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第21話 守るために

こんにちは雨時雨です。

第21話です。かな〜り長く書きましたので、どうぞお楽しみください。

重厚な扉が完全に開かれた瞬間、

玉座の間に張り詰めていた空気が、目に見えるほど歪んだ。

赤い絨毯の先、黄金の玉座。

そこに座る王は、最初こそ余裕を装っていたが、怜の姿を正面から捉えた途端、その表情が引き攣る。

「……な、何者だ」

声が震えている。

王自身が、それに気づいていないのが、なおさら滑稽だった。

LI怜は答えない。

代わりに一歩、絨毯の上へ踏み出す。

その瞬間――

「侵入者だ!!」 「王を守れ!!」

叫び声と共に、左右の扉が一斉に開いた。

駆け込んでくるのは、重装の衛兵たち。

そして、その中に――見覚えのある顔が混じっていた。

かつて同じ教室で笑っていたクラスメイトたち。

王国に仕えるため、あるいは生きるために、剣を取った者たち。

「……まさか、お前……?」

誰かが、怜を見て声を漏らす。

気づいた者も、気づかないふりをする者もいた。

怜は、ゆっくりと周囲を見渡す。

(……違う)

憎しみは、ここには向いていない。

斬りたいのは、踏みにじった“元凶”だけ。

「下がれ」

低く、しかし不思議と通る声。

「俺は、王に用がある。それ以外はいらない」

当然、聞き入れられるはずもない。

衛兵たちは一斉に距離を詰め、魔法の詠唱が始まる。

――次の瞬間。

怜の背後で、空気が震えた。

万糸が解放される。

血糸と黒糸が、羽毛のように、しかし意思を持った蛇のように広がった。

斬らない。

殺さない。

血糸は、武器だけを正確に断ち切る。

剣は柄から落ち、槍は穂先だけが床に突き刺さる。

黒糸は、衛兵の足元を絡め取り、神経を鈍らせる。

倒れるが、命に別状はない。ただ動けない。

魔法を放とうとした者には、糸が触れた瞬間、意識が霧散する。

「な……何が……」 「体が……動かない……!」

混乱と恐怖が広がる中、

怜はただ、王だけを見ていた。

クラスメイトの一人が、震える声で叫ぶ。

「お前……こんな力を……」 「それでも……人を殺すつもりなのか!?」

怜は、ほんの一瞬だけ視線を向ける。

「――違う」

静かに、しかしはっきりと。

「殺すのは、一人だ」

その言葉に、誰も反論できなかった。

床に伏した者たちは理解してしまったのだ。

この場に立つ存在は、もはや“兵”でも“冒険者”でもない。

裁く側なのだと。

怜は、再び玉座へ向き直る。

王は、椅子から立ち上がろうとして――足が動かず、崩れ落ちた。

「ま、待て……!」 「話し合いで……」

その声には、王の威厳など欠片も残っていない。

怜は、絨毯の終点に立ち、

静かに告げる。

「安心しろ」

そして――

「お前以外は、何も失わない」

玉座の間に、完全な沈黙が落ちた。

残るのは、王と怜、ただ二人。

玉座の間に満ちる沈黙は、王の荒い呼吸音によって破られた。

「……安心しろ、だと?」

王は、床に膝をついたまま、歪んだ笑みを浮かべる。

恐怖の奥で、何かが“切り替わった”顔だった。

「貴様は……何も分かっていない」

その瞬間、王は胸元に下げていた首飾りを強く握りしめた。

黒ずんだ宝石が、嫌な音を立てて脈打つ。

(……瘴気?)

怜の左目――赤黒く歪んだサイコロの瞳が、警告するように疼いた。

「神よ……我に力を……」

王の声が、途中から二重に響き始める。

人の声と、何か別の存在の声が、重なっていた。

床に刻まれた魔法陣が、玉座を中心に広がる。

それは、召喚でも付与でもない。

――契約。

「王権とはな、守られるためだけにあるのではない……!」

叫びと共に、魔法陣が弾けた。

次の瞬間、王の身体が異様に膨張する。

骨が軋み、皮膚が裂け、そこから黒い紋様が浮かび上がる。

「……化け物に、なったか」

怜は静かに万糸を構える。

だが――

「来い」

王が、一歩踏み出しただけで、空気が爆ぜた。

衝撃波。

怜は反射的に血糸を張るが、それでも吹き飛ばされ、柱に叩きつけられる。

「……っ!」

内臓が揺れる。

今までの魔物とは、明らかに“質”が違う。

王は、いや――王だったものは、片腕を振るう。

黒い魔力の塊が槍のように飛来する。

万糸で受ける。

だが、糸が――削られる。

「……っ、削れるだと……?」

樹王の剣を抜く。

一閃。魔力の槍を断ち切るが、その衝撃で足が一歩下がった。

(重い……)

力そのものは、こちらが上。

だが、回復速度と魔力量が異常だ。

王は嗤う。

「この契約がある限り、我は倒れぬ……!」 「民も、兵も、すべて我が糧だ!」

怜の背後で、床に伏していた衛兵たちが苦しみ始める。

魔力が、強制的に吸い上げられている。

「……他人を盾にするか」

怒りが、静かに燃え上がる。

だが、突っ込めない。

下手に全力を出せば、周囲が巻き込まれる。

黒糸を広げ、王の動きを封じにかかる。

しかし――

「無駄だ」

王の身体から瘴気が噴き出し、黒糸が弾かれる。

状態異常が、効かない。

怜は、歯を食いしばる。

(……神か)

夢の中で会った“連中”の顔が、一瞬よぎる。

(利用する気か……なら――)

再び、血糸を束ね、正面からぶつかる。

剣と瘴気がぶつかり、火花が散る。

互いに、決定打は出ない。

玉座の間は、半壊。

壁は崩れ、天井に亀裂が走る。

王は、荒く息を吐きながらも、まだ立っている。

怜も、息が乱れ始めていた。

「……まだ、終わらせない」

それは、王に向けた言葉でもあり、

自分自身への言葉でもあった。

この戦いは、

ただの処刑ではない。

神を引きずり出すための――前哨戦。

玉座の間に、再び緊張が走る。

瘴気と魔力が激しくぶつかり合い、玉座の間はもはや原型を留めていなかった。

崩れた柱、砕けた床、宙を舞う瓦礫。

怜は血糸を束ね、王の一撃を受け止めながら後退する。

(……長引く)

削られているのは体力ではない。

判断の余裕だった。

その時――

「――王宮内に異常発生! 全員、玉座の間へ!」

廊下の奥から、慌ただしい足音と声が響いた。

怜の左目が、即座に“それ”を捉える。

(来るな……!)

だが、もう遅い。

砕けた扉を越えて、数人の兵と共に一人の少女が駆け込んできた。

戦闘要員ではない。伝令か、補助役――そういう立場の人間。

そして、その顔を見た瞬間、

主人公の思考が、一瞬だけ止まった。

見間違うはずがない。幼い頃からずっと一緒だったのだから。

そこに現れたのは...

――莉奈だった。

記憶の中と、ほとんど変わっていない。

少し大人びた表情。けれど、目の奥の色は同じだった。

「……っ!?」

莉奈もまた、この場の異常さに息を呑む。

玉座の間の惨状。

異形と化した王。

そして――仮面と眼帯をつけた、異様な雰囲気の男。

その視線が、怜に向いた、その瞬間。

王が嗤った。

「いいところに来た……!」

瘴気が爆発する。

狙いは怜――ではない。

莉奈の足元。

「危な――!」

誰かが叫ぶが、間に合わない。

瘴気の奔流が、莉奈を飲み込もうとする。

――考えるより早く、身体が動いた。

主人公は万糸を解除し、全力で踏み込む。

樹王の剣すら使わない。

ただ、盾になるためだけに。

瘴気が直撃する。

本来なら、致死量。

だが、主人公は倒れない。

それでも――

「……っ、ぐ……!」

左目が焼けるように痛む。

代償が、再び軋む。

莉奈は、目の前の光景を、ただ呆然と見つめていた。

自分を庇った背中。

その身のこなし。

聞き覚えのある――声にならない声。

そして、振り返った瞬間に見えた、赤黒い左目。

サイコロのような、歪な瞳。

(……うそ……)

喉が、動かない。

声が、出ない。

(そんな……だって……)

仮面の奥。

その眼差しだけで、分かってしまった。

――間違えようがない。

彼女の知っている、

かつての高校生の主人公だった。

怜は、莉奈を一瞥すると、低く言う。

「……下がれ」

それは命令ではない。

懇願に近い声だった。

その瞬間、怜の中で、何かが崩れた。

憎悪。

復讐。

神への怒り。

それらが消えたわけではない。

だが、その奥底で、ずっと凍りついていた感情が、息を吹き返す。

(……守りたい)

かつて、何もできなかった自分。

置いていかれ、捨てられ、怒りに縋るしかなかった自分。

――違う。

今は、力がある。

選ぶことができる。

「……俺は」

怜は、小さく息を吐く。

「もう、あの時の俺じゃない」

血糸と黒糸が、今までとは違う動きを見せる。

荒々しさが消え、意志を帯びた制御へと変わっていく。

王が、苛立ったように吠える。

「感傷に浸るなァ!!」

怜は、剣を構え直す。

その背中は、莉奈を完全に庇う位置だった。

守るための戦い。

裁くための力。

二つが、ようやく同じ方向を向いた瞬間。

莉奈は、まだ声を出せないまま、

ただ、その背中を見つめていた。

――この戦いが、

復讐だけの物語ではなくなったことを、誰よりも早く理解しながら。

崩れ落ちる天井の破片が、床に激しく叩きつけられる。

瘴気と魔力が渦を巻き、玉座の間はもはや“戦場”という言葉ですら足りなかった。

怜は、莉奈を背後に庇ったまま、王と向き合っていた。

息が荒い。

肩で呼吸をしているのは、王だけではない。

(……守るだけじゃ、足りない)

この場を生き延びさせるだけなら、方法はある。

全力を出し、周囲ごと押し潰せばいい。

だが、それは――

かつての自分と同じ選択だった。

「どうしたァ!!」

王が咆哮する。

神の力を宿した腕が振り下ろされ、空間そのものが歪む。

怜は避けない。

避ける代わりに、一歩前へ出た。

「……俺は」

剣を握る手に、力がこもる。

「復讐のためにここまで来た」

それは否定しない。

否定できない。

「でも――」

背後にいる存在を、意識する。

声も出せず、ただ立ち尽くしている彼女に向けて。

「誰かを守るために力を使うってことを、今……思い出した」

その瞬間。

左目の奥で、サイコロの出目がすべて止まった。

《――条件確認》

冷たいアナウンスが、脳内に響く。

《所有スキル「万糸」》 《覚醒条件達成を確認》

王の一撃が、目前まで迫る。

《覚醒条件》 《――真の正しさを見つけること》

時間が、わずかに引き延ばされる。

怜は理解した。

正しさとは、

誰かに与えられる答えではない。

神でも、王でも、民でもない。

――自分で選び続ける覚悟だ。

「俺は……」

怜の声は、静かだった。

「奪われたから奪うんじゃない」 「憎いから壊すんじゃない」

王の攻撃が、完全に停止する。

《「万糸」第2覚醒――承認》

世界が、音を失った。

覚醒 ――万糸・第二段階

主人公の背中から、糸が広がる。

だがそれは、今までのような“数”ではない。

空間そのものに張り巡らされる感覚。

《新能力解放》

《――空糸》

糸は、距離という概念を失う。

玉座の間、王宮、王都、その外側へ――

意識した範囲すべてが、効果範囲となる。

同時に、もう一つの声。

《スキル統合確認》 《「DICEROLL:治癒」+「空糸」》

《――完全治癒、使用可能》

主人公の身体から、痛みが消える。

代償で歪んだ左目すら、機能としては完全に回復する。

幼馴染の震えが止まる。

呼吸が、正常に戻る。

《指定対象へのステータス補正――付与》 《パッシブ効果、常時発動》

主人公は、ゆっくりと手を下ろす。

「……もう、誰も壊させない」

王が、初めて恐怖を露わにした。

「な、何を……した……?」

だが、覚醒は終わらない。

《――極糸、解放》

次の瞬間、王の身体を覆っていた瘴気が、音もなく消失した。

「……?」

王は、何が起きたか理解できていない。

《対象選択:瘴気》 《吸収・無効化》

瘴気が、完全に消失する。

王は、自分の手を見つめ、愕然とする。

「……瘴気が……消えた……?」

極糸の能力は対象を吸収、無効化する。

そして、極糸は不可視ではないものの、細すぎるがために不可視に近い状態になっている。

血糸の能力はこれに統合・強化されており、触れたものは切り裂かれる。

鎧も、加護も、概念的な防御すら。

怜は、剣を振るわない。

ただ、一歩踏み出す。

床が、音もなく分断された。

空気すら、裂ける。

「安心しろ」

怜は、かつて王に向けた言葉を、もう一度告げる。

「お前は、まだ死なない」

それは慈悲ではない。

裁きの準備だ。

王は、後ずさる。

神の声が、もう聞こえない。

背後で、莉奈が――

ようやく、震える息を吐いた。

(……戻ってきた)

仮面の男ではない。

復讐に縛られた怪物でもない。

かつて、自分が知っていた――

人としての彼が、そこに立っていた。

これは、力の物語ではない。

選び直した人間の物語だ。

「今、この一撃で終わらせる......」

万糸の権能は第2段階に移ったが、それでも王を倒すには足りない。決定的な一撃がない。

なら......

「能力を統合する」

空糸は自分が持っているスキルや魔法を統合し、強化することができる。

だから、空糸で空糸と極糸を統合する。

これを行えば王を倒すことは用意になるが、万糸が二度と発動できなくなる可能性が高い。

「それでも俺は、大切なものを守るために...」

統合する。

《空糸の能力を発動。空糸と極糸を統合。万糸が変質します。......変質完了。極糸、及び空糸を統合した結果、万糸は空覇に変質しました。》

体の奥底から力が湧き出てくる。

今までのような憎悪に染まった力じゃない。

大切なものを守るための力。

それを理解し、怜は足に力を込め飛び上がる。

「これで全て終わりだ...!」

「く、来るなァァァァ」

空高く飛び上がり、逆さになった状態で''空''を蹴る。

一気に王との距離を縮め、垂直に落下する。

「喰らえ!!」

王にこれまでにないほど強く拳を打ち付ける。

その瞬間轟音が鳴り響き、砂埃が舞う。

莉奈は咄嗟に目を隠し、再び目を開けるとそこには...

「怜...勝ったんだね。」

「ああ...気づいてたのか...」

莉奈が後ろに手を回して近寄る。

「気づかないわけないでしょ?」

その声には恐怖はなく、ただ嬉しいという感情だけが残っていた。

いかがだったでしょうか?大きな戦闘が終わりましたが、なにか忘れていませんか?このタイトルは「国に捨てられた俺は復讐した後に国を作る」です。そうです。まだまだ物語は続きます。なので、これからもよろしくお願いします。

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