第10話 久しぶりの街へ
第10話目です。今回、怜は久しぶりの街に行くようです。もちろんミアと一緒に。
主人公は近くにある街へ向かうことを決めた。
旅の資金がなければ、王都へは辿り着けない。
道を辿れば、
半日ほどで街に着く。
それが分かった時、
ミアはほっとしたように息を吐いた。
「……街、久しぶり」
「人が多い場所は、
苦手か?」
「……ううん。
でも、少し怖い」
それは、俺も同じだった。
だが問題は、その姿だった。
白く変わった髪。
異様な雰囲気。
そして、どこか人離れした存在感。
恐怖を抱かせるには十分すぎる。
白い髪。
赤黒い左眼。
剣。
どれも、
街では悪目立ちする。
俺は、過去に倒した魔物からドロップした眼帯とマスクを取り出し、顔を隠す。
黒ずんだ布の眼帯。
骨質のマスク。
どちらも、
森で倒した魔物のドロップ品だ。
「……それ、つけるの?」
「ああ」
左眼を覆い、
顔の下半分を隠す。
それだけで完全に溶け込めるわけではないが、少なくとも視線は和らぐ。
視界は狭くなるが、
問題ない。
万糸がある。
「……ちょっと、
冒険者っぽい」
ミアが、
小さく言った。
「そうか?」
「うん。
ちょっと、強そう」
それは、
悪くない。
街の名は、
リュネス。
王都へ向かう街道沿いにある、
中規模の交易都市だ。
門をくぐると、
人の気配が一気に増えた。
人々のざわめきが耳に届く。
商人の呼び声、子供の笑い声、冒険者たちの荒い笑い。
――平和だ。
だが。
「……見られてる?」
ミアが、
俺の袖を引く。
確かに、
視線は集まっている。
白髪と仮面。
不審に思われない方が不自然だ。
だが、
怖がられてはいない。
それで十分だ。
この街の中心にある冒険者ギルドへ足を運ぶ。
旅の資金。
身分の保証。
情報。
すべて、
ここで揃う。
重厚な木の音。
中は酒場のように賑やかだった。扉を開いた瞬間、視線が集まるが、誰も声をかけてこない。
受付の前に立つと、
女性職員が顔を上げる。
「冒険者登録ですね?」
「……ああ」
声は、
低めに抑える。
「お二人ですか?」
ミアが、
少し驚いたように俺を見る。
「……彼女も、
登録する」
「わ、私も……?」
「一緒の方が、いい」
その隣で、猫の獣人の少女――ミアは、落ち着かない様子で周囲を見回していた。
「……ここで、生き方を教える」
それが、主人公の決めたことだった。
街では、
孤立は命取りだ。
彼女は、
少し考えてから頷いた。
「……お願いします」
登録は、
簡単だった。
名前。
種族。
受付で冒険者登録を済ませる。
淡々とした手続き。
問題は——
「魔力量測定を行います」
水晶球が、
机の上に置かれる。
——嫌な予感。
俺が触れても、
結果は変わらない。
水晶は、
光らなかった。
一瞬、
空気が止まる。
「……え?」
職員が、
目を瞬かせる。
「魔力、
ほぼゼロ……?」
周囲の冒険者たちが、
ざわついた。
「……魔力なし?」
「それで、
冒険者?」
だが、
俺は何も言わない。
今さらだ。
「……武器適性は?」
「剣」
樹王の剣は、
出さない。
代わりに、
登録用の安物の剣を握る。
数値は——
「……異常値?」
職員の声が、
裏返った。
「筋力、反応速度、
危険察知……
すべて基準外……」
「な、なんだこいつ……」
騒ぎが、
大きくなる。
だが。
「……登録は、可能です」
職員は、
一息ついて言った。
「ランクは、
Eから」
「構わない」
ランクなど、
どうでもいい。
必要なのは、
金と情報だ。
次は、
ミア。
水晶は——
淡く光った。
「……少量ですが、
確かに魔力があります」
ミアが、
少し驚いた顔をする。
「……本当に?」
「はい。
ただ、制御が苦手そうですね」
獣人特有の、
身体能力偏重型。
「……ランクは、
Eで登録します」
ミアは、
小さく頷いた。
「……一緒で、
よかった」
冒険者証を受け取り、
ギルドを出る。
木製の小さな札。
だが、
それは確かに——
社会に戻った証だった。
「……これで、
旅ができるね」
「ああ」
王都までは、
まだ遠い。
だが。
一歩ずつ、
進めばいい。
仮面の下で、
俺は静かに誓う。
——この世界で、
生き残る。
そして、
必ず辿り着く。
初めての討伐依頼。
依頼板の前で、
ミアはじっと紙を見ていた。
「……どれが、いいの?」
「最初は、
弱いのだ」
俺は、
端の方に貼られた依頼を指差す。
内容は小型魔物の駆除。
《街外れ・草原地帯
スライム及び小型魔獣の討伐
危険度:低
報酬:銀貨5枚》
簡単な仕事だが、ミアにとってはすべてが初めてだ。
戦い方、間合い、恐怖との向き合い方。
「……スライム?」
「動きが遅い。
判断の練習に向いてる」
ミアは、
少しだけ緊張した顔で頷いた。
「……頑張る」
街を出て、
草原へ。
空は広く、
断魂の森とはまるで違う。
瘴気も、
死の気配もない。
——それでも。
「気を抜くな」
「……うん」
ミアの耳が、
ぴくりと動く。
獣人の感覚。
「……来る」
次の瞬間、
草むらが揺れた。
青緑色のスライム。
一体。
小さい。
「行け」
「……!」
ミアは、
短剣を握りしめ、踏み込んだ。
だが。
「待て」
俺が、
低く声をかける。
「ただ突っ込むな。
観ろ」
「……観る?」
「相手の、
動き」
怜は前に出すぎず、しかし決して放置もしない。
スライムは、
ゆっくりと体を揺らしている。
攻撃前の兆候。
「……今!」
ミアが、
横に跳ぶ。
スライムの体当たりが、
空を切った。
「……当たらなかった!」
「いい。
次は、斬れ」
ミアは、
少し震えながらも、
剣を振る。
ミアは何度も失敗した。
足が止まり、攻撃が浅く、魔物に弾かれる。
だが、
確かに効いた。
スライムが、
縮む。
「もう一度!」
今度は、
落ち着いて。
二太刀目で、
核を断つ。
スライムは、
霧散した。
「……倒せた」
「初めてにしては、
上出来だ」
ミアの尻尾が、
小さく揺れた。
だが、
それで終わりじゃない。
「……複数来る」
俺が、
前に出かけるミアを制止する。
「一体ずつだ」
「で、でも……!」
「囲まれたら、
逃げろ」
二体、
三体。
スライムに混じって、
小型の牙獣。
「……怖い」
ミアの声が、
震える。
「怖いままでいい」
俺は、
後ろから言う。
「それは、
生きてる証だ」
「……!」
「逃げる判断が、
できるようになれ」
ミアは、
一瞬だけ目を閉じ——
走った。
距離を取り、
地形を使い、
一体ずつ引き離す。
「……今!」
戻ってきた一体を、
確実に仕留める。
牙獣が倒れる。
残りは、
逃げた。
「……勝った?」
「勝った」
俺は、
一切手を出していない。
万糸も、
剣も。
使う必要がなかった。
依頼完了。
帰り道、
ミアは少し疲れた顔で、
それでも笑っていた。
「……私、
役に立った?」
「ああ」
即答した。
「十分すぎる」
ミアは、
嬉しそうに耳を伏せる。
「……また、
やっていい?」
「当然だ」
育てる。
守るために。
生き残らせるために。
——そして。
「次は、
少し難しくする」
「……うん!」
その目は、
もう逃げていなかった。
いかがだったでしょうか。面白いと思った方はこれからも応援をよろしくお願いします。




