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散る桜、残る桜も。

「時間がない。あれを全部凍らせることできる?」ウリセスに確認する。


「レ・ファンブル・コングリット!」ウリセスが唱える。

途端、桜の木の動きが止まる。

「何したの?」

「木の水分を凍らせた。」なるほど。


「『保陣』ー蘭零(らんれい)」自分たちを保護する結界のようなものを敷くと、次に炎の精霊を呼び出す。本来は、長い呼び出しの祝詞みたいなものがあるらしいが、そんなことをしていたらサクっと殺されてしまう。なので、契約の要項を増やして短縮で喚べるようになっているーらしい。ただ、これも本人の精霊術の熟練度によるものらしいけど、そこは、初代がいうには、力業で乗り切ったらしい。

精霊とのシンクロ率を動力で一時的にこじ開けるというか。あちらとの扉を自動のどこで◯ドアにしてしまったようなもので。ものすごく後で反動来るかもしれないから『黒の術』で補って倒れないようにしている、らしいです。


そんなわけで、召喚した蘭零による、焔の連続爆撃によって、桜の化け物は消し炭になった。

やることだけやったら、さっさと帰還するのも、蘭零らしい。その圧倒的火力に驚く暇もなく、

「行くぞ、リオウ!」ウリセスと共に走る。

そこに、黄金色の扉が現れていた。




「あら、早かったわね。まぁ、予想より、だけど。」そこには、優雅にお茶をしている三代目ー間宮芳成が居た。

部屋は八角形の広間になっていて、天井は高く、ちょうど真ん中に三代目ーナリーが居た。

「まぁ、ヒロキならその半分で来ただろうけれど。こんなものかな。」ナリーは薄い紫色のドレスの裾をさばくと、椅子から立ち上がり、片手を振る。すると、テーブルと椅子は一瞬にして消える。

「100階に、ナリーがいるということは、お宝は貴方からいただくのかしら?」私はとても嫌な汗をかきながら慎重に聞く。

「そうね。リオ。正しくはー私から奪い取って、ということになるかしら。」

「やっぱり。」ほら、来た。

「あの程度の敵で、最後だと思った?」ナリーはあくまで優雅に佇む、けれども一切の隙が無い。

「いいえ。でも、こういうのはー気持ちが乗らないな。」本当に、初代が好みそうな展開だ。

「確認を。」ウリセスが聞く。

「?何かしら。」

「貴殿はクローン体か?それとも、このダンジョンの一部か?」

「それを聞く意図は?」

「壊しても構わないのか、と聞いている。」

「ウリセス!」ナリーは一瞬、きょとんとした後に、実に艶やかに笑った。

「敵に優しく教示するとでも?」

「なるほど、リオウ、あれは敵だ。」

「ウリセス!」私のための確認だった。彼は、きっとこんなことでは動じたりしない。私が、力を全力でぶつかれるよう。そういう質問だこれは。でも。

「お話はそこまでで良いかしら?六代目ーー行くよ?」低く、男性の声で。


全身が粟立つ。


「『保陣』『反射』!」展開したそばからウリセスに抱きかかえられ、その場を文字通り飛んだ。


「惜しい。」


ジャアァァ!

と音がしたと思うと、私たちが元いた場所が焼き焦げていた。これは、光の精霊術。

「知ってる?精霊術でも強さがあってね。万能かと思われる『黒の術』でも、力負けしちゃえば無効になるんだよ。ほら、次行くよ!」光が飛んでくる。ウリセスが水の膜で盾にするが、そばから蒸発していく。

「っ!ウリセス、おろして!」

「ダメだ!」

今度は光の矢。四方八方から向かってくる。まるで、標的をロックしたかのように。

「どうしたの?躱すだけじゃ私は倒せないわよ?」美しい人が嗤いながら私を殺そうとする。この人はーどこか、初代の暗い部分と似ている気がする。

「『暗幕』!」三代目を覆うように布状の黒の術を出す。が、

「シェ・ラージャ。」その膜がすべて床に叩きつけられ、光の針で縫いとめられたようになり、そして消える。

「この程度?それと、ハンデをあげているのだから、この部屋では他の精霊は召喚できないわよ。」

「!」仕方がない。もともと、上手に精霊を使うことなど、初代ではないのだから無理だ。なら、使い慣れている『黒の術』の方がいいに決まっている。

余力を残しておきたいので、なるべく消耗しない技で挑むが、相手もそれがわかっている。そうだ。新しく術を開発しない限りは、三代目以前の技はすべて知られていると思ってもいいだろう。

「これは、ユウスケの技ーGoldspiderweb」

「!?」ものすごく美しい光の網が三代目から広がる。

「リオ!…レ・ラゾイール!」ウリセスが水の刃をもってそれを断ち切る。

「なんでー」

「どうして使えるか?そうね。このクローンになってから、暇だったから。暇つぶしよ。ユウスケは精霊術も得意だから、面白い。この技は黒の術でも似たようなものを作っているわ。ー敵を知らなければ自らの大事なものを守ることはできない。リオ、少なくとも五代目までの術は私の中にあると思っていいわ。ーさ、どうする?」

「もう、最悪!」思わず悪態をつく。つきたくもなる。こんな強そうな人、どうやって倒せというのだ。そもそも、今までの精霊たちも私に加減していてくれたんだろう。そうでなければ簡単に契約などできるはずがない。それだけの力だ。そして、力を持つ者をそれ故に精霊たちは選ぶ。


なら、目の前の三代目の精霊術は、精霊王クラスと思わなくてはならない。この人は、何を守るためにこれだけ強くー彼の大事な人のためにここまで強くなったのだろうか?彼だとて少なくとも戦争の時代の生まれではないはずだ。なら、私とそこまで条件が違うとは思えないのに、この差は。


力で負けるなら技量で勝負するしかないが、そこがすでに抑えられている場合、どうしたらいい。

「ウリセス、ちょっと、考える。」ウリセスにつかまり、ごめんねカウンターを最大値まで展開する。保ってどのくらいか。その時間だけ捻出する。

私の大事な精霊は、それだけでわかってくれて、私を抱えて三代目から逃げ回る。反撃もするが、ほとんど届かない。距離の問題もあるし、ここは、三代目のテリトリーだからだ。

まてよ。

領域?

彼が作った、彼に都合が良い場所。


何かがおかしい。

それはずっと引っかかっていた。でも、何がおかしいのがわからずにいた。それは、この空間がとても白く、明るく。

「リオウ!」わかってる。考えている暇なんかない。360度、どこからでも光が襲ってくるのだから。


どこからでも。


どこからでも?


おかしい。光があれば必ず影ができるはず。なのに、ここには、ナリーの影も、私たちの影も、


一片たりとも見当たらない。


なぜ、ナリーは黒の術そのものを消さなければならなかった?縫いとめただけではいけなかった?

「ウリセスは勘違いしている。」私はつぶやく。ナリーが攻撃を止めた。私の言葉を聞くつもりだ。

確かに、私は戦いが嫌いだ。

確かに、同じ同朋を相手にするのはもっと気分が下がる。

だけれども。


「でも、私は六代目『黒の術師』だから敵を殲滅するのは私の役目だ。」それが、私が初代から引き継ぎ、次の時代へと残さないものだ。そう、私が決めたんだ。私で終わらせるとあの人は言った。私も私で終わらせて欲しい。こんな、苦しい気持ちも。愛おしい気持ちも。

炎の精霊王、これでも私は愛を知らないというのでしょうか。

傷つけたくない人を傷つけ、愛おしい人を消耗してもなお、生きなければならない。歩まなければならない。今を。

「『黒霧』ーウリセス、闇の術を三代目を拘束する。」どんな顔をしていたのか、私は知らない。でも、ウリセスが一瞬だけ何かを言いかけたから、きっとひどい顔をしていたんだろう。いいんだ。

「シェラ・ディート…!」三代目を覆う黒。暗幕なんて単純な布じゃない。

「光を無くせばいい。」この部屋すべてを黒で覆う。光すら通さない黒で。そうして、あちらから来れなくすればいい。


それは、とても無慈悲で実に『黒の術』らしかった。







続きます。意外と長めになってしまった。次回で三代目編はキリがつくはず。

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