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極星から零れた少女  作者: 七沢またり


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第二十二話 計画

 ステラたちは、オーソン一家の遣いに東区へと案内された。無礼を働くなと言い聞かされているらしく、ガルドの如き乱暴な言葉遣いや行いはない。どことなく不服そうな表情ではあるが、態度に表すことはない。


「……なんだ?」

「別に。てっきり拉致されるのかと思っていたわ」

「大人しくついてこなけりゃそうしていたがな。若からきつく言い聞かされてるから、命は心配しなくていい」

「ありがたくて涙がでてしまいそうね」

「……その余裕。若が一目置くだけのことはあるか。お前ら、こいつの見かけに騙されるなよ。ストック商会の魔女って噂だからな」


 男が部下に告げると、大声で返事をする。実にうるさい。

 しかし、東区には初めて来たが、街の作りは西区とほぼ変わらない。だが、オーソン一家の支配が行き届いているらしく、店や住居には一家の縄張りの証である紋章が貼りつけられている。他所の人間がここに来た場合は、何があっても知ったことではないということだ。安全の代わりに、安くない金を搾取されているのだが。これがこの街で生きていくための手段なのだから仕方ない。


(安全を保証してやる代わりに金をむしりとる。従わない奴は見せしめとして潰す。本当にうまいやり方ねぇ)


 実に感心させられる。ステラもストック商会という傘を差して、面倒な火の粉を防いでいる。今の所金にも困ってないので、特に文句はない。ただ、気に食わないことがあるので、そのうち傘の柄を変えるつもりでいる。

 

「ここだ。今扉を開けさせる。中に入ったら、勝手な行動をするな。命は保証しない」

「一応分かったわ」

「……ふん」


 到着したのは、東区でも一番大きく、それでいて自己主張の激しい館だ。館だというのに、まるで要塞のように堅固に築かれている。周りは堀が作られ、外壁は高く侵入者を防ぐ。館の敷地には死角を埋めるように櫓が立てられ、警護が厳しく目を光らせている。


(なるほど、東区を一手でまとめているだけあって、かなりの力を持っているみたい。その割に後継者のアポールはアレだけど)


 現在の頭は中々のやり手なのだろうが、次代のアポールがあれではいただけない。どういう教育をしてきたのか聞いてみたいところだと思った。その反対をすれば、さぞかし立派な人間が出来上がることだろう。

 男は重厚な扉に近づき、ノックを二回行なう。門に作られた連絡用の小窓が開き、何か会話をしたかと思うと、入り口がゆっくりと開かれていく。男は顎でこいと合図すると、さっさと進んでいってしまった。


「あれじゃ、エスコート役は失格ねぇ。このまま帰っちゃおうかしら」


 ステラが呆れて手を上げると、ヴァレルが恭しく礼をしてくる。


「ならば、僭越ながら私がいたしましょうか?」

「それじゃあ、よろしくヴァレル。何もないとは思うけど、宜しく頼むわね」

「ああ、任せておけ。何も心配はいらん」

「ふふっ、どうせ演じるなら最後までやりなさい」


 ステラはおどけた後、男の後を追って館へと入っていった。肩にクレバーが着地する。一々説明するのが面倒なので、出るまでは黙っているように言い含めておく。戦闘になったなら遠慮はいらない。館ごと潰すつもりで暴れろと命令してある。

 


「中もこの有様とはね。この用心深さには感心させられるわ」

「オーソン一家は、バニアス・オーソンという男が一代で築いた組織だ。数多くの修羅場を乗り越えてきた男と評判だ。裏切りは決して許さないが、身内は決して見捨てない。その掟が鉄の結束につながっていると、闘技場で聞いたことがある」

「なるほど。色々と参考になったわ」


 外が要塞ならば、館の中は迷路であった。扉、部屋、防御柵がいくつも設置され、不意の侵入者を防ぐ造りとなっている。この執念にはステラも思わず感心させられた。正攻法できたら、さぞかし苦労することだろう。多数で攻めたとしても、手間取っている間に逃げられてしまう。この分ならば確実に裏道、抜け道が存在している。

 ステラがやるならば、面倒なので火で燃やし尽くすだろう。東区の住民に被害が及ぶだろうが。


「本当に素敵な家ねぇ。私の店も、いずれはこれくらい堅固にしたいわ。迷路にするのはどうかと思うけれど」


 敵の侵入を遅らせるのが目的だろうが、居住性が悪すぎる。だが外の堅固さには見習うべき点がある。これぐらいの造りならば、馬鹿が突撃してくることはないだろう。


「いくら金がかかるんだろうな。お前なら多分用意できるんだろうが。どうしたらそれほどの知識や度胸が身に付くのやら」

「あら、お褒めの言葉をありがとう。でも教えてあげないわ。女には秘密がたくさんあるのよ」

「まったく、これで十歳というのだから本当に恐れ入るぞ。お前が三十歳になる頃には、天下を取っているんじゃないか?」

「そうだと良いわねぇ。その時には、貴方を親衛隊に取り上げてあげるわ」

「嬉しくて泣ける話だ」

「ふふ、そうでしょう?」


 ヴァレルとくだらない話をしていると、男が咎める視線を送ってくる。静かにしろということだろう。仕方なく口を噤むと、行き止まりへと案内されてしまった。行き止まりには腕を後ろでに組んだ男が二人意味ありげに立ち尽くしている。最後は仕掛け扉だったらしく壁がぐるりと回転した。


「この先を行けば若の部屋だ」


 ステラは頷いたあと、顎に手を置いて扉を調べる。


「……興味深いけど、この仕掛けはいらないわね。無用の長物にしか思えない」

「それは何故だ?」

「大勢に攻められて、ここで隠れるなんてベック並みの知能の持ち主だけよ。とっとと逃げたほうがいいじゃない。こんな仕掛けに金を掛けるなんて馬鹿馬鹿しい」

「そりゃ、面子があるんじゃないか? 一家の後継者がそう簡単には逃げられないだろう」

「こそこそ隠れてる人間に面子なんてあるのかしら。だったら外で潔く応戦しなさい」

「しかし、アポールではな」

「そうね。いてもいなくても同じだったわ。むしろ邪魔かも」


 ステラが口元を歪めると、流石に男が咎めてくる。


「おい、失礼だろうが! さっきから黙ってれば、言いたい放題言いやがって。いくら若の客人とはいえ、限度があるぜ?」

「ごめんなさい。つい本当のことを言ってしまって。心の底からお詫びいたしますわ。どうか、この愚かなステラをお許し下さいませ」

「こ、この餓鬼、舐めやがって――」


 できるだけ丁寧に謝ったのだが、男は更に目を吊り上げる。だが、他の警備に強く制止されると、黙って奥へと歩き出した。ようやく目的地らしい。


 暗闇を抜けた先には大広間の如き部屋が広がっていた。金の彫像やら金の武器防具が自慢気に飾られている。貴族の館にありそうな高級テーブルの上には多種多様な酒、菓子、果実が並べられている。意味は分からないが金塊もこれでもかと積まれている。

 そして、ステラと向かいあう形でアポールがどうだと言わんばかりの顔で座っていた。この前とは違い礼装をしている。一応歓待してくれるつもりのようだが、顔がざんねんなことになっていた。目は腫れ上がり、痛々しい青痣つき。唇は切れ、鼻には白布があてがわれている。


「……若、つれてきました」

「ご苦労。もう下がっていいぜ。こいつとはサシで話がしたいんだ」

「しかし、こいつら若に失礼な真似を絶対にしますぜ。俺も思わず殴っちまいそうでした」

「だれがそんなことをしろと言ったんだ! いいから下がれ。命令だ」

「へい。ただ、何かあったら直ぐに呼んでくだせぇ。若に何かあったら、俺は生きていけませんぜ」


 頭を深々と下げると、案内した男が出て行く。

 アポールが話しかけてくるかと思ったので待っていたのだが、特に何もない。ステラは仕方なく挨拶をすることにした。


「この度はお招きいただきありがとうございます。アポール・オーソン様」

「わざとらしいお世辞はやめねぇか! この顔について何か聞きたい事があるんだろう? 無様だよなぁ。このアポールともあろう男が、この有様だ!」

「ふふっ、良くお似合いかと」

「てめぇ、ぶち殺すぞ!!」


 唾を飛ばして立ち上がるアポール。だが、顔を苦痛に歪めてすぐに椅子に座り込む。どうやら身体中を痛めているらしい。


「あの後のことだ。俺様の失態が親父の耳にはいっちまってよ。教育代わりにひでぇ目に遭ったってわけだ。これが誰のせいだか、言わなくても分かるよなぁ! ああ!?」

「全部自分のせいでしょうが」


 ステラが一言で斬って捨てると、アポールが口を噤む。そして溜息を吐いて髪を掻き乱す。


「くそっ。またキレそうになっちまうが、これじゃ本当に話がすすまねぇ。お前ら、いいから座れ」

「ええ、そうさせてもらうわね」

「チッ、本当に良い度胸してやがるぜ」

「それで、一体何のようなのかしら? 自分の有利な場所に誘い出して復讐でもするつもり?」


 ステラが軽く挑発を入れる。だが、アポールは乗ってこなかった。一瞬目を逸らし、そうじゃねぇと吐き捨てる。

 クレバーがひょこんとテーブルに降り、菓子を啄ばみ始める。アポールは心底嫌そうな顔をした。


「……実はな。あの時の俺様は、ほんの少しばかり不覚をとっただけってことを、きっちり説明しておきたくてな。誤解されたままってのは色々と不味いだろう? だから俺様の持つ力ってやつを見せてやる気になったのさ。わざわざ、お前の様な小娘のために時間を割いてやったんだ。ありがたく思えよ?」

「…………はぁ」


 ステラが生返事をすると、アポールは両腕を得意気に広げる。


「ふん、この要塞のような館を見ただろう。どんな連中が攻めてきたって防ぎきれるぜ。中の防御も完璧、組織の人間の忠誠も完璧だ! 使いきれねぇ程の金もある! お前が誰に喧嘩を売ったのか、よーく分かっただろう! 」

「…………」

「びびって言葉もでねぇのか?  俺様の力が分かったのかって聞いてるんだよ。まぁ、跪いて謝るならこの前のことはなかったことにしてやってもいいぜ? 俺様も鬼じゃねぇからよ」


 ふんと鼻を鳴らすアポール。一心不乱に菓子を貪るクレバー。ヴァレルは無言のままだ。ステラは心底嫌な予感がした。


「も、もしかして、用件はそれだけ?」

「おう!」

「……本当の本当に? このためだけに、私を呼び出したの?」

「男に二言はねぇ!!」


 ステラは強い眩暈がした。一瞬本気で気を失いそうになった。出発前の消耗の件もあったが、それよりもダメージは大きい。人生で一番の時間の無駄を味わった瞬間である。歩いている途中に、もう一つの用件を準備しておいて良かったと心から思う。そうでなかったら己への怒りで憤死してしまいかねなかった。


「で、どうなんだよ。早く答えを聞かせろ。俺様はせっかちなんだ」

「そうね。館も金も組織の人間も本当に立派ねぇ。お金もきっと沢山あるんでしょう。ここまで築き上げたお父様は本当に立派」

「そうだろう?」

「ええ、貴方以外はね。この家唯一の汚点は、貴方よアポール」


 ステラが鼻で笑う。


「おい、また俺様を侮るつもりか! 今度は俺様も容赦しねぇぞ!」

「黙りなさい。そうやって与えられた物で威張り散らしているから、ああいう事態に遭遇したときにお漏らしなんてしちゃうのよ。ねぇ、違う?」

「――こ、このクソ餓鬼ッ!」


 アポールが顔を真っ赤にしてテーブルを叩く。だが、事実なので言い返せないようだ。思い出したくもない過去に違いないが、一生涯心の傷として残るだろう。当然の報いである。しかもクレバーが睨んでいるから動くこともできない。


「十歳の餓鬼相手にそんなザマじゃ、いつかお父様にも見捨てられちゃうんじゃない? もしくは、跡をついだあとに部下を掌握できなくて殺されちゃうとか。この街ではよくあることでしょう?」

「オーソン一家は身内を裏切らねぇ! それが掟だ!」

「それは貴方のお父様が立派だからよ。貴方が跡を継いでからどうなるかなんて、誰にも分からないわ。今の自分を鏡で見てみたらどう? 見捨てられないような顔をしているかしら」

「そ、そんな、そんなこと、あるわけが」


 当然ある。見捨てられるかどうかは知らないが、アポールは失態の罰を受けた。そして、そんな失態が続けばいずれ人望を失う。それに気付かないほどアポールも愚かではないようだった。見ないふりをしているだけらしい。


「心配しないでいいのよ、アポール。そんなに気落ちする必要はないわ。失敗したらその分を取り返せばいいのよ。そうでしょう?」

「な、なんだってんだ急に。優しい言葉で俺様を騙そうったってそうはいかねぇぞ。ま、魔女だからって、俺は怖くねぇ! 怖くねぇぞ!」


 また魔女などという呼び名を頂いてしまった。そんなに悪い事はしていないと思うのだが。


「――ふふっ、何が怖くないの? それとも、怖くないと言い聞かせないと、心の平静を保つ事ができないのかしら?」

「こ、この部屋は魔術師殺しの香が焚いてあるんだ。て、てめぇが自慢の魔法を使うのは絶対に無理――」

「あっそう。じゃあ、試してみる? お代は貴方の命でいいわ。遺言を残すくらいの時間はあげましょう」


 ステラが水晶をゆっくりと取り出し、わざと音を立ててテーブルに置く。そして、威嚇のためだけの紫の光を発生させる。ステラの魔力集中を妨害したところで、この水晶の力が落ちるわけではない。ステラはこれを操作しているだけだ。そして、使えるのはステラだけ。他人が操る事は絶対にできない。


「お、おい、ちょっと待てよ。なんで魔術師殺しがきかねぇんだ。おかしいだろうが!」

「――で、何が怖くないのだったかしら」

「……ちょ、ちょっと待て。へ、へへっ、これは、そういうんじゃねぇんだ。今回も、ちょっとした余興――」

「で、お父様への遺言は残したかしら?」


 ステラが優しく微笑むと、アポールがひいっと呻く。ライアも言っていたが、作った笑顔のほうが恐ろしいとかなんとか。実に失礼だが、脅すには効果的のようだった。


「待ってくれ! 違うんだって。きょ、今日はやりあう為に呼んだんじゃねぇ。そう、誤解を解いてしっかりと和解するためにだな」


 青褪めた顔で言い繕う。反応は面白いが時間の無駄なので、さっさと話を進める事にした。ベックと同等の人間と話していると段々頭が痛くなる。珈琲もないので我慢できそうにない。


「それじゃあ、貴方の用件はもう終りね。いいわ、仲直りしましょう。その印として、とても良い物を貴方にあげる」


 ステラは懐から、ある液体の入った小瓶を取り出しアポールに放り投げる。毒薬かと思ったらしく、アポールは更に脅えを見せる。


「嫌だ! 俺は死なねぇ! 自害なんて絶対にしねぇぞ! こんな歳で死にたくねぇ!!」

「誰が死ねって言ったのよ。それは、貴方の名誉を回復する特効薬よ」

「――と、特効薬?」

「そう。貴方が私に協力するならば、もっと沢山貴方にも分けてあげるわ。お父様に見せてあげたら、きっと喜ぶでしょうねぇ」


 ステラは薬の効力、そしてその価値と利用法を馬鹿にも分かるように丁寧に説明してやった。疑わしげなアポールだったが、理解していくうちに顔に野心が漲り始める。根が単純なので実にやりやすい。


「ほ、本当かどうかは後で確かめさせてもらうぞ。……で、俺様に、何をしろってんだ。どうせ碌でもないことだろうがよ」


 碌でもない用件で呼び出したのはお前だろうと、ステラは近くにあった果物をアポールの顔に投げつける。いきなりのことで対応できず、鼻を押さえて悶絶する馬鹿。更にクレバーが固そうな実を脚で摘んで投げつけまくる。踊るような脚捌きで連射している。実に楽しそうで結構なことである。


「ふげっ。や、やめ、やめろ! 痛えっ! こ、このクソ鳥!」

『結構面白い奴じゃん! 反応はベックよりいいじゃん!』

「う、うるせぇ! お、俺に何をしろってんだ!」


 顔の前で手を必死に振るうアポール。ステラは笑みを浮かべながら告げた。


「個人的な復讐と、西の大掃除よ。貴方には名誉と利権をプレゼントしてあげる。人生最大の好機到来というわけねぇ」

「――へ?」

「しっかりとお父様を説得するように。勿論、命を懸けてね」


 及び腰のアポールを恫喝し、協力を検討するという言葉を頂いたステラは、疲労を感じながら館を後にした。大量の土産はヴァレルに持たせてある。自分の力を誇示するために用意したらしい珍しい食料や酒が入っている。マリーが喜ぶだろうから一応もらっておいた。

 「一晩冷静に考える」などと、馬鹿の癖にもったいぶっていたが、あれならば確実に乗ってくるだろう。アポールは目に野心をギラつかせていた。あの野心を見せれば、頭のバニアスを説得することもおそらく可能のはず。どれだけの利権が入るかは、組織の長ならばすぐに理解するだろう。

 それにしても、血は争えないとでも言うのか、今までの情けない有様からは一転していた。馬鹿だが実行力はあるのかもしれない。落ち込んだ後からの切り替えも早い。あとは能力が追いつけば、それなりの跡取りになるかもしれない。その時まで生きていられればだが。あっさり刺されて死んだり、ステラに毒を盛られたり、クレバーにタマを取られて死んだりしてしまうということも十分ありうる。将来の事は誰にも分からない。だから人生は面白い。


「……おいステラ。今度は一体何をしでかすつもりだ。良くは知らんが、あの品物はストック商会だけに卸していたんじゃないのか? 勝手に別の組織に渡したりしたら、間違いなく制裁を受けるぞ」


 ヴァレルが心配そうに声を掛けてくる。もちろん織り込み済みだ。


「争いごとは嫌かしら?」

「無用な争いを避けるのは当然だろう」

「無用なんかじゃないわ。これは仕掛けの一つよ。後はもう片方に仕掛けを施して様子をみる。ライアに釣りを習ったでしょう? 今回は大人しく待ってみようかなと思って。ふふっ、さてどうなるかしら」

「お前、まさかこの街の勢力図を変えるつもりか?」

「私はただの子供よ?」

「そんな言葉をよく言えるな!」


 ヴァレルが大げさに呆れてみせる。


「私は大層な野心はもっていないわ。ただ、少し西区は煩すぎると思わない? 私はあそこで静かに住みたいの。だから一回整理しましょう。――それに、私と同じ目に遭わせてやりたい人間たちもいるしねぇ」


 ステラが感情を堪えるように奥歯を噛み締める。


「もし実行されれば、少なくない血が流れるぞ。それでも良いのか?」

「それがどうかしたの? あいつらが何人死のうが、貴方の気にする善良な人間たちには何の影響もないでしょう。なら、別にいいんじゃないかしら。むしろ、早めに片付ける事で被害は少なくなるかもしれないわよ」


 ステラは冷たく言い放った。ヴァレルが気にしているのは、一般人やマリー、ライアたちに被害が出ないかということ。その心配は全くない。失敗したら適当な生贄を用意して、収めるだけの事。自称武闘派とやらの命を完全に握っている以上、ステラに害は及ばない。


「…………そうか」


 ヴァレルは肯定も否定も表さなかった。


「こういう汚いやり方は気に食わないかしら?」

「俺は頭よりも身体を動かす方が得意だからな。意見は言うが、別に反対はしない。今の俺の仕事は、お前達を守る事だ」

「どうもありがとう、私のヴァレル。今後も、貴方の働きに期待しているわ」


 ステラは無邪気に笑った。

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