殊能力的な何かで魂の姿が見える、とか?」


 ともあれ、その悪戯っぽい発言により、より厳密にはそれにより生じた呆れた様な感情の作用により、秘密が露見した時特有の緊張感からも解放された少女は自身の言葉通り、フィーが何故自身の秘密を知るに到ったのかを少し考えてみたものの、自身ではそれを隠していたつもりなのだから当然の事ではあるが、特にそれらしい答えが思い付く事も無かった為、最終的にはそれが答えならば問題として成り立たないとは思いつつも苦し紛れにそう答えるのであった。

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