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夏になる頃へ  作者: masaya
三章 四月の雪
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その表情に私はまた胸の痛みを隠すように、バレないように嘘をつく。一体いつまで嘘をつけばいいのだろうか?そんなの決まっている。決まっているけど言わない。言いたくもない。この時間がどれだけかけがえのない物なのか知っている。好きだからこそ、言わない、言えないことだってたくさんあるんだ。何度も出かけている、言葉をぐっと飲みこむ。いい加減飽きた。言葉に味があるのなら私はきっと言葉が大嫌いな食べ物になっている。だけど、自分をだましてまた、飲み込む。隣で相変わらず笑っている憎らしい、だけど、大好きな表情を盗み見る。ああ、相変わらず、昔のままの表情で私を見てくる。その微笑は友達に対して向けている顔。知っている。知っているんだよ。うん。相変わらず。

「あのさ、尋ってさ、」

「んー。雪凄い綺麗だね」

深々と季節外れの雪は彼女の意を決した言葉でさえ包み隠そうとしている。隣の乙女心が分からない男は暢気に笑いながら雪を掌で受けている。

「あ、あのさ、私、実は」

あれ。やめろ。何を言おうとしている?自分自身に対して驚きを隠せない。勝手に気持(くち)が動いている。無邪気にだけど少し大人びて男らしく見える幼馴染に何を言おうとしているんだ。

「私ね、」

「ん?・・・あ、えっと・・・」

「・・・」

尋の視線の先には紫穂ではない彼女が目に映っていた。紫穂もまた、尋に向けていた視線を尋が向ける方へとやる。と、傘もささず鼻を真っ赤にしている今吹竹井が立っていた。

「お疲れ様です。秋鹿先輩、平木先輩」

「えっと、圭の後輩で、」

「そうです。バンドやらせてもらってます。すみません。こんな所で。つい、平木先輩が見えたので嬉しくてつい、声かけちゃいました。前、渡した俺が作ったデモ聴いてくれましたか?」

なんて眩しい笑顔なんだろうか。初めはこのずかずかと入ってくる距離感に驚いたが、圭の後輩なら仕方ない。いつからかこのずかずかキャラも慣れてしまっていた。しかし、なんてことだろうか。聞き間違えでは無かったら、きっと、彼は紫穂の事が好きなんだろう。そりゃあ紫穂にnこんなことを言うのは失礼だろうが、美人である。それはモテるに違いない。ここは先輩らしく。

「じゃあ、先に行ってるよ。紫穂は音楽の感想でも伝えてあげなよ」

「え、」

「あ、ありがとうございます。秋鹿先輩」

満足げに、誇らしげに今吹に軽く何度か頷き歩きバス停まで向かう。慣れないくせに優雅に胸を張って歩いていたせいか、来ると思っていなかった衝撃に驚きを隠せない。何事だ。なんて驚きながら後ろを向くと鬼の形相で紫穂が尋を睨みつけていた。今吹はいつの間にか、というより、本当にいつの間にかその場所からいなくなっていた。

「痛みと驚きでパニックなんだけど。今吹くんは」

「感想を言ったら走って練習があるからって帰ったよ。それよりさ、何さっきの」

どすの効いた声で問うてくる。全く悪いことをしていないが、何か悪い事でもしてしまったんじゃあないかとさえ思ってしまう気迫に尋は、咄嗟に謝罪の言葉を向ける。

「ご、ごめんなさい。何か悪いことしちゃった?」

「もう、死ね」

とんでもない言葉を尋に向け紫穂はドスドスとバス停まで歩いていく。

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