歌をつなげる。
「何これ。」
「今回は、歌ということなので、吟遊詩人風にしてみましたぁ!」語尾にきっとハートがついているだろうに違いない、甘いその声は別のことに使うべきじゃないかと思うのだけど。
例えば、今私に視線をびしばし送っている殿方とか。
おはようございます。リオです。
今日の出で立ちは、ファンタジー風味のチュニックにショートマント付の吟遊詩人風コーデです。
帽子はベレー帽。ブーツもショートブーツで、レギンスみたいなものをパンツとして履いてます。
まぁ、動きやすいのでいいけれど。
「よろしいですか。」エフロンさん。暇なの?今日は、私と契約してくれるらしい精霊さんと会う日だ。そもそもそんな簡単に契約してくれるのかと疑問に思うけれど、それはやはりギブアンドテイクで。
「はい。行きましょう。」
初代から聞く話しだと、宮殿の奥にある場所に歌を刻んだ石碑があるらしい。
それがいくつものパートに別れて存在し、歌をパズルのピースみたいに組みあわせることによって一つの歌が完成するそうだ。私にはそれの修復を頼みたい、との事だった。
その歌が何なのか、何のために修復するのかは聞いていない。
どうせ初代の言うことだ、何か色々あるんだろう。聞くだけ無駄というか、疲れる気はする。
ちなみに初代は朝から応答が無い。というか、夜中に目が醒めた時私を抱えてはいなかったので、どこに行っていたのかは知らないが、朝はがっしり人を捕まえていたから、腕を剥がすのに苦労した。
そしていつもなら目を覚ますのに覚まさないから朝食を先に摂っていた所でエフロンが現れたというわけで。
しばらく歩くと石造りの大きな門が現れた。
中へ入れば先に人がいた。
いや、正しくは緑色の髪をしているから、精霊か。
「…君は…」
「お久しぶりね、ウリセス。」外見は女子大生くらい。長い緑髪はゆるくパーマがかかっていて、ゆったりとしたドレスは手足の長さを際立たせている。
「知り合い?」はっきりいって、他の精霊に漏れずに美人だ。
「リオ、彼女が君と契約する予定のーーーシェフィールだ。シェフィール、こちらが六代目『黒の術師』リオ。」
「初めまして、リオです。よろしくお願いします。」
「二人は邪魔よ。出て行って頂戴。」シェフィールはそう言うとウリセスとエフロンを追い出した。そして、扉が閉まると。
「よろしくされたくは無いのよね、ウリセスの『誓い』の相手なんかに。」振り返って私を睨みつけてきた。
(え?)
「でも上が決めたことですからね。条件はわかっている?」そう言うともう一つ奥の扉を指差した。
「歌を作るのですよね?」そう確認するとシェフィールは私を上から下まで見下ろして、笑った。
(あ、嫌な笑い方。)
「遊びではないのよ。そんな格好で。アナタが歌を作れたら私が契約をする。けれど、召還には応じないわ。力は貸すけれどね。」
「……そうですか。この奥ですか?」とりあえず、営業スマイルで答える。
「行けば?期限は三日よ。三日で出来ないなら、アナタとの契約は無いわ。」そう言うと、ふい、と背を向けた。
(何だかなぁ。)もうそれきり話す気もないのか、さっさと行けとばかりにとりつくしまもない。
「一つ、いいですか?」私は背に声をかける。
「何。」
「三日間、誰も部屋に入れないでください。食事は、この扉の外へ。」にやり、と笑うと彼女は柳眉を上げた。
「わかったわ。一つ、教えてあげる。」そこで彼女もにやり、と笑った。
「?」
「ウリセスのはじめては私よ。」
ドゴン!
思わず、扉を蹴って閉めた。
何なんだ、何なんだ、何なんだ。
(何なのあの女ーーーーーーーーーーーーー!!!!!)
物語的に、そんな昼ドラ要らないから!
「うわ…。」ふと気づくと目の前には宙に浮いた石碑の山。気づけば足元も、この部屋すべてが石碑だけでできている。
「ラ○ュタか…。」目の前にある石に触れる。
キィン、と音が鳴っていくつかのメロディが流れる。左耳のあたりにある石にも触ってみる。今度は違うメロディが流れる。
(つまりこれは…)
小節ごとになっている楽譜の一部、と思えば良いのか。
(三日か…)先ほどの女性の言葉がエコーする。
(綺麗な人だった。)ウリセスだって良い歳だから(おじーちゃんだし)別に恋愛模様がどうあってもいいと思う。そんなことは、私がどうこう言う問題じゃないし。
だけど、何か。
(何だか嫌だな。)これが心理戦なら、彼女は私がこの歌を完成させないようあんなことを言ったのかもしれない。だっておかしいんだ。
(あれは、恋をしている目ではないから。)頭を軽く振って、前を見据える。
(使える戦力は確保。でしょう?初代。)そう彼女も言っていたではないか。上からのお達して仕方なく、と。
(そこは共感できる。)自分だって望んで戦線に立つわけではない。なら、
(覚悟を決めないと)その為の、力を望んでいる。
違う。
私が望むのはもっと傲慢で、身勝手な理由だ。
(彼を守りたいから。)
なら、私はこの力で何ができるのだろう。犠牲の指輪は未だ健在だ。これ以上、私が傷つくことは出来ない。前回だってテオの力でギリギリどうにかなったようなものだ。
なら、私は。
「やるしかない、か。」自らを守るための力を。得なければ。
石碑に向かって手を伸ばした。
「何日持つかしらね。見物だわ。」シェフィールはひとりごちた。
「シェフィール、リオは…?」ウリセスは部屋を出て来たシェフィールに声をかける。
「…入ったわ。これから三日間、誰とも会いたくないそうよ。食事は扉の外へ持って来るよう伝えたわ。」部屋を出た瞬間精霊術で伝達した。だから、間違いなく食事は運ばれてくる。
「三日…三日でできるものなのか?」
「どーだろうねぇ。歴代の高位精霊たちが諦めてきたものだからね。彼女にそれができるのか…ああ、この中は1日が何十時間にも感じられる空間になっているから、下手をすると発狂してしまうかもね。」エフロンは笑いながら言う。
「!」
「だから三日と言ったのよ。それ以上人間があの空間に居ることは難しいーいえ、無理だわ。」シェフィールは答えた。
「じゃ、俺は戻るけれど…」
「私はここに居る。」ウリセスはそう言うと扉の前に腰掛けた。廊下からは眼下の雲と抜けるような青い空しか見えない。
「やめてよ。あなたの分の食事も運べということ?仕事を増やさないで頂戴。」シェフィールは言う。
「リオが戦うのならば、私も共に。それが私の役目でもある。」ウリセスは笑うと何でもないように扉の横の壁にもたれかかる。
「!」シェフィールはその顔を見て驚いた。
もともと何にも執着しないはずの彼が、『誓い』を行っただけでも驚いたのに、柔らかな笑みは以前の彼が持ち得ないものだった。だからこそ自分は彼を求めたのだった。
「はいはい。俺は行くからよろしくね。」エフロンは馬にけられたくない、と呟いて去って行く。
「彼女の、どこがいいの。」聞かずには居られなかった。だが不思議と嫉妬は無かった。
最初に見た瞬間わかった。彼が変わったのを。『誓い』の相手と共に纏う気配が、その匂いが、とてつもなく幸福な気配が、彼が幸せであることを示していたから。
けれど、どうやって彼が変わったのかは興味があって、リオの反応を見てみようと思った。
「どこ…と言われてもわからないが。ここに居ればリオの生死はわかる。繋がっているからな。」そう言うとウリセスは右手を出す。その上に小さな花が現れた。
「!」水の花弁だ。水で構成されたそれは小さく、けれど可愛らしい八重の花だった。
「リオは必ずやり遂げる…私はそれを信じている。」ウリセスはそう言うと花に向かって微笑んだ。シェフィールはその顔を見ているのが何故だか悔しくて、そのまま背を向けた。
そのままずんずん数分歩いてから止まって、
「………ふっ。ふふふ」思わず笑い出した。
「何だ、気持悪い。」背景から聞こえた声に笑いかける。
「だって…本当に、あなたの言った通りだったのだもの…大型ワンコって…ほんと…、くるしっ…」シェフィールはそれまですましていた顔を崩して笑う。
「ああ、あれか。」
「……顔色、悪いわよ。」シェフィールはそっと手を伸ばす。男の黒髪に。
「仕方ないだろう。電池が無いんだ。三日も充電できないんじゃ、間接に充電するしかないな。」そう言って笑った顔もいつもより青白い。
「ねぇヒロキ、あなたと同じように彼女を扱ったけれど、良かったの?」
「いいんだ。何でも与えられるものだけに慣れているからな。どんな状況でも戦えなくては意味が無い。だいたい、俺の時なんかもっと酷かっただろう。」
「それはあなたがこの宮殿を敵にまわし…もう、昔の事なのね。」
「ああ。昔だな。」そう言うとヒロキー初代はシェフィールの隣をすり抜ける。
「どこへ?」
「言っただろう?間接に充電するって。」そう言うと勝手知ったるようにすり抜けて行った。
「ほんと…風のように自由な人間…」ポツリとシェフィールのつぶやきが廊下にこだました。
本当はもっと三角関係とか書きたかったんですが。
物語の都合上後にしようかと思ってます。




