第30話 いざドワーフ国へ
第30話です。今回はドワーフ国です。
今月はとりあえずこれで終わりです。
龍の国の朝は、空がとても高かった。
雲はゆっくり流れ、遠くには龍が旋回している。
宴の翌日。
怜たちは龍の都市の門に立っていた。
ミアはまだ少し眠そうだった。
「……うぅ」
「昨日のお酒強すぎ」
莉奈が苦笑する。
「龍族のお酒は人間用じゃないらしいよ」
ミアが頬を膨らませる。
「先に言ってほしかった!」
その横でリュゼリアは平然としていた。
「普通の酒でしたが」
ミアが振り向く。
「龍族基準やめて!」
怜は肩を回しながら言った。
「準備はいいか」
レグルスが腕を組んで立っている。
龍王の姿ではなく、いつもの人化の姿だ。
「本当に行くのか」
怜が頷く。
「次はドワーフ王国だ」
レグルスは少し笑う。
「鍛冶の国か」
「確かに、お前の剣もそろそろ限界だな」
怜は剣を見た。
刃の表面には細かい傷が走っている。
神の使徒との戦い。
龍王との試し合い。
無理をさせすぎていた。
「……そうだな」
莉奈も剣を抜いた。
刃に小さな欠けがある。
「私のもだ」
リュゼリアが興味深そうに言う。
「人間の剣は脆いですね」
ミアがツッコむ。
「いや相手が強すぎるの!」
レグルスが豪快に笑った。
「まあいい」
「ドワーフなら何とかするだろう」
そして怜を見る。
「俺はここまでだ」
ミアが驚く。
「え!?」
レグルスは肩をすくめる。
「龍王が長く国を離れるわけにはいかん」
リュゼリアが言う。
「父上...」
すかさず怜はレグルスに問いかける。
「娘が心配か?」
レグルスは少し笑う。
「多少はな」
そして怜を見る。
黄金の瞳が真剣になる。
「だが、お前なら大丈夫だ」
「娘を頼む」
怜は短く答えた。
「任せろ」
リュゼリアは静かに頷いた。
ドワーフ王国へ向かう道は険しかった。
巨大な山脈。
岩と雪の世界。
道は細く、谷は深い。
ミアが息を吐く。
「はぁ……」
「なんでこんな高い所に住んでるの」
リュゼリアが答える。
「鉱石です」
「山ほど良い鉄が採れる」
莉奈が周囲を見る。
岩肌には無数の坑道の跡があった。
「なるほど」
怜が前を指す。
「見えてきた」
山の側面。
巨大な門。
岩を削って作られた都市の入口だった。
だが――
龍の国ほど厳重ではない。
門の前には数人のドワーフ兵が立っているだけだった。
ミアが小声で言う。
「普通だ」
莉奈が笑う。
「龍族が異常だっただけ」
ドワーフ兵がこちらに気づいた。
ひげの長い男だ。
「おう」
「旅人か?」
怜が答える。
「そうだ」
兵は怜をじっと見た。
そして言った。
「……お前」
「ただの旅人じゃないな」
ミアがドキッとする。
しかしドワーフは笑った。
「まあいい」
「王に会いに来たんだろ?」
怜が少し驚く。
「わかるのか」
兵は肩をすくめた。
そして、怜の背中、正確には樹王の剣を指さして言った。
「その剣見りゃわかる」
「普通の旅人が持つもんじゃねえ」
それから門を指した。
「入れ」
「鍛冶の国へようこそだ」
ドワーフ王国の内部は――
とにかく熱かった。
巨大な炉。
溶けた鉄。
ハンマーの音。
カン!
カン!
カン!
都市全体が鍛冶場のようだった。
ミアが目を輝かせる。
「すごい!」
リュゼリアも少し驚いている。
「龍の国とは全然違いますね」
莉奈は剣を見ながら言う。
「ここなら直せそう」
怜が頷いた。
「王に会おう」
案内されたのは、都市の最奥。
巨大な鍛冶場だった。
玉座ではない。
炉の前。
そこにいたのが――
ドワーフ王だった。
背は低い。
だが体は岩のように太い。
長い白髭。
巨大なハンマーを持っている。
王は振り向いた。
鋭い目。
そして一言。
「人間か」
怜が頷く。
「会いに来た」
王は少し笑った。
「珍しい客だ」
そして怜の腰を見る。
「剣を見せろ」
怜は黙って差し出した。
王は受け取る。
刃をじっと見る。
そして――
鼻で笑った。
「ボロボロじゃねえか」
ミアが慌てる。
「そ、そんな言い方!」
王は莉奈の剣も取る。
こちらも見る。
そして言った。
「こっちもだ」
莉奈が苦笑する。
「やっぱり?」
王は剣を炉の光にかざす。
刃の欠け。
歪み。
すべて見抜いていた。
そして言った。
「強い敵と戦ったな」
怜は短く答える。
「ああ」
王は剣を返した。
「その剣」
「いい素材だ」
ミアが聞く。
「じゃあ直せます?」
王は笑った。
「直す?」
巨大なハンマーを肩に乗せる。
「違うな」
そして言った。
「俺が打ち直してやる」
怜が少し驚く。
「王が?」
王は豪快に笑った。
「ドワーフ王は鍛冶師だ」
「それに」
剣を見る。
「こんな戦い方してる奴の武器が折れたら」
「もったいねえ」
炉の炎が燃え上がる。
王は言った。
「三日だ」
「三日で新しい剣にしてやる」
ミアが目を輝かせる。
「おお!」
莉奈も笑った。
「楽しみ」
怜は少しだけ笑った。
「頼む」
ドワーフ王は頷いた。
「任せろ」
炎が轟く。
ドワーフ王の工房。
炉の火が赤々と揺れ、壁には無数の槌と刃物、そして幾世代にも渡って受け継がれてきた名剣が並んでいた。
鍛冶場特有の、鉄と炭の匂いが濃く漂っている。
ドワーフ王がふと、怜の背中を指さして言った。
「その剣、ちと見せてくれんか?」
怜は腰の鞘からゆっくりと剣を抜き、ドワーフ王に手渡した。
――樹王の剣。
刃は淡い緑の光を帯び、まるで生きているかのように微かに脈打っている。
その瞬間。
ドワーフ王の目が見開かれた。
「……ほう」
低く、しかし確かな驚きを含んだ声が漏れる。
王はゆっくりと近づき、剣をまじまじと見つめた。
「この剣……ただの魔剣ではないな」
怜
「わかるのか?」
ドワーフ王
「ワシを誰だと思っとる。
鉄を打って三百年じゃ。
伝説の匂いくらい嗅ぎ分けられる」
王は手袋をはめ、慎重に剣を受け取った。
刃を光にかざす。
緑の光が工房に広がる。
ドワーフ王
「これは……“樹霊系統”の剣だな。
しかもただの樹霊ではない」
怜が腕を組みながら言う。
「樹王だ」
その言葉に。
工房の空気が一瞬で静まり返った。
ドワーフ達の視線が一斉に集まる。
「樹王……だと?」
ドワーフ王はゆっくり息を吐いた。
「なるほどな……
伝説の神器がまだ現存していたとは」
王は刃の縁を指でなぞる。
すると微かに眉をひそめた。
「だが」
主人公
「?」
ドワーフ王
「お前さん、この剣を使いこなせとらん」
莉奈
「え?」
ミア
「どういうこと?」
王は剣を台の上に置いた。
「この剣は生きている。
だが“半分眠っている”」
怜
「半分……?」
「そうだ」
王は炉の火を見つめながら言った。
「樹王の剣は本来、もっと強い。
だが今は“器”が足りん」
怜
「器?」
王は振り返る。
その目は職人の目だった。
「つまりだ」
「剣の力を受け止める“もう一つの刃”が必要だ」
全員が首を傾げる。
「……?」
王はニヤリと笑った。
「そこで提案だ」
工房の奥へ歩き、一本の剣を持ってくる。
その剣は――
重厚な黒鉄。
だがただの鉄ではない。
刃には複雑な紋様が刻まれていた。
「これって……」
リュゼリアが少し目を細める。
「伝説級の剣じゃ」
莉奈
「伝説級!?」
ミア
「そんなの簡単に出していいの!?」
ドワーフ王は鼻を鳴らす。
「簡単ではない」
「ワシが百年前に打った剣だ」
怜
「……」
王は剣を台に置いた。
「名を――」
「《黒星剣グランディア》」
工房の空気が重くなる。
王は怜をまっすぐ見た。
「この剣と」
王は樹王の剣を指差す。
「樹王の剣」
そして静かに言う。
「融合させたい」
一同
「!?」
ミア
「そんなこと出来るの!?」
王は腕を組む。
「普通は無理だ」
「……」
王が少し間を開けて言った。
「だが」
炉の炎が大きく燃え上がる。
「ワシなら出来る」
リュゼリア
「でも……失敗したら?」
王はきっぱり言う。
「剣は砕ける」
その言葉に、ミアと莉奈は驚く。
「!?」
工房が静まり返る。
王は続けた。
「だが成功すれば」
「神話級の剣になる」
莉奈とミアは絶句した。
「神話級……」
「そんな……」
怜は剣を見る。
樹王の剣。
そして黒星剣グランディア。
王がゆっくり言う。
「どうする?」
「賭けるか?」
炉の炎が揺れる。
怜は剣を握った。
そして――
静かに言った。
「やってくれ」
そう言った瞬間、莉奈とミアが驚く。
「ちょ、ちょっと!?」
「決断早すぎ!」
王が言う。
「いい目だ」
そして、ニヤリと笑った。
「よし」
「ならば――」
巨大な炉の前に立つ。
ドワーフ達が集まり始める。
王が槌を手に取る。
「ドワーフ王の名にかけて」
「最高の剣を打ってやる」
怜がドワーフ王に聞く。
「これは出来上がるのにどれくらいかかる?」
ドワーフ王は顎に手を当て少し考える。
「そうじゃな...融合だけじゃから、そこまで時間はかからんはずじゃ。ざっと2時間程くらいかの」
「分かった。よろしく頼む」
炉の炎が爆発するように燃え上がった。
そして。
伝説の鍛造が――
始まろうとしていた。
いかがだったでしょうか。面白いと思った方は応援をよろしくお願いします。
次回の第31話は4月1日になると思います。
それまで今暫くお待ちください。
お楽しみに。




