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ウリセスと初代。

「璃桜が成功したらしい。」男は手の中の書状を流し読みしながらつぶやいた。

黒髪に黒目、上から下まで黒ずくしの服。まっ白い肌が際立っている。

初代黒の術師、ヒロキである。


「リ、オウ?」それに答えた男はくせのある黒髪、深い青い瞳を持つ水の精霊ー正確にはハーフだがーウリセスは男に目を向ける。


「はん。そうか。」ヒロキはにやり、と微笑んだ。そして自らの意図した通りの反応を返した半精霊をしばらくおもちゃにできそうだ、と思う。


「何か。」


「いんや~?そーかそーか。リオはお前に本名を名乗っていなかったんだなぁ~それじゃ誓約も無効になるな?最終的には。」ヒロキはいかにも楽しそうに笑う。実際、からかいがいのある対象でさぞ楽しいのだろう。


「!」がたん、とウリセスが立ち上がる。


「冗談はともかく。お前、本気であいつを欲しいか。」初代の声が低くなる。

その声はいつもと違い、静かで彼が生きてきた年月を感じさせた。


「ああ。」


「マトモに考えたらお前の寿命とアレは違いすぎる。種族的にも、問題だ。いくら精霊たちが実態を持つとはいえ、人間とは異なる構成物質にすぎん。まぁそれを無理矢理つなげたのがお前の親父だが…」


「覚悟はできている。」


「まぁ、俺はグレートだから子ができるが、普通の人間じゃぁ精霊とセックスしたところで子供なんかできん。霞と交わるようなものだからな。」そもそも、力のある精霊でなければ人の形にはなれないし、力のある精霊は総じてプライドも高く人間を見下しているので、人間と精霊が交わることは通常無い。


ウリセスが今回リオの側に居ないことは意味があった。初代が止めたのだ。

それも、これから先の彼らの事で。


「!」ウリセスはさらっと語られた内容に目を見開く。


「あん?違うか?そういう意味で『欲しい』んだろーが、あいつの事。」ヒロキはどかっと椅子に座る。


「通常精霊って奴ぁ、契約やその力を介して気に入った人間を見守り、死ぬまで側にいることが『愛する』事としてとらえられているが、もちろん例外はある。お前は半分精霊だが半分は人間だ。どう考えても性欲はあるだろうが。ちなみに精霊と人間じゃ善さも違うぞ。感覚もな。まぁ、それは味わってからのお楽しみって奴だ。」


「それで、話というのは。」ウリセスは目の前の男のことがよくわからなかった。飄々としていると思えば真面目な顔をしてみたり、風のようにつかめない男だった。ただ、自分よりリオに近いという点では、嫉妬に近いものを抱いていた。


「防音・防壁・…」言葉一つで部屋が完全に密室となっていく。男の手元にはリオの開発した黒の術、電源が置いてある。それはリオが言うには遠隔で充電できるものなのだそうだが。


「さて、まぁ前置きはこのくらいにして。単刀直入に言おう。俺らは、この世界の人間ではない。異なる次元のーというべきか、異なる世界から来た。」


「!」


「あまり、驚かんな。」ヒロキはウリセスを一瞥する。その反応も予想していたことだった。


「あなたがたの『黒』はこの世界に存在しない。ならば、他から来たと考えるのが普通だろう。」ウリセスは言われた内容を頭で復唱した。いくつかある可能性の一つに、リオが多次元ーこことは違う世界から来た、という仮定をしてみたが、いかんせんこの世界ではこの世界以外の世界への接触は今のところウリセスが知る範囲では無いのだ。だから現実的ではないと言えた。


「だよな。とっくに上にそういう話が行ってて、『俺たち』が不利な状況になってしまうかと思えば、お前のようにのんきに現状維持している奴のおかげで、俺たちはまだここで抹消対象とされていない。その点については礼を言うべきなんだろうな。」そこでひとつため息をついて、ありがとう、とヒロキは言う。


ウリセスが彼らを異物としたのならこの世界の人間からも精霊からも追われる身となるだろうことはもうずっと前からヒロキは考えていた。

だからこその攻撃術を編み出し、自らを守るために戦ってきたのだ。誰にも触れられないような高みに上ることでこの世界での地位を確立した。


ウリセスの前の管理者もヒロキに対しては寛容だった。それは彼らの好奇心からなるものだったが、人間には興味が無いはずの彼らに鮮やかにも印象付けたのは他ならぬヒロキの存在感だった。


実際のところ、ヒロキたちはちょうど良かったのだ。【魔法使い】たちが統率されたのは随分最近の話で、それまでは戦争と共に各国好きなように【魔法使い】を使用し、捨ててきた。国家間の協定が結ばれ、はじめて民たちに被害が出なくなり、そして【魔法使い】の尊厳は『黒の術師』という標的を得たことで守られた。それほどに人間と【魔法使い】との差はあった。


血で血を塗り替えるような、そんな無駄な連鎖を断ち切ったのがヒロキだった。


「まぁ、都合が良い存在というか。人は自分に都合が良い存在のみ歓迎するものだからな。」ヒロキは微苦笑するとふと遠くを見た。そしてウリセスにむき直し、


「さて、そこで本題だが。成功するかどうかはリオにすべてかかっている。お前はそれに賭けることができるか、否か。」


「どういうことだ。」


「お前はあいつと同じ世界に生きることを望むか、ということだ。」


「!」


「今は答えられんだろう。だが、いつか選ばなければならない時が来る。その時までに、よく考えておくことだ。」


「それは、リオと同じ世界に存在することが可能、ということか?」


「ーーーー理論上はな。だが俺も初めての試みだしな。まぁお前を作った時もそうだったんだが、あいつは帰りたいんだろ。なら帰してやらんとな。」


「!」


「馬鹿だなお前。あいつの歳を考えろ。まともに恋愛バカになれるのは娘の時分だ。歳をとればとるほど、捨てられないものの方が多い。今のお前が元の世界と天秤にかけてすべて捨てられるほどあいつの中で価値があると思うか?俺なら『愛』だけじゃ足りんな。そんな不確かなものだけでつながっている不安定な関係なぞそら恐ろしい。すべてを奪ってすべてを与えるくらいのことはしないとな。それにだ。通常考えてもみろ、お前の身分だってそう易々投げることができる立場ではない。」


「…ならば、どうしろ、と?」


「方法はあるが、今教えてはやらん。お前があいつを命をかけてもいいと思うくらいに思えるのなら、俺は迷わず術を使う。これは大がかりで、最初で最後、1度しか出来ないだろう。よく考えることだな。」


「私に、この世界を捨てろと。」


「よくある話なんだが。何故『異世界』から来た者だけが、捨てなければならないんだ?俺たちの世界の誰かが、俺たちを命を賭しても探しているのだと、嘆いているのだと、誰も考えはしない。そして、あいつは、それを捨てるほど馬鹿ではないということだ。」


「私は…」この世界を捨てる、ということは精霊である自分を捨てるということだ。それは命を捨てるに等しい。リオのためにリオの側に居たい。それは自らの立場を顧みなくても良いことではあったが、この命が無ければ側にいることはできない。それを、この男はいとも簡単に捨てろというのだろうか。

それとも、この命が生きながらえる方法があるというのだろうか。


「よく、考えろ。考えた末に出した答えには意味がある。話はそれだけだ。リオは火の領域へ向かったぞ。」


「!」


「お前では力にならん領域だ。どうする。」ヒロキは笑う。まるで、悪魔のように。


「愚問だ。」ウリセスは守られた部屋から飛ぶことを選んだ。


彼と、彼の想う人のために。


まるでパパンに結婚を許してもらうがごとく(笑)

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