第464部分
「あー、それは悪かったわね。まあ、そいつらの事までは私には分からないけど、せめてアタシは前から現れてあげるべきだったわ」
しかし、当人にとってはそれだけ不満が溜まっていたのだとしても、少なくとも他の二人の行動に関してはフィーにとっては知った事ではない、つまりそのアイシスの反応は半ば八つ当たりに近いものであったのだが、件の能力……に頼るまでもなく分かるであろうその感情の昂り、及びその引き金となった驚き振りに配慮してか、半分以上の責任は自身以外にある文句を眼前から浴びせられたにもかかわらず、フィーは何を言い返すでもなく素直にその件について謝罪すると、その「半分以上の責任」を取るべき者達と同様の行動をした事についての反省を口にする。
「あ……いえ、此方こそ怒鳴ったりしてごめんなさい。二人の事は貴方には関係無いのに」
と、その大人の対応により目の前に冷静な人間が、いや人間ではないのだがまあ誰かが居ると冷静さを取り戻し易いという俗説の通りに少し落ち着きを取り戻したアイシスも、自身の大人げの無い行動について素直に謝罪を返すと共に此方も自身の行動を反省する態度を見せる。
「良いのよ。というよりアタシに言わせれば、タチバナもそうだったけど寧ろアンタ達は感情に限らず色んな事を溜め込みすぎよ。時には今みたいに発散した方が良いと思うわ」
だが、此度の一連の出来事についての責任の割合は措いて置くとすればそれでお相子だ、として済ませても良かったにもかかわらず、その言葉を受けたフィーは別に構わないと更に寛大な答えを返すと、先に会話をしたタチバナを例に出して両者に、延いては人間に共通する習性についてそう自らの見解を語る。
「……そうね。まあ、多少の事は胸に秘めて置かないといけない時もあるとは思うけど、『時には』発散する事も大事よね。とはいえ、今回のはちょっと良くなかった――」
「良いって言ったでしょう。それよりも、一つ訊きたい事があるんだけど良いかしら?」
そのフィーのまさに「大人の対応」と言うべき反応に、可憐な外見とのギャップもあり妙な程の感心を覚えつつもこれまでの言動から見て取れる当人の、もとい当妖精の性格からして無理にそれを示す必要は無いと考えたアイシスは少しの間を置いてから一度同意を示すと、人間関係はそう単純なものではないという自身の考えを滲ませつつも、改めて「偶には」程度の頻度であれば抱えたものを発散する事は大切だと同意を示す。
しかし、だとしても今回の件については自身の非の方が大きい事は今となっては自覚出来ている為、続けてその旨についても改めて反省を示そうとするが、それを遮ったフィーは此方も改めて構わない旨を口にすると、一つアイシスに訊きたい事がある、という事をそれを口にする許可を求めるという質問の形で示す。
「え? それは勿論構わないけれど」
そして、それはつまり一度は姿を消したにもかかわらずフィーが再度姿を現した理由でもあったものの、咄嗟にはその事に思い当たらず、かつわざわざもう一度戻って来てまで訊かれる様な事にも思い当たる節が無かったアイシスはきょとんとしながらそう聞き返すが、当然ながら別にその申し出を断る様な理由も無いという事でその旨を答える。
「それじゃあ遠慮無く訊かせて貰うけど、アンタの事は『アイシス』と呼べば良いのよね?」
すると、質問の許可を得たフィーはその言葉通りに遠慮する事無く、単刀直入に自身が訊きたかった事についてそうアイシスに尋ねるが、それは至極単純な質問であったにもかかわらず、その意図を理解しかねたアイシスには直ぐに答えを返す事はおろか、碌な反応をする事すらも出来なかった。
いや、単純に受け取るのであれば、それは単に呼び方がそれで構わないかを尋ねているだけである為、意図を理解するも糞も無い質問であるのだが、フィーのこれまでの言動からして自分を相手に敬称を付けるべきか等を尋ねるなどとは思えない上、そんな事をわざわざ一度別れを告げた後に尋ねに戻るか、という様な事を半ば無意識に考えた結果、アイシスには少なくともその様な単純な意図の質問ではない事だけは直感的に理解出来ていたのであった。
「……ええと、それはどういう」
「言葉通りよ。まあ、分かり辛かった様だからもう少し分かり易く言ってあげるわ。それはアンタの本当の名前じゃないでしょう?」
ともあれ、その十分に伝わっているであろう困惑振りに配慮したのか、別にフィーは答えを急かす様な事も無かった為、暫し経って要約口を開く事が出来たアイシスはこの際その意図をそのまま尋ねる事にするが、今度もそれを遮ったフィーは一度はそれは言葉通りの意味だと答えるも、それでは伝わらない事は既に理解していたのか、より明確に自らの意図が伝わる様にと表現を変えて再度アイシスにそう尋ねるのであった。




