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もう一つの黒。

うっかり長くなってしまいました。こんなサブクエストが(笑)

アドイ・ナユ。

杉崎璃桜、異世界91日目の夜。


気づいたら、黒の書庫に居ました。


私にもわからないのですが、何やら『喚ばれた』ようです。


一つの本が本棚の奥で光っています。



私の目線に気づいたその本は、ふわりと浮いて出てくる。


ぽすん、とまるで手に入るのが当然のようにその本が私の手に収まると、光は消えた。



「何これ?」その本はまるで石でした。だって重い。

そして、広げる場所が無い。表紙に文字もない。裏にも何もない。ただの石の塊に見える。でも、すべて黒い色。大きさは、A4ノートサイズよりやや小さめ。


『ごめんねカウンター』を目視できるようにしたら、今の時刻は丑三つ時。

どうりで眠いわけだ。


ひとまずその本を持って部屋へ帰ろうかと思った時、手がすべって床に落ちてしまう。


「げっ。」欠けたりしたら大変。急いで拾おうとするがーーー



本が、展開した。



どうやら、この本は薄い石のようなものー実際には柔らかいさわり心地だがーを重ねていたようで、ノートサイズがどんどん開いて、一枚の大きな紙になった。


模造紙よりも少し大きめだから、この広さの紙を使うことは普段の生活にはまず無い。


そして、ぽつん、と表れた文字。


「アドイ、ナユ?」まるでその言葉が引き金だったかのようにするすると絵がーーーいや、これは道筋だ。描かれていく。


これは。


「地図。」いくつかの土地の名前、そして居城、それから大きな道筋、それらが描かれている。

そして、集中して見ると、壁画のようなそれから、どんどんリアルな風景が浮かんできてーーー


「うわっ!」とっさに目をそらす。まるで自分が空からどんどん落ちていくようなこれは。


「まさか、航空地図。」ぱっとみた限りは何の変哲もない絵でしかないのに、集中して『見よう』とすると、どんどん実写を伴ってくる。そして、土地には一つ一つ小さな円が光っている。


「何だろうこれ?」そっと触ってみると円は光を伴い人差し指に絡みつく。光の輪が自分を包んだ瞬間ーーーー








「………あ、れ?」真っ暗な夜道に居ました。


「ここ、どこ……?」杉崎璃桜、異世界91日目の夜。


ちょっと、迷子になりました。





石は元の石に戻ってしまっていて、もう一度使うにはどうしたらいいのかわからなかった。暗い夜道を歩くのも不安なので『黒の術』で懐中電灯に似たものをだしー光の玉を浮かせて道を歩いている。


とりあえず自分が触った場所を思い出す。

アドイ・ナユからそう離れていない国道ーおそらくそれくらいに広い道を指したはずだった。

なら、何故こんな細い道に出ているのか。


今の私はこの世界に来た時よりずいぶんと余裕がある。何故なら、ここは全く知らない場所ではなく、少なくともアドイ・ナユにほぼ近しいところにある。ということは、戻ることも可能なのだ。


ほら、少し先に灯りが見える。ちょっとほっとしてその灯りを目指して歩いた。夜着しかまとってなかったため『どこボックス』から着れそうな上着を取り出して着る。備蓄も万全で、何も恐れることはない。



そこは小さな村だった。

ひとまず宿でもあるかと酒場らしいところへ行く。どうやら宿は無くこの酒場の二階を常連に貸している程度らしい。まぁとりあえず、


「メニューください。」24時間営業で良かった。深夜営業しているお店で良かった。小さな村のようなのに。マスターらしき人はまだ若かった。このあたりにはこのような店が少なく、近隣の村からも若者が集まる場所として密かに人気があるらしい。確かにこの時間だというのに、冒険者のような身なりをした人間や、まだ駆け出しとも見える若者たちが20人近くはいる。女性も数名いた。

ちなみに、私は『黒の術』で擬態をしています。髪は濃い栗色、目は灰色に見えるはず。黒に近いが黒ではない程度の色の方が力の消耗は無いことがわかった。夜着の上に上着では怪しまれるため見た目には普通の服を着ているように見えるはずだ。幻惑の術で。


そのうちカウンターにいた私の横に数人の男が寄ってきた。マスターが窘めるが、酔いも回っているようで、酔っ払いの相手をする前に食事を片付ける。

「なぁ、なぁ、聞いてんのか。」この若造め、と思ったが口にはしない。どう見ても私より10以上は年下だ。年下は論外だ。無視するのもどうかと思い、適当に話しに相づちを打っていたのがまずかったようだ。子供たち(私にはそう見える)の話を要約すれば、二階でしけこまないかー失礼、二階で愛を育まないかーーということなのだが。

「先約がありますので。」と答える。子供にしか見えない男の子に迫られても全くそんな気は起こらない。これが少しでも美形だったらともかく、いかに私が今まで美形に囲まれていたかわかるくらには、この男たちは平凡だった。逆に安心してしまうくらいに。

「一人で入ってきてこのあたりの奴じゃないだろ。先約って何だよこんな村にそんな用事ー」まだ言いつのる子供たちに辟易して、マスターをちらりと見る。

「マスターと約束しています。」マスターは一瞬目を私に向けたが、心得ているようで、

男どもを追い払ってくれた。ありがたい。というかお前の店ならお前が管理しろ。と心の中で毒づいたが。


そしてどうにか今夜の宿を得ました。ええ、こんな真っ暗闇の中帰る気力はありません。『帰還』系の術を使うにしたってそれは初代なら、の話。私は最低限『戦い』に必要が無いのならあまり術は使いたくない。だから、今夜はここに泊まり、明日帰る。とりあえず、滋利さんの部下だか何だかわからない風の精霊に伝言したから大丈夫とは思うのだけど。


部屋は簡素ながらベッドとサイドテーブル、椅子が一脚ある部屋だった。一息ついて擬態を解く。幸いここが田舎なのかとりたててたちの悪い輩も居なかったことは幸いした。たいていの人間なら『ごめんねカウンター』だけでどうにかなるし、今の私にはそういう意味での敵は居ない。


空腹も満足しうとうとしたところでついノックの音に気づかなかった。だから、私は扉が開きその人物がベットに寝そべる私を見て、後ろ手に扉を閉めたことも、気づかなかった。


「『閉音』」テノールの声が響く。音が消える。


「!」


「知っていましたか?黒の術はこんな風にも使えるのですよ。」指先には赤い小さな宝石。そして、それを持つのは。

「………マスター?」起き上がる瞬間に『ごめんねカウンター』を最大値にして。


「ようこそ。忘れられた土地へ。『黒の術師』私は、デウス=マミヤ=シン。早速ですがーーー」マスターと呼ばれた男は、私に近づき擬態を解いた。


「!」そう。灯りが少ないこの部屋でもその瞳はよく見えた。だって、私の術の光が侵入者を照らしていたから。


「黒ーーー。」持ち得ない、黒の瞳が、私を見つめていた。


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