本物の天才
男は天才なのだろうか?
「孤独は天才の特権だ」(ショーペンハウエル)
「孤独は天才が通う学校である」(エドワード・ギボン)
これが本当なら、男はどれだけ天才になったのだろう。
もし孤独が天才を育てる学校なのだとしたら、男はその頃からずっと在籍し続けていたのかもしれない。
エリート中のエリートだろう。
だが、そこで学べたものが何だったのか、男自身にも分からなかった。
普通の人間たちとはあまりにもかけ離れた人生を送ってきた。
小学校の頃、休み時間になると皆は校庭へ飛び出していった。
サッカーをする者、鬼ごっこをする者、友達同士で笑い合う者。
男は教室の隅の席に座り、孤独に窓の外を眺めていた。
誰かに誘われることもなければ、自分から輪に入る勇気もなかった。
中学校では修学旅行の班決めが地獄だった。
「余ったから、お前ここな」
先生の一言で班が決まる。
誰も男と同じ班になりたがらない。
笑いながら談笑するクラスメイトの声を聞きながら、男はただ下を向いていた。
高校では昼休みになると弁当を自分の席で食べた。
一人で食べる弁当の味など覚えていない。
覚えているのは、いつも遠くから聞こえる友達同士の楽しそうな笑い声だけだった。
卒業式の日。
皆が写真を撮り合い、連絡先を交換し、涙を流して別れを惜しむ中、男は誰とも写真を撮らずに帰った。
携帯電話には一件の着信も、一通のメッセージもなかった。
そして社会に出ても何も変わらなかった。
仕事が終われば真っ直ぐ家に帰る。
休日に鳴ることのないスマートフォン。
誕生日を祝ってくれる人もいない。
年末年始もゴールデンウィークも、クリスマスも、一人。
恋人はおろか、友達と呼べる人間さえいない。
ずっと天才が通う学校に通い続けた。
毎日、毎日、毎日。
気づけば卒業しないまま三十八年が過ぎていた。
男はただただ孤独だった。
居酒屋で楽しそうに仲間と酒を飲む連中。
くだらない話で腹を抱えて笑う連中。
「また今度な!」
そう言って別れる連中。
男にはその「また今度」が存在しなかった。
コンビニで買った弁当を一人で食べる夜。
テレビの笑い声だけが部屋に響く。
手を繋いで歩くカップル。
肩を寄せ合う夫婦。
公園ではしゃぐ家族連れ。
何もかもうるせえな。
死ねよ。
全員死ねばいい。
そう思いながらも、本当は羨ましかった。
妬ましかった。
どうして自分だけが、その輪の外にいるのだろう。
そんな男を世間は笑う。
努力が足りない。
性格が悪い。
自業自得だ。
好き勝手なことを言う。
黙れ、、、
う、うう……
涙が溢れる。
くそ。
何が天才だよ。
天才でも何でもないじゃないか。
ただの糞虫だ。
ウジ虫以下だ。
馬鹿と天才は紙一重。
男は天才だったんじゃない。
ただ馬鹿すぎて、誰にも相手にされなかっただけだ。
男の名前は福口哲郎。
三十八歳、独身。
彼女いない歴三十八年。
職業、ニート。
誰よりも孤独な男。
誰よりも信頼できる仲間を欲している男。
そして――
愛というものを知るまでは、まだ死ねない男だった。
次回も福口哲郎シリーズ
お楽しみに




