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第459部分

「どういたしまして。まあ、本当は暫くは静観してるつもりだったんだけどね。アンタが急にあんなに怒り出すから予定が狂っちゃったわ」


 ともあれ、その辺りのアイシスの心情を知ってか知らずか、その感謝の言葉を受け取ったフィーは意外にも――いや、未だそう判断する程に相手の事を深く知っている訳ではないのだが、話す内容は兎も角その気の強そうな口調からアイシスには漠然とそう感じられた――素直にそう答えると、やや呆れた様な態度を取りながらもその感謝の要因となった自身の行動へと到った経緯を特に隠そうともせずにそう語る。


「それは申し訳……うん? それじゃあ、元々は私の事を陰から見守っているつもりだった……って事で、ええと……というか、あれ、もしかしてこれまでの様子をずっと見ていたって事!?」


 そうして明かされたその「経緯」により、相手の予定を狂わせてしまった事を知ったアイシスは半ば条件反射的にその旨を謝罪しようとするが、その途中でフィーの言葉が意味する状況に遅ればせながら気が付くと、眼前に会話相手が居るにもかかわらず思考を口から漏らしながら理解を進め、最終的に当人に対してそう問い掛けるに到る。


 尤も、そんな質問を投げ掛けるまでもなく、期間の事を除けばその話は既に当人の口から「そんなに気にしないで良い」という旨の助言の形で語られていたのだが、その直後からして別の部分が気になっていた上に、その後も様々な思考や感情が目まぐるしく展開されていたその脳内には、最早その様な記憶は少なくとも容易に手が届く範囲には残されていなかった。


「いえ……いや、言いたい事は分かるのだけど、厳密に言えばその質問の答えは両方とも『いいえ』になるわね」


 しかし、その様な半ば混乱の中にはありながらも、その質問自体は殆ど形式的なものであるというか、少なくとも口にした当人としては答えが分かりながらもそれを当人に確認する様なものであったのだが、またしても、そして先程よりも殊更に意外な事に、その質問を受けたフィーはその内容には一定の理解を示しつつもはっきりと否定の答えを返す。


「とはいえ、そう言った所で更に混乱するだけでしょうからもう続けて説明しちゃうけど、あくまで厳密に答えれば否定の答えになるというだけよ。というのも、先ず第一の質問については、まあ厳密にはそうではないかもしれないけど、『見守る』っていう部分が違っているわ。アタシはあくまでアンタが四苦八苦してるのを観察……いえこれも違うわね、眺めていようと思ってただけ」


 が、それを聞いたアイシスが更なる混乱状態に陥る事は容易に予測出来ていたのか、それとも件の妖精の能力で実際に観測出来たのか、アイシスの返答を待つ事も無く続けて口を開いたフィーはその旨も包み隠さずに口にすると、先ずは最初の質問について、当人もそれが厳密にはそう呼ぶべきではないかもしれないとは言いつつも、その答えが厳密に言えば否定となる理由をそう説明する。


 尤も、当人が少なくとも当人なりには事実を語っているにせよ、典型的な所謂「ツンデレ」的に言葉選びをしているだけにせよ、少なくとも一般的な人類の感覚ではそれは否定の答えを返す程の差異ではないというか、言ってしまえば「見守る」も「眺める」もそう大して変わらないという話ではあったのだが、未だそんな事を考える程の精神的な余裕も無いのか、或いは当人の意思を尊重する事にしているのか、その話を聞き届けたアイシスがその辺りについてツッコミを入れる様な事は無かった。


「それと、『ずっと見ていたのか』という質問だけど、アタシだってそこまで暇してるって訳じゃないわよ。その『ずっと』が何時からを指すのかにも依るけど、当然ながらずっとアンタの事だけを見ていた訳じゃないわ。これでもアタシはここらじゃ顔役みたいなものなんだから、そこらの小鳥からアンタらが魔物と呼ぶ奴らに到るまで、変な事をしない様に目を光らせておかなきゃいけないのよ」


 というよりも、そもそも引き続き口を開く事すら無かったのだが、何れにせよ更に続けて口を開いたフィーは当然の流れとして二つ目の質問に対する答えも否定だった旨の説明を始めると、その範囲が何処までを指すのかは不明なものの、自身がこの辺りでは顔が利くという話も絡めてそう話を締める。


 尤も、此方は最初の質問と同様の傾向がより顕著であり、確かに「ずっと」という言葉を「常に」という意味に取ればそう答えられなくもないものの、後半の内容が事実であるか否かにかかわらず最早屁理屈に近いと言っても過言ではなかったのだが、「ずっと」それを聞く側に回っていた事で或る程度の平静を取り戻していたアイシスの顔に浮かんでいたのは困惑や呆れの色ではなく、ただ純粋な微笑みだった。

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