第460部分
というのも、これまでにそういうタイプの相手と関わった事が皆無に等しかった事もあり、アイシスは割合に気が強そうなというか、ややきつめな口調で話すフィーに対して多少なりは苦手意識を、矛盾する様だが無意識に抱いていたのだが、その一連の言動から読み取れた不器用な優しさを感じ取った事や、当人の語彙で言えば「ツンデレ」に近いその言動に親しみを覚えた結果、失礼だ何だと考える以前の半ば無意識的な反応により、その表情には自然と笑みが浮かんでいたのである。
「……何をにやにやしているのよ。アタシが止めなかったら下手をすれば死んでたって事を理解していないわけ?」
しかし、その笑顔の意味を理解しているのかいないのか、いや少なくとも件の能力によりその感情を何となくは読み取っている筈なのだが、それでも……というよりもだからこそ気に喰わなかったのか、その表情の変化を見たフィーは不満げにその事を指摘すると、自身が止めなければ危なかったという事を今更になって主張する。
「だからお礼は言ったじゃない。何ならもう一度言いましょうか?」
が、此方は種族特有の能力などを使うまでもなく、その口調からして相手は明白に不満を顕わにしていたにもかかわらず、その質問の形を取った主張を聞いたアイシスは何でもない事の様にそう答えると、まるで揶揄う様にそう言葉を続ける。
いや、仮にも命を救われた事を指摘されたにもかかわらず、その反応は流石に失礼にも程があるという話ではあるのだが、無論別にフィーが嘘を吐いているなどと疑った訳ではなく、実際に自らが命を落とす様な事になる可能性が完全に0ではなかったのだろうとは思いつつも、そもそもシラユキが自身を此処に送り出している時点で、いや厳密には送り出した訳ではないのだがそれを止めていない時点で、その「下手をする」可能性が限り無く低いであろう、という事をアイシスは無意識に理解していたのである。
尤も、それでも失礼な反応である事には何も変わらないのだが、実際にフィーは止めてくれたという事実や、同好の士である事が改めて判明した事や直近の言動により一気に深まった相手への親しみ、そして当のフィー自身も敬称や敬語を不要だと言っていた事もあり、未だ出会ってから、より厳密には顔を合わせてからはいくらも経っていない相手であるにもかかわらず、アイシスはつい調子に乗って親しい友人を相手にする様な態度を取ってしまったのであった。
「いいえ結構よ。まあ、さっき見ていた限りではあまり向いている様には思えないけど、精々蜻蛉でも追い掛けていなさい」
その辺りの事情を察したのか、その失礼な言動にもフィーはそれを指摘する事も無く、その最後の質問にも恐らくは正直な答えを返すが、やはり思う所が一切無いという訳ではなかったのか、普段通りと言えばそう言えなくもないものの、妙に当たりが強くも思える言葉を返す。
「あ、ちょっと待って。今までの話だと姿を現す事になったのは私の迂闊な行動の所為みたいだけど、そもそも何で私の事を見守って、いえ見ていたの? あ、もしかして、シラユキ先生に頼まれたとか?」
しかし、既にその様な態度が本気で怒っている訳ではないと認識した為か、そう言われても無駄に傷付いたり萎縮したりする事は無かったが、その話の流れからまた姿をくらませるのだろうという予兆を感じ取ったアイシスは軽い調子でそれを止めると、咄嗟に自身を止める事が出来たという事はその前から自身を見ていた筈、という思考の流れで何故そうしていたのかをフィーに問い掛けた後、それを口にしている際に思い付いた一つの可能性の正誤を続けて問い掛ける。
「そんな訳ないでしょ。アタシは単に暇潰しというか、この辺りにお客さんが来る事なんて滅多に無いし、あの子の修行だか何だか知らないけど何だか滑稽な事をしてたから、面白がってその後を付いていただけよ。まあ、この前はタチバナには世話になった事もあるし、何れは姿を現して自己紹介位はしようかとは思ってたけど、もうそれも済んだわね」
が、それを受けたフィーは当人としてはそれなりに自信のあったその説を即答で否定すると、自身の行動の理由が単なる興味本位であった旨を、引き続き少々棘のある台詞回しで主張するも、続けて元より自己紹介はするつもりであった事も明かした事により、殆ど一瞬にしてその前半の言葉の説得力は激減していた。
「なるほど。それじゃあ、その好奇心とタチバナにも感謝しないとね」
その事もあってか、当人の性格とコミュニケーションへの苦手意識からすれば珍しい事に、その返答を聞いたアイシスは棘のある言い回しにも怯む事は無く納得の意を示すと、相変わらず微笑みを浮かべたままその棘のある言葉を逆手に取ったウィットに富んだ答えを返すのであった。




