困惑。
私は急ぎ王主の元へ戻ると、先に王の側近に会うことになった。
黒い。
いや、外見はともかく煮ても焼いても食えなさそうな筋肉マッチョの初老のジジイ。(失礼)おじいさまが眼光鋭く私を観察していました。ああ怖い。
そして、他にもれずに美形です。
精霊も老いがあるのですね知らなかった。あまりに若い世代が多いから、こんなに底力のありそうなゾクゾクするような精霊さんに会うのははじめてです。
きっとその昔はずいぶん暴れたんじゃないのかなぁ、と思いました。
ジム・ダングストと言うその人ー精霊は、王が伏せっているため代理で私に会ったのだった。
「原因がわかったと?」
「はい。」
私はこの地にかけられている黒の術を解除することで王の負担を軽くできると答えた。
さっそく取りかかるよう言われ、部屋を後にする。その途中でクローロさんと会う。
「あ、どうでしたか?」私は彼に依頼していたことを聞く。
「はい。許可が下りました。ただし、内密にではありますが。」
「よかった…彼は?」
「控えの間に居ります。」クローロさんに挨拶して控えの間に向かう。
「リオ!」ヴァルさんは困惑していた。私は彼と彼の子供たちに『ハレ・パラドの輝ける宮殿』に来てもらっていた。彼自身は名のある精霊なのだが、仕事とは関係のない宮殿に来ることになれて居らず、私の仕事の関連かと思っているだろう。
「はい、これ。」そう言ってヴァルさんに一枚の紙を渡す。
「何だ?……これは…!」驚いたね。うん。よかった。でも顔が曇る。ああ、やっぱりね。
「奥さんと会えるのにうれしくないの?」複雑なんだろうその心中。その紙は側室になった彼の妻との面会許可証だった。
子供たちが、先に察して部屋を走り回る。うん、子供は素直だね。
まだ困惑しているヴァルさんにこれ以上意地悪するのも可哀想で、奥さんの現状をお話する。
男って単純だ。
身分制度と自分の気持ちに板挟みになっていたヴァルさんの顔は驚くほど明るくなった。
そう。だって、奥さん、王様のものになったんじゃないんだものね。
今この瞬間も、王様のために仕事しているんですよ、旦那様。酒飲んでくだ巻いている(ミィたちから聞いた)場合じゃありません。
「というわけで、私を連れて行って欲しいところがあるのだけど。」もちろん、タダでこんなことはしないんですよ私は。
大人っていうのはめんどくさい生き物で、善意だけでは好意を受け取らない生き物なんです。そしてその方が相手に負い目が無くなるのです。
特に、年頃の男性はそのプライドを尊重しなければなりません。
そしてそれは私も同じ。
人に動いてもらうのにーそう大して親しくない人が自分のために動いてくれるという甘い考えは持っていない。
「仕事です。ヴァルさん。その許可証分、働いてください。」私はにっこり笑って彼をゴールから遠ざけた。
私だってウリセスに会いたいの我慢しているんだもの。これくらいのわがままはいいよね?
四代目が何を考えているのか。
それを私は今知りたいと思った。
彼が張り巡らせた術はこの土の領域全土に渡っていて、『移動』を使わないとかなり厳しい広さだった。途中野宿をしながらもどうにか全部の箇所あのキラキラした結晶を引っこ抜いた。もちろん野宿の心得など無いので、ヴァルさんにいろいろお任せ状態だったのだけど。まぁ、大人の飯ごう炊さんと思えばある程度は何とかなった。
黒の術は元々王の病の原因ではなかった。
この術式はこの地の大地の力を循環させ増幅させた後、四代目の元へ運ぶエネルギーチューブの役割をしていた。だから、これが王の病の原因とはなり得なかった。けれどそこは伏せた。
本当の原因は人間が起こしたことだ。それ事態はとても小さく、一人の人間がたとえば一つの土地を埋める。ただ、それだけの小さな出来事が積み重なって土の脈が乱れた。乱れた後この術に増幅されてしまい、王に負担がかかったのだ。
四代目が何故この莫大なエネルギーを必要としたのか、それは謎。
けれどこの術式は決して負担になるものではなく微々たる量を恒久的に流す役割をしていた。だから、この術を見たら、この組み立て方を見たら、四代目がどういう人物であるか、少なくとも想像はできる。
初代は大胆な組み方をする。それはもうすでに天才の域で、真似しようとしてもできない。
二代目は緻密に計算された組み立て方だった。所々遊び心が入っているような、くすりと笑う声が聞こえるような、そんな感じ。
三代目はよくわからないけれど、彼の子供を見ていたらなんとなくわかるような気がする。
そして四代目は、
「なんで、あんなに優しいんだ。」消してしまいたい言葉をつぶやいた。
初代は知っていて私をここへ寄越したのだろうか。
私の中に出来た一つの疑問。初代は四代目が初代を殺すと思っているけれども。
それは、
本当に、本当なんだろうか?
繊細にして広大、包み込むような術式。あんなもの、私は描けない。
どうして、ただ斬られるだけの悪役じゃなかったんだろう。どうして、あの瞳はあんなにも澄んでいたんだろう。
どうして。
私を待っているとあの人は言ったのだろう。
どうして。
敵の目的、それがわからなくなってしまった。奪われたものを悲しいと思って、今でも憎しみは確かに存在するのに、それでもこの心が見てしまったものは、すでに忘れられない。
目をそらすのは子供の所業で。
私はそれほど幼くも、老獪でもなくて。
「怖いよ…ウリセス…」誰にも相談できずにこのままこの思いを抱えていくことが、とても怖いと思った。
ほどなくして、王様にかかっていた負担はかなり回復した。
あの怖い顔のジーさん、いや、ジムさんから微かにだが笑顔を引き出せたことは心底私の心を安心させた。
クローロさんからも礼を言われたし、滋利さんにもとりあえず納得してもらった。
けれど、私の中でもやもやしたものは残ったままだった。




