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クジ運最悪の俺が作る最高の人生

めでたしめでたし

 スタンダはつまらないなと思いながら父親に手を引かれながら壁に並べられた絵をぼんやり眺めた。いや、見させられた。こんなものよりも早くタイムトラベルで恐竜を見に行きたい。大迫力の古代生物。それに歴史的な野球の試合も見るんだ。


「スタンダ。この人がタイムトラベルが出来るワクワクした未来を作ってくれたんだぞ」


 どれもこれも楽しそうで幸せそうに笑う絵ばかりだ。綺麗な女の人と笑い合い、友人と笑い合い、家族と笑い合う。楽しくて仕方ないという絵ばっかり。


「ふーん。何もかも持ってる人っているんだね」


 多彩な色使いでちょっと珍しいけれど、それだけ。たまに結婚式とか出てくるけど平凡な日常を切り取った絵ばかり。つまらないなと自然と欠伸(あくび)が出た。そもそも偉人とか恵まれた才能ありきじゃないか。世の中不公平ってやつ。


「この人は26歳から100年近くずっと地下室で暮らした。元々不自由な暮らしをしていたけど、病気で外に出られなくなったんだ」


 ギョッとして父親を見上げると、スタンダの頭が優しく撫でられた。帰ったらちょっと調べてみようと好奇心が湧く。


「好きになった人はアンドロイド。奥さんにしたんだよ。だから子供も残せなかった」


 信じられない。純白のドレスの美しい女の人はどこからどう見ても人間だ。絵だから嘘だろう。こんな風に笑うアンドロイドなんて見たことがない。ましてや500年も大昔の時代にこの時代にだってないテクノロジーがあったなんてあり得ない。


「作者名は榊原藍火(さかきばらあいか)

アンドロイド初の画家だ」


 スタンダの中でパチリと何かの音がした。


「ロストテクノロジーPURE 7(ピュアセブン)およびPuer (ピュア)Heart (ハート)for 7 (フォアセブン)。それにノブアキ・サカキバラ博士の一生。見てみたいけど時空管理局にしか許されてない。万が一事故があったらタイムマシンが無くなってしまうからだ」


 またスタンダの胸の奥でパチリパチリと音がした。1度目よりも大きくなった。その時隣を別の親子が通り過ぎた。ごくたまに見かける過敏性人工光源(トラーティオ)症候群(シンドローム)だと一目で分かる科学防護服を着ているアルビノみたいな女の子。


「パパ!ママ!この人私と同じ!」


 暗くて大人しい、しょっちゅう休む過敏性人工光源(トラーティオ)症候群(シンドローム)のクラスメート、ケビンを思い出した。この絵の人があいつと同じ?


 女の子と父親の会話が妙にスタンダの耳に届いて来た。


「そうだね。でも元気に100年以上生きたし歴史に残る偉大な科学者になった。沢山の希望を作った。トモカの名前はノブアキ博士の親友からとったんだ。言っただろう?ちょっと大変なだけの病気だって。こんなに幸せそうじゃないか!」


「うん!私も頑張って宇宙ピアニストになるね!」


 女の子と父親はニコニコしながら遠ざかって行った。


「そろそろ時間だ。移動しよう」


「父さん今日は帰りたい」


 スタンダは足を止めて父親の手を引っ張った。


「ん?恐竜楽しみにしていたんだろ?一年も待ったのに」


 誕生日のお祝いのために一年前から予約してくれていたことを知っている。だから言いにくかった。でもパチパチ、パチパチと火が燃えている。それにケビンのつまらなそうな顔がちらちら横切る。


 目の前の絵のタイトルは"ちょっと視点を変えたら世界は変わる"


 地上には文明社会で笑い合う家族、その下の薄暗い地下室にも笑い合う人々の絵。


「俺知りたい。この人の人生。それにクラスにこの人と同じ病気の奴がいるんだ。教えないと!」


 スタンダは父親の手を離して前へ踏み出した。一つ後ろの絵を見ていた母親が近づいて来たけど無視した。


 時空管理局で働こう。つまらなそうなケビンにも話してやろう。だってこんなに楽しそうに生きれるのに勿体無い。


***


 目をキラキラさせて美術館を進む息子は眩しかった。明るい未来が降り注いでいる。


「親父に子供が小さいうちに連れて行けと言われた意味が分かった。俺はそんなに興味持たなかったんだけどな」


「そうなの?お義父さんが貴方が医者になった理由はロゼ・プードゥとノブアキ・サカキバラ博士のおかげだって言っていたわよ」


 妻がふふふっと微笑んだ。腕の中でまだ赤ん坊の娘は安心しきった柔らかな表情で眠っている。


「そういえばさっき人類は科学に破壊されるって映画が公開されるって宣伝を見たのよ。氷河期を到来させてしまうとかなんとか、貴方そういう映画好きよね。公開されたら観に行く?」


「もちのろん。物語でしかないから楽しいんだ!ワクワクするじゃないか!」


 妻の腰を抱いて息子を追いかける。今日も実に平和だ。


***


 父ちゃんは最高の人生だったって言って死んでいった。俺はどうかな?


「ノブ、なぜ私の名前の漢字が"藍火"なんですか?」


「愛ってつけて欲しかっただろう?決めた時の悔し顔を見たかったんだ」


「やっぱり」


 相変わらず綺麗で美人なアイカを俺はそっと撫でた。俺が死んだら壊れるだろうな。


 よくもまあ俺をこんな長生きさせたなと感心する。アイカの怒涛(どとう)の研究でたった数年で地下室から出れるんじゃないかと思ったけど、友達や家族はみんな会いに来てくれるし何よりアイカがいる。外なんて出たら人類最大欲求に負けて、可愛い奥さんが眠り姫になっちまうからな。


 一途過ぎるからアンドロイドって超面倒!


 PURE7(ピュアセブン)アイカ・ミタのPuer (ピュア)Heart (ハート)に選ばれちまったから仕方ない。世界で初めて過敏性人工光源(トラーティオ)症候群(シンドローム)に選ばれたし俺ってやっぱりクジ運最悪。


 でも超ハッピー!


 ちょっと視点を変えたら世界は変わる。


 それが俺の答え。

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