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第9話 森を抜けて

第9話でございます。今回はちょっと長めになってしまいました。

世界の外側に、

神域は存在する。

そこは物質も、時間も、

意味を持たない場所。

ただ、

世界を管理するための

「視点」だけがある。

——本来なら。

「……断魂の森が、静かすぎる」

最初に異変に気づいたのは、

観測を司る神だった。

無数の光の板が浮かぶ空間で、

一つの映像が停止している。

《管理領域:断魂の森》

《管理者:断魂樹王》

《状態:――消失》

「消失?」

その言葉に、

神域がざわめいた。

「討伐記録は?」

「英雄指定は?」

「干渉申請は通っているのか?」

次々に確認が走る。

だが、

どこにも——該当がない。

「……あり得ない」

断魂樹王は、

神が直接設置した安全装置だ。

選別。

排除。

調整。

森に捨てられた存在が、

外へ出ないための“蓋”。

それが、

壊された。

「誰がやった」

映像が、

再生される。

瘴気に満ちた森。

そこに映る、

一人の人間。

白い髪。

赤黒い左眼。

異質な剣。

「……人間、だと?」

神々の声に、

初めて明確な感情が混じる。

——困惑。

「スキル構成を出せ」

《対象解析開始》

《スキル:DIECEROLL》

《スキル:万糸(血糸/黒糸)》

《装備:樹王の剣》

解析が、

途中で止まった。

《警告》

《当該装備は管理外領域に属します》

「……管理外?」

ざわめきが、

一気に広がる。

「樹王の剣は、

あくまで“森の中”で完結する存在のはずだ」

「所有者に無限魔力?

状態異常無効?」

「そんな設定、誰が許可した」

沈黙。

答えは、

誰にも出せなかった。

「……問題は、そこじゃない」

沈黙を破ったのは、

秩序を司る神だった。

「この人間、

魔力ゼロで召喚された個体だ」

映像が切り替わる。

地球の教室。

光る魔法陣。

召喚直後の水晶。

——光らない。

「本来なら、

即時廃棄対象だったはずだ」

「なのに、

スキル授与が行われている」

「しかも、

覚醒条件を満たし、

代償を支払い、

森の主を倒した」

神域に、

嫌な沈黙が落ちた。

これは、

偶然ではない。

「……観測不能領域が増えている」

別の神が、

低く呟く。

「確率操作」

「因果干渉」

「主権侵食」

「どれも、

神の特権領域だ」

視線が、

白髪の青年に集まる。

「このまま放置すれば?」

誰かが、

そう問いかけた。

答えは、

すぐに返ってきた。

「——いずれ、

神域に届く」

完全な敵意ではない。

だが、

脅威認定だ。

「介入は?」

短い沈黙。

そして。

「……まだ、早い」

「今は森の外に出ていない」

「世界への影響も限定的だ」

「何より——」

秩序の神が、

映像を指す。

「彼は、

まだ“復讐”しか見ていない」

「目的が狭い」

「だからこそ、

危うい」

結論は、

一つだった。

《対象:暫定監視指定》

《干渉レベル:観測のみ》

《コードネーム:白災はくさい

「……名付けるのは、

少し早い気もするがな」

誰かが、

苦笑する。

だが、

誰も否定しなかった。

映像の中。

白髪の青年が、

森の中で剣を振るう。

魔物が、

理屈なく断たれる。

神々は、

それを見つめながら理解していた。

——もうこれは、

失敗作ではない。

——管理外の存在だ。

そして。

「……森を抜けた時が、

本当の始まりだな」

その言葉だけが、

神域に残った。


森を抜けた瞬間、空気が変わった。

断魂の森の中で常に肌にまとわりついていた重苦しい圧迫感が、嘘のように消え去る。

確かに——境界を越えたと分かる。

「……外、か」

瘴気は薄い。

空気が、軽い。

胸いっぱいに吸い込んだそれは、

森の中では得られなかった感覚だった。

背後では、なおも黒々とした樹々が連なり、森が“生き物”のようにこちらを睨みつけている。

一歩踏み出せば、再び呑み込まれる――そんな錯覚すら覚えた。

だが、主人公はもう振り返らなかった。

森は越えた。それだけで十分だった。

問題は、

ここからだ。

《現在地:王都外縁未踏領域》

《推定距離:王都まで徒歩 約30日》

「……一ヶ月、か」

地図で見れば簡単な距離に思えても、実際に歩くとなれば途方もない。

だが、

不可能でもない。

樹王の剣がある。

万糸がある。

そして——

「……生きる意思もな」

俺は歩き出した。

そのときだった。

森の縁に沿うように、はっきりとした“道”が延びているのを見つけたのは。

人の手で整えられた、古いが確かな街道。

この森を避けるように、しかし完全には遠ざからない場所に造られている。

草に埋もれ、

ほとんど使われていない。

だが、

確かに人の手で作られたもの。

「……こんなところに?」

断魂の森の近くに、

道がある。

それはつまり——

「……捨てに来る場所、か」

胸の奥が、

冷えた。

その時。

微かな物音が、

道の先から聞こえた。

足音。

軽い。

だが、怯えている。

俺は、

剣に手をかけず、

静かに近づく。

そして。

「……っ」

思わず、

息を呑んだ。

そこにいたのは、猫の耳を生やした女の子だった。

年齢はまだ幼い。服は擦り切れ、身体は細く、怯えた瞳で周囲を見回していた。

まるで、かつての自分を見るようだった。

小さく、

震えるように動く——ネコの獣人。

年は、

俺と同じか、少し下。

服は粗末で、

手首には……縄の跡。

「……やっぱり、ここだった……」

か細い声。

彼女の前には、

三人の男。

武装した、

王国の人間だ。

「おい、いい加減にしろ」

「森に放り込めば、

処理完了だ」

「獣人の魔力なしなんて、

飼う価値もねぇ」

——聞き覚えがある。

水晶。

価値。

不要。

「……」

左眼が、

熱を持つ。

だが、

今は——

「やめとけ」

だが、思ったこととは裏腹に、俺は道に出ていた。

男たちが、

一斉に振り返る。

「……誰だ、お前」

「こんなところで——」

言葉は、

続かなかった。

白い髪。

赤黒い左眼。

剣。

——そして、

断魂の森の“外”から出てきた存在。

「……森から?」

「生きて、出てきたのか……?」

恐怖が、

一瞬で伝染する。

「その子は、

まだ森に入ってない」

俺は、

淡々と言った。

「今なら、

引き返せる」

男の一人が、

剣に手をかけた。

「……脅しか?」

——違う。

《万糸》

黒糸、ON。

糸は、

地面を這い、

男たちの足元に絡みつく。

痺れ。

恐慌。

判断力低下。

「っ、な——!?」

「選べ」

俺は、

剣を抜かない。

「帰るか」

「この場で、

二度と立てなくなるか」

数秒後。

男たちは、

道を転がるように逃げていった。

静寂。

主人公は剣に手をかけることなく、静かに近づく。

少女は一瞬身構えたが、敵意がないことを悟ると、震えながらも逃げなかった。

少女が、

呆然と俺を見ている。

「……た、助けて……くれた、の?」

「……ああ」

近づくと、

彼女は一歩引いた。

当然だ。

俺は、

どう見ても普通じゃない。

「……森に、

捨てられるところだった」

彼女の声は、

震えている。

「魔力が……

ほとんど、なくて……」

——同じだ。

「名前は?」

少し迷ってから、

彼女は答えた。

「……ミア」

ネコ耳が、

ぴくりと動く。

「……行くところ、あるか?」

首を、

小さく横に振る。

王都は、

片道一ヶ月。

危険も、

多い。

俺は、

少しだけ考えてから言った。

「……俺も、

王都に用がある」

「しばらく、

一緒に行くか」

彼女の目が、

大きく開かれた。

「……い、いいの?」

「ああ」

復讐の旅だ。

一人でやるつもりだった。

だが。

「……二人でも、

問題ない」

森の外で、

初めて手に入れたもの。

それは、

道と、

同行者だった。

断魂の森は、

もう背後にない。

物語は、

ここから次の段階へ進む。

いかがだったでしょうか。面白いと思った方はこれからも応援をよろしくお願いします。

また、いつものように誤字脱字があればご報告ほお願いします。

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