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第18話 異変

第18話です。今回はリーナの妹を取り返しに行きますよ〜。

夜明け前。

ラドリス子爵家の屋敷は、

静かすぎた。

私兵は倒れ、

地下は解放され、

逃げ惑う使用人の足音だけが遠ざかっていく。

——もう、誰も守る者はいない。

「……ここまで、

やる必要……あるよね」

ミアの声は確認だった。

「……ああ」

即答だった。

「……残せば、

また同じことが起きる」

貴族は個人じゃない。

名前が消えても、

屋敷が残れば——

“次”が生まれる。

だから。

「……終わらせる」

俺は背中の剣に手を伸ばした。

樹王の剣。

鞘から抜いた瞬間、

空気が歪む。

刃は木でも、鉄でも、石でもない。

——概念を切る剣。

「……これ……

本当に……剣……?」

ミアが息を呑む。

「……切れるかどうかじゃない」

剣を屋敷へ向ける。

「……“残すかどうか”だ」

一歩、踏み出す。

魔力が無制限に溢れ出す。

流しても流しても尽きない。

瘴気も、呪いも、結界も——

意味を失う。

「……行くぞ」

剣を横に薙いだ。

——世界が、裂けた。

音は遅れて来た。

轟音。

衝撃。

圧縮された空気が爆発する。

屋敷の外壁が内側から粉砕される。

石は砂に。

柱は塵に。

結界は存在しなかったかのように消し飛ぶ。

「……っ……!」

ミアが思わず目を覆う。

だが——

それで終わりじゃない。

「……まだだ」

剣を地面へ。

突き立てる。

根が、走る。

見えないはずの“樹”が地中を駆け巡る。

屋敷の基礎。

地下道。

隠し金庫。

逃走路。

全てを——

内側から破壊するために。

次の瞬間。

爆ぜた。

屋敷は、崩れるのではなく——

弾け飛んだ。

瓦礫は遠くまで吹き飛び、

跡地には何も残らない。

壁も。

床も。

地下も。

「……跡形も……」

ミアの声がかすれる。

「……ああ」

剣を下ろす。

その後は、静寂だけが流れた。

夜明けの光が瓦礫だった場所を照らす。

そこにあるのはただの更地。

「……これで……

終わり……?」

ミアが尋ねる。

「……いや」

首を横に振る。

「……始まりだ」

貴族を潰した。

だが——

貴族という“仕組み”は、まだ生きている。

「……でも」

ミアが小さく笑う。

「……少なくとも、

ここは……

救われたよ」

その言葉に、

一瞬だけ——

胸が温かくなった。

だが。

左目が、熱を帯びる。

——戻れない。

——もう、綺麗な道は選ばない。

それでも。

「……行こう」

剣を背に戻す。

「……妹を迎えに」

夜が完全に明けた。

この街の地図から、一つの貴族家が消えた。


地下室は静かだった。

檻は開き、鎖は断たれ、もう敵はいない。

それでも。

「……ここ……」

リーナの足が止まる。

一番奥。

小さな部屋。

そこに——

少女がいた。

「……エルナ……」

震える声。

檻の中で、少女は横たわっている。

痩せ細った体。

浅い呼吸。

生きてはいるが——

限界だった。

「……エルナ……

お姉ちゃんだよ……」

リーナが駆け寄り、手を取る。

「……ごめんね……

遅くなって……」

涙が止まらない。

ミアが唇を噛みしめて

視線を逸らす。

——時間がない。

「……レイ……」

ミアが小さく呼ぶ。

俺は一歩前に出た。

少女の状態を見る。

「……命は、

まだ繋がってる」

だが。

「……自然回復じゃ、

間に合わない」

リーナが、

顔を上げる。

「……お願い……

助けて……!」

その声に——

迷いは、もうなかった。

「……分かった」

右腕を前に出す。

まだ、完全じゃない。

だが——

使う。

「……《DIECEROLL》」

意識が内側へ沈む。

——回る。

——止まる。

出目:治癒

同時に、右腕に激痛が走る。

力が抜け、指が思うように動かない。

——代償。

だが。

「……っ……!」

淡い光がエルナを包む。

傷が塞がり、

呼吸が深くなる。

血色が戻る。

「……っ……

あ……」

エルナの瞼がゆっくりと開いた。

「……お……

ねえ……ちゃん……?」

「……っ……エルナ……!」

リーナが抱きしめる。

嗚咽。

声にならない、

感謝と後悔と安堵。

その光景を見て。

胸の奥で——

何かが、

静かに溶けた。

「……」

右腕が、

重い。

だが——

悪くない。

夜明け。

街は、まだ混乱の中にあった。

だが、ここには関係ない。

「……行く、

場所はあるの?」

焚き火の前で俺は尋ねた。

リーナは首を横に振る。

「……もう……

ここには……」

エルナが不安そうに姉の袖を掴む。

ミアが一歩前に出た。

「……なら」

少し照れたように。

「……一緒に、

旅しよ?」

リーナが驚いたように目を見開く。

「……え……?」

「……私たち、

王都に行くんだ」

俺を見る。

「……ね?」

「……ああ」

短く頷く。

「……守る力は、

ある」

リーナはしばらく黙り——

深く、頭を下げた。

「……お願いします」

「……この子と……

生きるために……」

エルナも小さく頭を下げる。

「……よろしく……」

「……ああ」

それで十分だった。

数日後。

街を離れる。

門をくぐり抜けたらもう振り返らない。

「……王都まで、

2週間くらい……?」

ミアが地図を見る。

「……ああ」

樹王の剣が、背で静かに眠っている。

無限の魔力。

白い髪。

もう隠さない。

「……王都には、

何があるの?」

エルナが尋ねる。

少しだけ考えて。

「……答えと、敵だ」

ミアが苦笑する。

リーナはエルナの手を握る。

空は高く、道は続く。


街道を外れ、少し森へ入った場所。

王都への最短路ではないが、

魔物が多く、経験値効率はいい。

「……この辺りなら、

危険すぎないね」

ミアが周囲を警戒しながら言う。

「……うん。

エルナも……ここなら……」

リーナはまだ戦闘に慣れていない。

エルナは後衛で魔法の練習中だ。

「……来る」

気配。

低い唸り声。

「……ゴブリン、三体……!」

ミアが、即座に判断する。

「……ミア、左」

「……うん!」

ミアが前へ。

エルナが緊張しながら詠唱する。

「……《小火球》……!」

火が飛び、小火球は見事に命中した。

だが、倒しきれない。

「……まだ……!」

「……大丈夫」

——ここで。

俺は一歩踏み出した。

そして、地面を蹴った瞬間、景色が流れる。

速い。

自分でも、驚くほど。

「……え?」

ミアの声が一瞬遅れる。

ゴブリンが反応する前に。

拳。

剣を抜かない。

ただ殴る。

——砕けた。

骨の感触すらほとんどない。

「……っ!?」

残り二体が、

慌てて距離を取る。

だが。

次の瞬間。

俺はもう背後にいた。

蹴り。

空気が爆ぜ、

一体が木に叩きつけられる。

——即死。

最後の一体が、

逃げようとする。

俺は軽く地面を踏んだ。

その瞬間俺は驚いた。

跳躍した。

そのことには驚いていない。

本当に驚いたのはそこではなく、

高すぎたということ。

自分でも分かる。

——跳びすぎだ。

そのまま落下し、

その勢いを使ってゴブリンの脳天に踵を落とす。

「……終わりだ」

地面ごと、叩き潰した。

ミアが、口を開けたまま固まっている。

「……レイ……

今の……」

エルナが恐る恐る言う。

「……すごい……

速かった……」

リーナも呆然としている。

俺は、自分の手を見る。

「……」

呼吸は乱れておらず、

筋肉痛もない。

——おかしい。

「……俺……

こんなに……」

以前なら。

万糸。

スキル。

策。

それが前提だった。

だが今は、

身体そのものが武器になっている。

「……魔力……?」

いや、今は流していない。

「……樹王の剣の……

影響……?」

無限魔力。

常時供給。

それらが、

身体を限界以上に押し上げているのだろうか...

「いや、違うな」

思い返せば、断魂樹王との戦闘の時には既にこれほどの力があったはずだった。

(あの時の俺は、戦闘に集中していたから気づかなかったのか?いや、そもそもこんなに動けるような広い空間じゃなかったな)

怜は自分の掌をじっと見つめたまま考えを巡らせていた。

「……レイ……」

ミアが少し心配そうに言う。

「……大丈夫……?」

「……ああ」

一度深呼吸をする。

「……制御できてる」

——今のところは。

だが。

「……気をつける」

自分に言い聞かせる。

力が強すぎる。

一歩間違えれば、

仲間すら——

「……でも」

ミアが少し笑う。

「……頼もしいね」

エルナも頷く。

「……お兄ちゃん、

すごい……」

その言葉に。

胸の奥が少しだけ温かくなる。

「……行こう」

剣を背に確かめる。

「……王都まで、

まだ遠い」

だが。

この力があれば——

もう誰も失わない。

少なくとも。

失わないために、戦える。

森の奥で、三人のレベルは確実に上がり。

同時に。

怜は、“自分がもう普通ではない”ことを、

はっきりと自覚し始める。

——王都は、もうすぐだ。


おまけ

街を出る前、とある宿屋に泊まっている。

俺とミアは同じ部屋で、

エルナとリーナは別の部屋だ。

怜がベッドの上で仰向けになっていると、

ミアが顔を覗き込んで言った。

「ねぇ、レイ……その剣なんて言うの?」

ふとした疑問に怜は少し戸惑った。

というのも、今まで決まった名前で呼んだことがなかったからだ。

「俺は、こいつのことを決まった名前で呼んだことはないな……」

ミアが耳をピクっと震わせ、

ズイっと近づいてきて言った。

「じゃあさ。私が名前付けていい?」

怜は少し悩んだ末に言った。

「……分かった。任せる。」

ミアは「やった」と言わんばかりに尻尾と耳を振って名前を考え始めた。

「う〜ん……あ!じゃあ『ゼラル』はどう?

私の故郷の言葉でね、『優しさ』って意味があるの。」

天井を見つめ、少し考えた。

「『優しさ』か……いいんじゃないか?」

ミアはまたもや尻尾を振りながら言った。

「えへへ……やった」

小声)「本当は違う意味だけどね……」

「ん?なんか言ったか?」

ミアは少し慌てたような声で言った。

「えっ?……あ、ううん。何も言ってないよ。」

「?そうか……」

怜はゼラルに込められた真の意味を、

全てが終わった後に知ることになる。

いかがだったでしょうか。面白いと思った方はこれからも応援をよろしくお願いします。


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