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「らしくないな、わたし」
香織は自虐的な笑みを浮かべながら携帯をソファーへと投げ、ベッドへと寝転ぶ。目をつぶるとなんだろう。どうしてか御崎と尋が楽しそうに歩いている姿が出てきてしまう。彼氏と喧嘩をするわけもないし気になることもない。彼はとてもやさしくて私には勿体ないくらい素敵な人だ。素敵な人だって分かり、そこにも惹かれた。告白された時だってとても嬉しかった。今だってとても大切にしてくれているし、私だって大好きだ。好きじゃあない人となんて付き合えるほど私は大人じゃあない。だけど、どうしてだろう。いつか、昔に置いてきていた気持ちがこっそり顔を出している。
「違うんだよ。それは違う気持ちなの」
気持を否定しようとする度に、忘れようとする度に思い出してしまう。
「だから違うんだよ。うん。違うの。だって、尋ちゃんは大切な幼馴染であって、それだけ。こんなことを思ってしまったら・・・」
彼氏に失礼だ。いや、そんな事は人として最低な事だ。香織はぐっと枕に顔を埋めてみるけれど余計に考えてしまう。
「・・・」
月の光が優しく差し込む部屋に携帯の画面を見ながら立っている。すっと、昔に感じていた自分の気持ちが体に沁み込んでくるような感覚。サンタクロースを信じていた頃の幼い純粋な気持ち。夜、星で出来た船で旅立てると思っていた頃のわたしに私は苦笑いにも似た笑みを向けてしまう。
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「お待たせしてしまってすみません」
鼻を赤くし、少しだけ息を切らしながら尋の前へと笑顔で挨拶をしている。そんなに急いできたの?なんて、微笑ましく彼女を迎える。
「本当に僕らの周りはイベント好きが多くて困るね。だけど、ごめんね。付き合ってもらっちゃって」
「め、滅相もないです。私はどうせ家に帰っても暇だったので。誘って頂いて寧ろ嬉しいです。いや、私が手伝いますって言ったのか」
あはは。なんて恥ずかしそうに御崎は両手を左右に元気よく振っている。唐突に、イベント好き男、雨谷圭が、雪が降る中で花火をするのってお洒落を通り越してお酒だよね。とか訳わからないことを朝早くから尋に伝え、なぜか買い出しに駆り出されてしまっていた。出先で御崎に会い事情を説明すると荷物持ちに。と、一緒に買い出しに行く事となった。その際、少しお待ちください。と、駆け足でどこかへ行ってしまっていた。そして、先ほどの通り駆け足で帰ってきたところ。
「それにしても今日はいい天気だね。雪はチラついているけど」
「そうですね。雲の隙間からは青空が見えていますね。今日の夜は晴れ予報だったし、風は吹いていないので絶好の花火日和ですね。それにしてもこの季節に花火なんて売っているんですか?」
雨谷が教えてくれた店には四季を問わない物がたんまりと売っている個人経営店がある。乾物なんてなかなか賞味期限が切れている物なんて見たことがないが、この店には稀にあることもある。一種の宝さがしさえ出来るようなお店である。御崎も店自体は知っていたが来店するのは初めてだったらしい。入店すると、こそっと
「こんなことを言ったらいけないですけど、凄くレトロな感じで昭和の時間がこの場所だけ止まっているようですね」
「たしかに。けど、なんだろうね。この静かな感じが癖になるんだよね」
それ分かるかもしれません。なんて笑いながら相槌を打ちつつ、目的でもある花火を探す。と、意外と簡単に見つけてしまう。予算は一万円。どれだけ花火をするつもりなんだろうか。流石に一万円も買う必要もないと、半額の五千円ほど買い込む。五千円でも手持ち花火を主にするならば豪遊である。そうしたら、残りの五千円である。尋はふと、
「ねえ。御崎ちゃんはまだ時間ある?」
「あ、はい。全然、暇です。むしろ、暇すぎて暇と戦おうとしていました」
妙にテンションが高い御崎に学校とは少しだけ違う姿に驚きつつも癒されてしまう。
「じゃあさ、言い出しっぺの代わりに買い物に出かけたんだからさ、この予算を自分たちの昼ご飯に使っても文句は言われないよね」
にしし。なんて尋らしくない悪い笑みを御崎へ向ける。と、
「い、いんですか?それならひ、尋先輩が使ってくださいよ。私は、自分でお支払いをするので」
「何言ってんの。僕が御崎ちゃんを誘ったんだからそこはいいの。何か言われたとしても僕が御崎ちゃんを無理やり誘ったって言うし。と、言うより本当にそうだから大丈夫だよ」
「ダメですよ。怒られるなら一人より二人ですよ。私も一緒に怒られます」
妙な連帯感。二人は何とも言えない笑顔を浮かべながら季節外れの花火をたんまりと持ちながら歩き出す。暦的には春であり、桜吹雪なんかを見ながらお団子でも食べたら風情があっていいのだろう。けど、視界に入ってくるのはちらちらとゆっくりと太陽に照らされながら雪が降っている。御崎も同じことを思ったのか、
「凄いですよね。季節外れの雪だってことですけど、凄く素敵です」
「うん。なんか、これもまた、五不思議の一つって言われてるよね」
「ですです。だけど、今回はただの異常気象だ。五不思議の一つだって言ってるけど、何か改変していない?って色々な意見が錯綜してて今回ばかりは掲示板も意気消沈って感じです。なんか、桜吹雪とか秋風とかだって思いを乗せるって言い張れば何でもそうじゃん。って人もいたり」
「なるほどで。だけど、僕は雪が伝えられない気持ちを乗せて遠くの相手にも届くって凄く素敵だと思う」
「・・・」
「・・・ん?」
視線を横へ向けると意外そうというか少し驚いた表情を浮かべている。何か変な事でも言っちゃったかな?照れくさそうに、なんとなく苦笑を浮かべると、
「あ、いえ。ひ、尋先輩も素敵な事を思われるだなって。ははっ。素敵です」
ふふん。なんて自分の事のように笑いながら歩き出す。尋もつられ微笑む。ジワリと心が温かくなる。見えない彼女の気持ちが少しだけ触れた気がした。
「御崎ちゃんは何か食べたいものがある?」
そうですね。学校では見たことがないどこか子供っぽい表情を浮かべ顎に手を添え考えている。たった、一つしか年齢が違うのにここまで可愛げがある女の子は初めてだ。うん、うん。なんて尋も聞きつつ自分も案を考える。五千円。高校生の昼食代としては多すぎる金額である。それに尋も大口を叩いてはいたが、あくまでみんなで何かイベントごとに使う用のお金。自身の胃袋の為に使う気なんて毛頭ない。御崎には本当に付き合ってもらったお礼を兼ねて自分がごちそうをする気であった。
「私はなんでも食べれるんですけど、尋先輩は何かアレルギーとかありますか?」
「そうだね。僕もなんでも食べるよ。御崎ちゃんが食べたい。って思うご飯でいいよ」
本当です?なら、高級焼肉屋さんで。なんて悪戯な笑顔で伝えてくる。尋もまた、それは無理ですね。ごめんなさい。と、伝えると本気で言っていないことは二人とも分かっていた。
「私、ここが気になっているんですけど、良いですか?」
携帯の画面を見せてくる。ここ最近出来た食堂だろうか?和食が多く映っている。
「よし。じゃあ、ここに行こう」
「わぁ。嬉しいです。ここ、ずっと気になってたんです」
うん、うん。尋は目的の場所を御崎に聞きながら歩き出す。御崎もまた、満面の笑みで尋の横へと駆け足で向かう。と、
「お。尋ちゃんに御崎ちゃんだね。こんにちは」
「あ。こ、こんにちは」
「あれ?どうしたの?今日は用事があったんじゃあないの?」
尋、御崎の前に清水香織が優しい笑みを浮かべながら話しかけてくる。




