灼かれる。
洞窟の中はひんやりと、していなかった。
見るからに赤い景色が広がっております。
真っ赤です。
岩肌と時折見える崖下の溶岩。暑いという問題じゃなくすでに、こんなところ入るの嫌だ。
とりあえずこの、ひらひらワンピースっぽい水着下着っぽいもののおかげで、身体は潤っていた。水がたぷんと入っているペットボトルみたいに。ついでに『ごめんねカウンター』も改良したので、クーラーの中にいる私、です。
そこのところはウリセスが素直に感謝していた。水の精霊である彼は、やはり火には弱いらしい。
「大丈夫?」声をかけると犬の眉間にしわが寄っている。
「問題ない。リオウは?」低い声が応える。
「だ、大丈夫。」そうか。名前呼びは標準になるのか。今更動揺してますなんて言えない。
突然、どごん、という音がして地が揺れると、前方に炎が見えた。道という道がほとんど無いので、このまままっすぐ進むしかないのだけど。
「声?」しばらく様子をうかがうと、何かの音が聞こえた。先に進めば横穴が出来ていた。明らかに、今抜け落ちたと思われる壁が右手に。そして、その先にーーー
「ピーィ。ピーィ。」
目が合った。
「………」なんだか、まずい気がして私はそのままそろりと全身する。
ぱたぱたぱた。
「ねぇ、ウリセス。あれ何。」そう聞きながらも静かに足の歩みは止めない。だって、だって、ものすごく嫌な予感がするんだよ。
「火竜の幼生、に見えたな。」そう応える声も心なしか穏やかではない。
ぱたぱたぱた。びったん、びったん。
嫌です、後ろから何やら音がしますよ。ねぇ。
振り返るな、振り返るな私。
耐えきれないので、そこから走る。
ぱたぱたぱ、びたっ。
「ピーィ・・・」
もの悲しい声が後ろから聞こえますが。
無視するんだ私。そこは無視しか無い。どう考えてもあの親とやり合うのはまずい。
「ピィーピィーーー」ああ。もう、何でしょう。
「初代の台詞じゃないけれど、この世界に動物愛護なんちゃらが無くて良かった。」くるり、と振り返るとそこにはつぶらな目をした、真っ赤な小さいドラゴンが。背丈20センチばかりの、小さな怪物がこちらを見て泣いておりましたよ。
<巣へ帰れ。(黒の術バージョン)>初代が発明した風の術との混合。多種族への翻訳言葉の、術を使う。
「ピィ!」ああ、目に見えて喜びましたよ、どうすんのこれ。だいたい幼児に言葉って通じるのか。どうなのそのあたり。
「竜は古代より我らと共にあり、はるかに人智を陵駕した存在だ。故にーーー」ワンコウリセスの台詞を遮ったのは、激しい炎の洪水だった。
「凍壁!」チリ、と気配を感じた瞬間に黒の術を展開するが、7枚展開した私の防御壁のうち4枚まであっさり灼かれた。ぞっとして振り向くとそこには。
顎が。
<誤解だっつーの!>とっさに足下に転がりそのまま反動で巨大な身体の下に潜り込み、
「波動!」腹の下から衝撃派を放つ。竜が前につんのめってでんぐり返しみたいに道に転がる。が、その瞬間また顎が開かれる。
「風壁、土壁」風で炎のブレスを裂き、土の壁で身を守る。
「飛翔!」
>リオウは逃走した!
なんていう表記はゲームだけでたくさんだ。逃走って、ほんと、ほんと難しいから。
あっさり村へ戻れるスキルなんて、本来は絶対に存在しないんだと思うのよ。
誰か同意求む。
「あれは下位の竜だ。いくら火竜が獰猛といえど、上位種は対話くらいできる。」ウリセスさん解説ありがとう。そもそも洞窟入ってすぐにあんなのと遭遇ってどうなんですかこのエンカウント率。
「何かあったのかもしれぬ。火の精霊が騒がしい。」そういう重要なことは最初に言いましょうね。
「何かって何。」
「炎の精霊王は、苛烈だが道を曲げることはなかった。だがこれだけの精霊が嘆いているには原因があるはずだ。」ウリセスに言われて精霊の声を聞いてみることにする。
「!!」
「リオウ!」よろけた私を支える手は今は無い。ぎゅっと手の中の犬を抱く。
「何だ…これ。」悪意だ。誰に対する?まずいな。まずいですよこれ。気持ちが悪い。
その気持ち悪さをおしやって壁にもたれ、息を吐く。深呼吸。深呼吸。しばらくそうしてから、入ってきた情報を整理する。
「黒の術師が敵視されている。」私に身に覚えが無いということは。当然。
「ユウスケか。」
四代目、何やらかしたんですか。
ちょっと短いですが、ここで切ります。




