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街から音が消えてしまいそうな。そんな夜。ホッと息を吐いてみると相変わらずの白い息が純白な雪に混じり消えていく。時間を見るともう、午前一時を過ぎている。こんな時間になにしてんだって自虐的に笑いながら携帯をコートのポケットへ入れ歩き出す。ザクザクと月の光が雪を照らし夜の割には深夜とは思えない明るさであった。
「月が出ているのに雪が降るのも不思議だ」
つい、幻想的な場面だったのか気分を良くしたのか、半笑いで独り言を口にする。なんだか、こんな時間に話がしたいな。なんて、思ってしまう。が、こんな時間に明日が休みだとはいえ起きている友人は少ないだろう。いつもなら紫穂に連絡をするのだろうけど、あの態度を見ると電話をしたところで取り合ってくれないだろう。仕方ない。何か分からないけど、自分が悪いことをしたんだろう。そう言い聞かせ歩いていると、珍しくポケットから振動が太もも辺りを刺激する。不思議に思いながらも画面を見る。と、尋はすぐさま電話を取る。
「もしもし?尋ちゃん。起きてた」
電話越しからでも分かってしまう。きっとニコニコと笑い窓から外の景色を眺めているのだろう。気持ちが悪いが、そこまでなんとなく分かってしまう。
「こんな時間なのにまだ、起きてたんだね」
電話をしてきたのだから分かりきった単語しか出てこなかった。彼氏が居ると分かっていても幼馴染で初恋の相手。緊張しない訳がない。ぐっと高くなってしまいそうな声色を冷静に保とうと意識するも、そんなこと、幼馴染の彼女にはバレてしまう事なんて分かりきったこと。電話越しから、ふふっ、なんて優しい笑い声が聞こえてくる。
「そんなに尋ちゃんは私と話すのが好きなの?本当に友達好きだなー」
少し違うんだけど。彼女は鋭いようで鈍感である。まあ、だから自分の事は当然だけど異性として見ていないという事も分かってしまう。チクリと嬉しかった感情に上書きされるように痛みが胸へ覚える。
「やっぱり凄いね。うん。話が出来るのは嬉しいよ」
「っ・・・」
「ん?」
電話越しで一瞬、時間にして、一、二秒ほど。沈黙。
「ひ、ひろちゃんも彼氏持ちの女の子にやりますねー」
「何が、なにが!?」
「ん。んーん。何でもない。ごめんね。なんで電話をしたかと言いますと、尋ちゃんも今の景色を見てるかなーって思って。今ね、月が出ているのに雪が降ってて幻想的なんだよ」
無邪気な声色に尋もまた、口元が緩んでしまう。
「うん。見ていたよ。凄く綺麗な空間だよね。気持ちが良くて散歩していたんだ。」
うわぁ。こんな寒いのによく歩いているね。凄いね。と、妙にテンション高い返答が勝ってきたことでさえ微笑ましく愛おしかった。そう思ったらいけない。分かっている事なのに思ってしまう自分が嫌いだ。
返答がなかったのか香織は電話越しからおーい。なんて話している。
「ごめん、ごめん」
「もう。ちゃんと聞いてる?この季節外れの雪も五不思議の一つかもしれないって話しだよ」
「あ、ああ。誰かの気持ちを乗せて的な事でしょ?」
知ってるんだ。つまらない。なんて唇と尖らせ不満げな声で抗議してくる。
「でも素敵な不思議だよね。伝えられない思いを代わりに届けてくれる雪って。本当にギフトみたいで素敵だよね」
「伝えられない思いを代わりに届けてくれる?」
知っているようで詳しくは知らなかった。香織の言葉に対して疑問を返す。と、声のトーンが少し上がり咳ばらいをすると、
「そうなんですよ。この雪の一つひとつには誰かの気持ちが乗ってるの。季節外れの雪には誰かの気持ちが溢れてしまって起こる現象なんだって。今まで見たいに妖精とか流星群とかとはオカルト時見てないから不思議としては弱い感じなんだけどね」
それだけなのか?だったら、御崎ちゃんの感情が入れ替わったようなあの感覚は何なんだろうか?単純にからかわれただけ?
「もしもし?聞こえてる?」
「あ、ごめんごめん」
「ううん。いいんだけど。だから、今回の五不思議の掲示板はそこまで盛り上がっていないんだ。季節外れの雪なんてたまたまかもしれないし。って」
「なるほど」
「だけど、私は凄く素敵だと思うんだ。伝えたい気持ちが溢れてそれが雪となって相手の場所へ届けれてるかもしれないんだよ。凄く素敵だよね」
「確かに。伝えたくても伝えれないことだってたくさん有るかもしれないもんね。それをこうやって不思議で雪になって相手に届いてくれているかもしれないって思うと少し諦めというかなんというか、やっぱり諦めかな。そんなことを思えるかもしれないね」
空から降り続いている雪を掌で受け取る。と、ゆっくり、ジワリと掌で水へと変わる。冷たいからか少し、ほんの少し、失恋にも似た痛さを感じる。
「尋ちゃん?どうしたの?少し切なそうな表情になった?大丈夫」
きっとこれは深夜の魔法。誰にも犯すことのできない空間。二人っきりの時間に尋はつい、本音を口にしてしまう。
「僕さ、香織のそういう風に気遣ってくれるところ好きなんだ」
「えっと・・・あはは。なんだか照れちゃうね。私も尋ちゃんの事大好きだよ。うん・・・あはは」
妙に火照ってしまった体は深々と降る雪の温度では下げれなかった。ドクン、ドクン。と、胸の鼓動だけが聞こえる。一体全体自分は何を言ってしまった。好きなんだ。好きと言ってしまった。親友の彼女に対して。だ。
「こら!尋ちゃん!」
彼女の大きな声に冷静さを取り戻し、電話へ意識を向ける。
「もう。尋ちゃんが唐突にいつもより低い声で話すからビックリしちゃったよ。けど、ありがとうね。やっぱり尋ちゃんとも幼馴染でよかった。やっぱり幼馴染とお話をすると楽しいね。ありがとう。実は圭と少し喧嘩ではないんだよ?ちょっと気になることがあって寝れなくて外を見てたら尋ちゃんを思い出して。声聞けて良かった。ありがとう。うん。元気になった」
元気になってくれてよかった。精一杯出てきた言葉を伝え終わると魔法は解けていた。
「ははっ。キツイなー」




