第462部分
「言ったでしょう? この辺りには客人は滅多に来ないって。なのに、あの子は歌の才能はあるのに絶対真面目には歌おうとしないのよ。アンタも聞いたでしょう? 技術的には言う事は無いのに何よあのふざけた替え歌は! それにタチバナも良い子ではあるし、同じく技術的には才能もありそうだけど、あの子が楽しそうに歌を歌う所を想像出来る? つまり此処では歌える奴と出会う機会は貴重なの」
だが、その言動が失礼だったかもしれない、という事に当人が気付くよりも早く口を開いたフィーはいきなりそうアイシスに問い掛けたかと思うと、その答えを待つ素振りすら見せずに勢い良く、具体的にはとてもアイシスの能力では捌き切れない速度で言葉を紡ぎ続け、その最後で漸くアイシスの質問への答えらしきものを口にする。
「ああ、勿論だからと言って気に喰わない奴には此処までする訳が無い……というか、そもそもそんな奴は此処まで来させないし、こうして話をする事も姿を現す事も無いから、まあ、趣味が同じって事を抜きにしても、アンタはそれなりには評価に値するって事よ。まあ、アタシに限らず誰かが誰かを評価する時に、その相手を構成する要素を抜きにする意味があるとはアタシは思わないけどね」
しかし、その勢いに押された事もあり、先述の通りに理解が追い付かなかったアイシスにはとてもその言葉に直ぐに答えを返す事は出来なかったが、それも織り込み済みだった……のかは不明であるものの、当のフィーはそもそもそれを待つ為の間すら開けずに再度口を開くと、再度怒涛の勢いで言葉を紡ぎ続ける。
とはいえ、先程はあの子ことシラユキやタチバナなどへと目まぐるしく話題が変わっていた事と比べれば、今回は基本的にずっと自身の事についての話であった為、比較的未だ話に付いていく事も望めない事も無かったが、ただでさえ理解が追い付いていない所に更に言葉を続けられた事は確かである為、最終的にはやはりアイシスには一連の話を十分に理解する事は出来なかった。
「ええと、私を気に入ってくれたって事は分かったわ」
のだが、これ以上話を続けさせていては永久にそれが叶わない気がして来た事もあり、また相手にばかり話させ続けるのも何となく気が引けたアイシスは、理解が追い付かないままそうする事にもそれはそれで気が引けながらも口を開くと、一連の話の中で何とか確からしいと理解出来た事についてそう答えを返す。
「まあ、そういう事ね。気に入った相手の為に何かをしてあげるのは、そうおかしな事ではないでしょう?」
とはいえ、それでも相手の長い話をそこまで短く要約する事には申し訳無さを感じている事は否めなかったのだが、当のフィーは寧ろ感心した様にそう答えると、気に入った相手に対して良くする事は普通の事ではないかとアイシスに問い掛ける。
しかし、失礼とも取れる言動を見逃した事に関しては兎も角としても、その後に続けられた言葉はそれこそ何も「おかしな」ものではなかった筈であり、かつ先程までとは異なり今回は別に凄まじい勢いで語られたという訳でもないにもかかわらず、その質問を受けたアイシスはそれに答えるでもその為に考える様な仕草を取るでもなく、ただ小さな微笑みを浮かべるのみだった。
「……何よその顔は。私は何もおかしな事は言ってないでしょう」
故に、それまでにやや間を置いた事が寧ろ意外な程に当然の事ながら、そのアイシスの反応に対しフィーはその表情についてそう指摘した上で異論を唱えるが、相変わらずこれまでに当人が話して来た相手の中では割合にきつい口調でそう言われても尚、アイシスの笑みが消える事は無かった。
「ええ。言っている事自体は何もおかしくはないわ。ただ……シラユキ先生も同じ事を言ってたなあ、と思ったら何だか可笑しくなっちゃって。気に障ったなら謝るわ」
とはいえ、無論それはフィーを馬鹿にしようという意図でのものではない、というよりもそもそも意図的に浮かべられていた表情ではなく、実際にそう問われた当人も今度の問いには直ぐに肯定の答えを返すと、その表情の要因を隠さずに明かした上で気に障ったならば謝罪をする意向を示す。
「いえ、その必要は無いわ。……まあ、アイツと意見が被ったって事は甚だに不愉快だけど、そんな事があったならアンタの反応は理解出来るからね。まあ、不愉快なのは確かだけど」
尤も、通常であればその言葉が口から出任せのものである可能性は否めなかったのだが、少なくともアイシスはその様な事をする類の人間ではないという認識なのか、或いは件の種族特有の能力でそれを見抜いたのか、それを聞いたフィーは即答で謝罪は不要である旨を答えると、シラユキと意見が被った事に関しては不愉快ではあるものの、そのアイシスの反応自体は理解出来る為であるというその理由も明かす。
が、対話の順序的に仕方が無い事であったにもかかわらず、その順序も含めて意見の重複が余程不愉快だったのか、その際にはずっと「あの子」だった呼称が「アイツ」になっていたり、不愉快である旨を最後に繰り返した事を可笑しく感じたのか、そのフィーの怒りとは裏腹にアイシスの顔には再度笑みが零れてしまうのであった。




