第28話 龍王の娘
第28話です。戦いが終わった後の話です。新しい人も出てきますよ。
戦場だった訓練場には、まだ熱が残っていた。
砕けた岩。
焦げた地面。
空には戦いの余波のように雲が渦巻いている。
怜は剣を下ろし、大きく息を吐いた。
「……逃げたか」
レグルスは腕を組んで空を見上げていた。
黄金の瞳が、裂けた雲の向こうを睨む。
「退いた、というべきだな」
「奴はまだ余裕があった」
怜もそれは理解していた。
「だろうな」
「だが、あいつも俺たちを甘く見ていた」
レグルスが小さく笑う。
「確かにな」
その時――
「レイ!」
ミアの声が響いた。
振り向くと、ミアと莉奈がこちらへ走ってくる。
二人とも傷はあるが、無事だった。
怜は少し安心したように息を吐く。
「大丈夫か」
莉奈が剣を鞘に収める。
「なんとかね」
ミアは手を振った。
「こっちは全部片付いた!」
その言葉の通り、訓練場の端には光の兵の残骸が散らばっている。
だが怜の視線は、すぐに別の場所へ向いた。
ミアの左手。
そこに――
光る紋章が残っていた。
「……ミア」
ミアが首をかしげる。
「なに?」
怜はその手を指差した。
「それ」
ミアは自分の手を見る。
そこには、淡く光る痣のような紋章が浮かんでいた。
先ほどの戦いほど強くはないが、確かに光っている。
「……あ」
ミアは苦笑する。
「これね」
「実は私もよくわかってないんだけど」
莉奈が心配そうに言う。
「戦ってる途中で急に光って……」
「その後、ミアの魔法がすごいことになった」
ミアは頭を掻く。
「なんか急に力の使い方がわかった感じ?」
その会話を聞きながら、レグルスが静かに近づいてきた。
彼の視線はミアの手に向けられている。
そして、ぽつりと呟いた。
「……なるほど」
怜が聞く。
「何かわかったのか」
レグルスは少し考えた後、答えた。
「それは“守護紋”だ」
ミアが瞬きをする。
「守護……なに?」
レグルスはゆっくり説明する。
「遥か昔」
「神がこの世界を管理するよりも前」
「世界には“守護者”と呼ばれる存在がいた」
怜が腕を組む。
「守護者?」
レグルスは頷く。
「世界の均衡を保つ者」
「神とは違う」
「この世界そのものから生まれた力だ」
ミアが驚く。
「え」
「じゃあこれって……」
レグルスは言った。
「その守護者の系譜」
「おそらく、お前の血の中に眠っていた」
ミアはしばらく黙った。
それから、ぽつりと言う。
「……おばあちゃん」
怜が聞く。
「何か思い出したのか」
ミアは小さく頷く。
「昔、言い伝えを聞いたことがある」
そしてゆっくり語り始めた。
「私の村には“守り手”の話があった」
「神でも魔族でもない」
「人を守る存在」
莉奈が目を丸くする。
「それって……」
レグルスが言う。
「間違いない」
「その紋章は守護者の証だ」
ミアは自分の手を見つめた。
「……そんな大層なものなの?」
レグルスは少し笑った。
「大層どころではない」
「神に対抗できる数少ない力だ」
空気が少し静まる。
怜がゆっくり口を開く。
「……つまり」
「ミアは神と戦える存在ってことか」
レグルスは頷いた。
「そうなる」
ミアが苦笑する。
「急に責任重いんだけど」
莉奈が笑う。
「でもミアなら大丈夫」
ミアが頬を膨らませる。
「適当だなぁ」
そのやり取りを見ながら、レグルスは怜の方を向いた。
黄金の瞳が真剣になる。
「次はお前だ」
怜が眉を上げる。
「俺?」
レグルスはゆっくり言った。
「お前の力」
「さっき少し見えた」
怜は黙って聞いている。
レグルスは続けた。
「神の力ではない」
「魔族の力でもない」
「龍の力でもない」
「だが――」
そこで少し笑う。
「一番厄介な力だ」
怜が聞く。
「どういう意味だ」
レグルスは空を見上げた。
「お前の力は」
「世界そのものだ」
ミアが目を丸くする。
「世界?」
レグルスは説明する。
「空気」
「大地」
「魔力」
「重力」
「存在そのもの」
「それらを繋ぎ、操る力」
怜は思い返していた。
戦いの瞬間。
世界が応えた感覚。
「……なるほど」
レグルスが言う。
「その力はかつて存在した」
「だが神は恐れた」
「だから消した」
怜が聞く。
「消した?」
レグルスは頷く。
「世界を直接扱う者がいれば」
「神の支配は意味を失う」
静かな沈黙。
ミアがぽつりと言う。
「つまり」
「王様、神にめちゃくちゃ嫌われるってこと?」
怜は苦笑する。
「もう嫌われてるだろ」
レグルスが笑う。
「違いない」
そして、少し真剣な顔になった。
「だが」
「今の戦いで確信した」
レグルスが怜を見る。
「お前は面白い」
怜は呆れた口調で言う。
「それで済むのか」
レグルスは肩をすくめる。
「龍は単純だ」
「強い奴と面白い奴は好きだ」
それから少し考えて言った。
「だから提案がある」
怜が聞く。
「何だ」
レグルスは言った。
「俺の娘を連れて行け」
ミアが目を丸くする。
「娘!?」
莉奈も驚く。
「龍王の?」
怜も少し驚いた。
「いいのか」
レグルスは笑う。
「むしろ望む」
「お前の旅は面白い」
「それに――」
黄金の瞳が細くなる。
「この先は確実に戦争になる」
静かな声。
「神との戦いだ」
そして言った。
「だから娘を鍛えてやれ」
ミアが聞く。
「その娘って強いの?」
レグルスは少し考えた。
それから、にやっと笑う。
「龍族でもトップクラスだ」
その瞬間――
背後から声がした。
「父上」
全員が振り向く。
そこには、一人の少女が立っていた。
銀色の髪。
金の瞳。
頭には小さな角。
そして、長い龍の尾。
少女は静かに言った。
「その話」
「私も聞かせてもらっていいですか?」
レグルスは笑った。
「ちょうどいい」
「紹介しよう」
「俺の娘だ」
少女が一歩前に出る。
「龍王の娘」
「リュゼリアです」
黄金の瞳が怜をまっすぐ見つめた。
「あなたが」
「父が認めた人間ですか」
その視線は鋭い。
だが同時に――
どこか楽しそうでもあった。
いかがだったでしょうか。面白いと思った方は応援をよろしくお願いします。
新しいキャラ、リュゼリアが出てきましたね。
ミア、莉奈、エルナ、リーナのライバルになりそうかも?




